FOOD

SHÓKUDŌ YArn |ショクドウ ヤーン
小松の楽しいレストラン【前編】
犬養裕美子のディスカバー ベスト・レストラン

2020.6.3
SHÓKUDŌ YArn |ショクドウ ヤーン<br>小松の楽しいレストラン【前編】<br><small>犬養裕美子のディスカバー ベスト・レストラン</small>

超有名ではないけれど、イチオシの“期待の星”を探して、ニッポンをめぐります!今回は、ジャンルを超えたユニークな表現が魅力の石川県小松市のレストラン「SHÓKUDŌ YArn(ショクドウ ヤーン)」を前後編記事でご紹介します。

犬養 裕美子(いぬかい・ゆみこ)
東京を中心に世界のレストラン事情を最前線で取材する。新しい店はもちろん、実力派シェフたちの世界での活躍もレポート。また、日本国内各地にアンテナを張り、料理や食文化を取材。農林水産省表彰制度「料理マスターズ」審査員

シェフ 米田裕二(よねだ・ゆうじ)
1976年石川県生まれ。国立金沢大学理学部卒業。2000年10月イタリアへ。5店を経て2006年スペインへ。イタリアとスペインのレストランで魚・肉部門に所属したのち、スペインのレストランで部門シェフを務め帰国。その後石川県の日本料理店で調理長を務め、2015年に亜佐美さんと「SHÓKUDŌ YArn」をオープン

パティシエール・マダム 米田亜佐美(よねだ・あさみ)
1976年石川県生まれ。北里大学医療衛生学部卒業。医療機関に作業療法士として勤務後、2003年にイタリアに渡り、裕二さんと合流。その後もイタリア・スペインでのキャリアを裕二さんとともに積み、帰国後は菓子店やベーカリーで働きながら3人の子どもを育てる。2015年、裕二さんと「SHÓKUDŌ YArn」をオープン

シェフと亜佐美さんの息もぴったり合って細かい盛りつけも完璧。開店時間までドアは開かない

シェフの仕事を語るひと皿
The Only WAN with not matsu only

椀だねは削った松茸を使った真丈。香りをより強調するために行き着いた技法だが「松茸を削るという使い方は和食では絶対にしません」。「ヤーン」ならではの発想が新しいスタイルを生み出す。

削りたてのマグロ節で出汁をひき、菊姫の大吟醸をスポイトで数滴プラス。出汁をテイスティンググラスで楽しむ。1人前のサイフォンを使い出汁に松茸の風味づけ。いま一度テイスティンググラスで味見した後、お椀に注いで出来上がり

SHÓKUDŌ YArn
夜のコース全皿紹介・前編

これはいったい何料理なのか? ジャンルを越えた表現がゲストを感動させる。楽しい、そして美味しい。単純なようで、その奥にはキラリと知性が感じられる。来るたびに新しい謎に問われる。それが「YArn」の魅力。

能登ヒバかほり箸

石川県の県木である档(アテ)の木(能登ヒバ)を使った箸。資源再利用のプロジェクトとして、箸に加工。抗菌、消臭などの作用もあり。使用後はもちろん持ち帰って使える。

抹ヒート+“Nerikiri” & Jamon

金沢の東山にある米沢緑翠園詰の「臥竜山」の濃茶にジンジャーエール、ミント、ライムで抹ヒート。季節ごとに1回メニューが替わる。イベリコベジョータの生ハム2種と抹茶の奥深い世界へ!

本日の付きだし
能登牛A5の牛すじ with Dashipresso

牛すじのアイスクリームに温かいソースをかけるアッフォガートのような料理。本枯節と羅臼昆布でハンディエスプレッソマシーンを使いクリーミーな泡の出汁を抽出。

とてもごまったSchiacciatina

Schiacciatinaとは、イタリア・ロンバルディア州のパン。貴重な国産黒ゴマをたっぷり使ったオリジナル。小松の黒ゴマの生産者・田淵さんから採れた分をすべて買い取っている。

南瓜の炊いたん

型は、おなじみの板チョコ。カボチャの緑の皮と黄色の身の部分もしっかり蒸して、カカオバターを混ぜ濃口醤油・砂糖・本みりんで味つけ別々につぶして型抜きしたもの。

玄米茶とおにくるみ

金沢産の最中の皮の中に粗びきコショウを混ぜ込んだ特注品に能登豚のあらびきに加賀の丸八製茶場の玄米茶パウダー、クルミを入れ焼いたもの。

Are you wild

網捕りの地物活天然鮎を素揚げにする。活鮎のためしっかりとヒレが広がり皿の上に立つ。白いクリーム状のものはニンニクと自家栽培のハッカを混ぜたアイヨリソース。

重いガストロノミーより軽いクリエーション

テーブルの上には「能登ヒバかほり箸」がセットされている。食事はここからスタート。「箸は食べるものではありませんが、この香りを感じながら3時間を楽しんでください」という店からのメッセージだ。続いて「抹ヒート+Nerikiri”&Jamon」。マダムでパティシエールの米田亜佐美さんがテーブルまで来て、ジンジャーエール、ミント、ライムを搾ったモヒート仕立てのお抹茶を一人一人に点てていく。一緒に出てくるのは、イチジクを包んだ石川県産のもち粉の練り切りと、イベリコ豚の生ハム。お茶席のまねごとみたいで笑っちゃうけど、抹ヒートは思いのほか爽やかだし、練り切りの甘さと生ハムの香ばしい塩味にもよく合う。

友人から「小松におもしろい店がある」と紹介されて来てみたら、たちまちファンになってしまった。その魅力は、第一にプレゼンテーションのおもしろさ。第二に練りに練られたネーミング。そして、地元の素材や工芸品を取り入れているローカル主義。ここで体験する料理は「どうだスゴイだろう」と声高にガストロノミーをうたうのではなく、「ちょっとおもしろいでしょ」と控えめにささやいてくるさりげなさが粋。オーナー夫妻のキャリアは、通常とはまったく違う。

高校の同級生だった米田裕二オーナーシェフとパティシエールの妻・亜佐美さんは、大学こそ別の学校に進学したが、卒業後は店をもつためにそれぞれ準備をはじめる(二人とも理系の大学を卒業しながら料理の道に進むとは!)。裕二シェフはイタリアに渡り星付きレストランに入る。3年ほどたったところで亜佐美さんも渡伊。2006年からは現代料理で世界最先端のスペインに移り経験をつんだ。

2007年に帰国後、米田シェフは日本料理を年(これも意外な経歴、フグ処理資格も取得)、亜佐美さんは菓子店やパン店で働きながら3人の子どもを育てたという。そして2015年8月に、満を持して「ショクドウ ヤーン」をオープンさせた。

この不思議な店名は、〝糸、撚り糸〞という意味。小松駅から車で10分ほどのここ吉竹町は、戦前は撚糸工場が多く建ち並んでいた地域。この店もそんな撚糸工場の倉庫(亜佐美さんの実家)をリノベーションしたもの。三角屋根の一軒家は、正面に窓がないから中の様子はうかがい知れない。ところが中に入るとガラスで仕切られた空間が3室。奥の厨房まで見渡せる。まるで理科の実験室のよう。この中で二人は、自由に考え表現する。二人が目指すものは何か? 次回はその思いに迫りたい。

 

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SHÓKUDŌ YArn
住所|石川県小松市吉竹町1-37-1

Tel|0761-58-1058
営業時間|火〜日曜12:00〜15:00(L.O.13:00)
月〜土曜18:00〜19:30(L.O.)

定休日|第1・2・4・5日曜、月曜の昼
料金|昼:5000円、1万円(日曜のみ)
夜:8000円、1万3000円
(すべて税・サ別)
席数|ダイニング:12席 個室:1(6席)

http://shokudo-yarn.com

text:Yumiko Inukai photo:Muneaki Maeda
Discover Japan 2018年1月号『ニッポンの酒 最前線!』


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