「お伊勢参り」日本初のツアー&団体旅行?!
江戸時代に庶民の間で一大ブームとなったお伊勢参り。〝伊勢に行きたい伊勢路が見たいせめて一生に一度でも〞と伊勢音頭でもうたわれているように、お伊勢参りは、日本人の誰もが憧れる一生に一度の大イベントでした。
誰もが憧れた、人生に一度の夢の旅
天皇が幣帛(へいはく)をお供えし、国家安寧などを祈る場である伊勢神宮ではもともと、〝私幣禁断〞といって、天皇の許しがなければ皇族や貴族であっても私幣をお供えすることはできなかった。そのため、参拝できるのも勅使や斎王(さいおう・伊勢神宮に奉仕する未婚の内親王)など、限られた者のみ。この私幣禁断は原則として現代まで受け継がれているが、参拝については、中世末期頃から庶民にも許されるようになった。
実際に庶民の間でお伊勢参りがブームになるのは江戸時代に入ってからのこと。戦国時代に中断していた式年遷宮が復興して注目がおんし集まったことや、御師(おんし)と呼ばれる伊勢神宮の神職たち自らが地方に足を運んで伊勢神宮のありがたさを説いて回ったことなどが功を奏し、全国各地から大勢の人が足を運んだ。平和な世の中になり、五街道をはじめとする交通網が整備されたことも大きかった。当時の日本人の人に人は伊勢神宮へ足を運んだという記録も残る。
仲間うち、ご近所さん、同僚など、参宮は数人のグループで出掛けることが多かった。人生に一度きりの大旅行という覚悟で出掛けている彼らにとって、伊勢神宮だけでなく、道中にある観光名所やさまざまな寺社に立ち寄ることも旅の醍醐味だった。彼らは十返舎一九(じゅっぺんしゃいっく)の『東海道中膝栗毛』や人から聞いた土産話を旅のガイドブック代わりに、御師が手厚くもてなしてくれる伊勢を目指した。
旅行代理店の担当者が旅先の素晴らしさを伝え、仲間で声をかけあっていざ旅へ。旅先では地元で待つ家族やご近所へのお土産を買い集め、土産話とともに家へ戻る。そんな現代のツアーや団体旅行のさきがけともいえる旅、それがお伊勢参りだった。
text:Miyu Narita illustration:Jun Haneda(direction),Yoshitaka Sato specialthanks:Haruo Sakurai
2017年 別冊「伊勢神宮と出雲大社」