HOTEL

落ち鮎を求めて鮎自慢の宿へ「和田屋」

2020.8.6
落ち鮎を求めて鮎自慢の宿へ「和田屋」

日本の旬の味を追いかけて、宿選びをするのも、大人ならではの愉しみ。旨い鮎をとことん味わいたい。そんな思いを胸に、料理自慢の宿を訪れた。

忘れられない鮎に再会しに「和田屋」へ

焼きたての川魚を食べてもらいたい、と4代目が部屋に囲炉裏をしつらえるスタイルを確立。手取川周辺で釣り師が採ってきた鮎を一日生簀に入れ、砂を吐かせて焼く。料理長自ら丁寧に焼いた鮎は、しっとりとした焼き上がり

旬の魚介と言えば、大抵は海の幸ということになり、それは冬の河豚や蟹だったり、あるいは初鰹や桜鯛といった、季語にもなるような粋な呼び名がついていたりもする。いずれにせよ、四方を海に囲まれ、北から南へ、長く伸びる日本列島では、四季の細やかな移ろいとともに、豊穣な海の幸の旬を味わうことができる。

しかしそれは何も海に限ったことではなく、川の幸とて、季節によって、その味わいが大きく異なるのである。日本の川魚を代表する鮎がその典型。俗に出世魚と呼ばれる、海の魚は別として、その成長の度合いによって、名前を変える魚は鮎くらいのものではないだろうか。

長い冬が終わり、水温む春先、生まれて間もない稚鮎からはじまり、初夏ともなれば、少し成長して若鮎と呼ばれ、夏の盛りの鮎を過ぎ越して、やがて晩夏から秋には落ち鮎となる。落ち鮎の中には子を持つものも居て、独特の食感も相まって、鮎好きには堪えられない味わいをたたえる。

まるで人の一生と同じような道筋をたどる鮎の一生は一年。それゆえ年魚とも呼ばれる。稚鮎から落ち鮎まで、それぞれに味が異なり、それぞれを味わい分ける愉しみもあるのだ。

和田屋で焼きたての鮎を

焼いた鮎をのせて土鍋で炊き上げた、和田屋の鮎御飯。一緒に炊かれた青海苔が風味を増してくれる

さらに言えば、鮎が棲んでいた川によっても、その味は歴然たる違いを見せる。川底に沈む石に付く苔。鮎はこれを食べるから、当然のことながら、その苔のよし悪しが鮎の味を左右する。

透き通るような清流と、澱み切った濁川の、どちらがよい苔が育つか一目瞭然だろう。そんな清らかな流れが何処にあるかと言うと、それは当然のことながら、山深い里にある。

海から離れ、少しずつ山に分け入ってゆく。広い川幅が徐々に狭くなり、流れも急峻になる。ゴツゴツとした岩が目立つようになれば、そこにはきっと、口を尖らせた鮎が泳ぎ回っているはずだ。

鮎は川底の石に付いた苔を食べる。しかしながら、石にこびり付いた苔は、そう安々と剥がれるものではない。手も足もない鮎は、口だけで懸命に苔をこそげ取る。石と石の間に付く苔を取るために、自然と鮎の口先が尖ってくる。鋭い顔つきで、口が尖っていれば、美味しい苔を食べて来た証。無論のこと、そんな鮎は旨い。

その鮎をどう料理するか。さまざまに愉しみ方はあるが、多くの料理人が真っ先に挙げるのは塩焼きである。活き鮎に串を打ち、塩を振って炭火で焼く。言ってみれば、ただそれだけのこと。これぞまさにシンプル・イズ・ベストなのだが、単純な料理ゆえ、吟味した素材と、熟達の技が決め手になる。

先付・前菜。イチジクと鴨ロース利休味噌掛け、ゴリ唐揚げ、鰻印籠煮、白山固豆腐味噌漬けなど

20年以上も前のこと。客室にしつらえられた囲炉裏で、板前さんが鮎を焼いてくれる宿があると聞いて、一も二もなく出掛け、その鮎の旨さに感動した瞬間は、いまも忘れることがない。

宿の名を「和田屋」といい、北陸は銘酒の里、鶴来の近くにある。その宿は、全国白山神社の総本山、白山比咩神社の門前に建っていて、二階の客室から鳥居が目の前に見えるほどの近さ。そんな厳かな場所にある宿だが、旨いモノを供することに、いささかのためらいもない。

いぶし銀の宿で味わう、焼き鮎

長い時を経て、囲炉裏端で鮎と再び相まみえる喜び。社と地続きになった石段を下り、秋風にはためく暖簾を潜る。大仰な仕掛けなど一切なく、こぢんまりした帳場で鍵を受け取る。

昔ながらの建築は木造の二階屋。変わらぬ佇まいが好ましい。歩くとギシギシと音を立てる廊下も、20年前と大きくは変わっていない。僕には懐かしさを新鮮に感じるが、はじめて訪れたとしても、同じ感懐を得られるに違いない。時を重ねて、いぶし銀のように鈍い輝きを増す宿。

温泉では無いが、たっぷりと薬草を使った風呂は、じわじわと身体を温め、その時に備え、お膳立てを整える。どっしりと重厚な空気が漂う部屋では、頃合いを計らって、囲炉裏に火が熾され、塩焼き鮎の支度がはじまる。冬の火は恋しいが、晩夏の火は疎まれる。それでも旨い鮎を食べられると思えば、火もまた涼し。

椀物。イワナを素揚げにし、加賀太キュウリとともにすまし汁に仕立てた。柚子を添えて

食べることは、命をいただくこと。

鉄串に刺された活け鮎が、板前の手で火に炙られる。熱に身をくねらせ、苦しげに顔を歪める。たびたび鮎の向きを変え、焼き加減を調整する。やがて命の果てを悟ったのか、踊ることを諦め覚悟を決める。その時を逃さず、串から外された鮎が客の前に出される。

食べること。それは即ち、命をいただくこと。定めを実感しながらも、旨いものは旨い。熱々ほくほく。胡瓜のような香りとよく言われるが、身を口に入れると、草いきれと同じ、青い匂いが舌の上から鼻に抜けていく。ほろ苦い腸は、いつの間にか甘みに変わり、これが鮎の味だと、自ら言い張っているようだ。

手取川をはじめとして、この宿の近くには、多くの清流が弧を描きながら、海へとその流れを向けている。岩底にはきっと旨い苔が付いているのだろう。鋭い顔つきの鮎、頭からかじりつくと、川底近くの流れが思い浮かんだ。

鮎の余韻を味わうに、格好のスペースがあって、それは大浴場の近くに隠されている。蔵書の頁を繰るもよし、縁側に腰掛けて、ぼんやりと庭を眺めるのもいい。夜更けて味わいの深まる宿である。

お造り。ゴリとイワナの洗い。コリコリとした歯ごたえのゴリはわさび醤油で、イワナは梅肉醤油で

名宿の美食をお取り寄せ!

「和田屋」で振る舞われる料理の一部を、Discover Japan公式オンラインショップにて販売中! 気軽に自宅にいながら、ちょっとした贅沢と旅気分が味わえます。

一番人気の鱒の山椒煮


≫鱒山椒煮 (3匹入り)

創業当初からの定番
≫きゃらぶき(100g)

春の訪れを知らせてくれる「ふきのとう」
≫ふきのとう味噌(100g)

和多屋オリジナルの爽やかな生姜だれ
≫和風だれ(生姜・120ml)

柚子の風味が料理を引き立てる和風だれ
≫和風だれ(柚子・120ml)

和田屋オリジナルの和風だれ
≫和風だれ(梅・120ml)

梅の香りが食材を引き立てる、和多屋自慢の料理酢
≫料理酢「す」 (280ml)

和田屋
住所|石川県白山市三宮町イ55-2
Tel|076-272-0570(9:00 ~ 21:00)
客室数|7室
料金|1泊2食付2万3760円、2万7000円、3万240円(税・サ別)
カード|AMEX、DINERS、JCB、MASTER、VISAなど
チェックイン|15:00
チェックアウト|11:00
夕食|和食(部屋食)
朝食|和食(部屋食または広間での相席)
アクセス|車/北陸自動車道金沢西ICから約30分
電車/東京駅から金沢駅まで2時間半。JR金沢駅からタクシーで
約30分、または北陸鉄道鶴来駅からタクシーで約5分
飛行機/小松空港から車で約30分
インターネット|なし
施設|ロビー、休憩休憩室、甘味処
www.tsurugi-wataya.co.jp

text : Hisashi Kashiwai photo : Ko Miyaji
2015年「ニッポンの一流ホテル&名宿」

石川のオススメ記事

中部エリアのオススメ記事

メールマガジン購読