FOOD

フグ食文化の真実を知る。
大分県臼杵市「山田屋 臼杵本店」

2019.12.26
フグ食文化の真実を知る。<br><b>大分県臼杵市「山田屋 臼杵本店」</b>
テーブルの上が一気に華やぐ「山田屋臼木本店」のふぐ刺し。ふぐの身の美しさと、包丁の技術が織りなす芸術作品

どんな小さな店でも、どんな辺鄙な場所でも、「ホンモノ」であれば、必ず人は引き寄せられる。レストランジャーナリスト・犬養裕美子さんの《新・ニッポンのレストラン名鑑》。第3回はフグ料理の老舗「山田屋 臼杵本店」を紹介する。

いぬかい・ゆみこ
東京を中心に世界のレストラン事情を最前線で取材する。新しい店はもちろん、実力派シェフたちの世界での活躍もレポート。また、日本国内各地にアンテナを張り、料理や食文化を取材。農林水産省表彰制度「料理マスターズ」審査員。

ホンモノは産地に行ってこそ味わえる

天然と養殖の見分け方で、わかりやすいのは歯。天然には写真のように鋭い歯がある。生簀で育つ養殖フグは他のフグを噛まないよう、歯を切る

フグの産地は山口県下関市が広く知られているが、平成23〜27年までの5年間は、石川県が漁獲量トップ。平成28年には北海道が1位になっている。いっぽう養殖では長崎県が全国1位と、各地で競い合っている。

そんな中で、フグ好きから不動の支持を得ているのが大分県の臼杵だ。フグの王さまといわれるトラフグの漁場・豊後水道に隣接しているという恵まれたロケーションのおかげで、美味しいフグを安く楽しめるからだ。

山田屋のフグ刺し。身を厚めに引くのは、何より旨みを重視しているから。鮮度のいい天然は、薄く引くと身が縮んでしまう

東京生まれの私は、実はフグの魅力がいまひとつわからなかった。薄造りは美しいが、味も薄く感じる。コリコリした食感も食感だけのように感じた。ただ、いろいろな場所で味わってようやくわかってきた。やはり、フグは西の食文化。フグ好きがなぜわざわざ産地で食べるのか。その理由は長い時間をかけて確立した、素材の選び方、調理法で味わえるからだ。

臼杵市のフグ専門店は大小合わせて20店。ほとんどの店が仲卸の「木梨ふぐ」から仕入れているという。毎年4月1日〜8月20日までは禁漁となるが、養殖の質が向上し、年を通して美味しいフグが楽しめるという。しかも値段は天然の半値以下。これから春を迎えるが、春のフグもまた、晴れやかな宴席にふさわしい。

美味しいフグはここにある!

唐揚げ。衣を付けて揚げる唐揚げ。ただし「山田屋」の衣は独特。薄く香ばしく、パリパリに揚がる。衣がしっかりと旨みをくるんでいるので、口の中でジュワーとフグの味が広がる。衣そのものの味にも注目

私が「山田屋 臼杵店」にはじめてうかがったのは、1年前、地元の食いしん坊の知人に案内されてだった。「山田屋」の名前は、東京でもよく知られている。「山田屋 東京西麻布店」はミシュランの三ツ星を9年連続で獲得しているからだ。

その本店は1905(明治38)年に鮮魚店として創業し、昭和初期に入って2代目がフグを中心とした日本料理店をスタート。3代目、4代目はその思いを引き継ぎ、大分市、東京の西麻布と丸の内にも支店を出店した。

そんな名店で、どんなフグを味わえるのだろう。知人の「天然を用意してくれているけど、こればっかりは個体差があるから」。のひと言に期待でお腹が膨らんだ気がした。

フグちり。フグの旨みをすべて味わう第1段階が、鍋。ぶつ切りのフグはアラとサエズリ(運がよければ)。そのほか豆腐、ネギ、春菊、白菜、エノキ。すaべてを味わってから、いったん鍋を調理場に下げて雑炊に

料亭らしい店構えに一瞬、緊張したが、落ち着いた雰囲気の個室と、仲居さんの接客が親しみやすい。コースは前菜、フグ刺し、唐揚げ、フグちりと進む。前菜の中に鶏のガランティーヌなどフレンチの一品が入っていたり、春巻き風の唐揚げだったり。料理としての工夫に富んでいる。少し厚めのフグ刺しは、かみ締めると旨みが広がる。

最後の雑炊がまた、素晴らしかった。鍋のスープにはフグの旨みがすべて出ているようだった。いったん厨房に下げられ、スープを濾して、ご飯を入れてから火を止め、溶き卵を回し入れてかき混ぜる。見た目には溶き卵の雑炊のようだが、口に含むとフグの香ばしさと繊細な溶き卵の食感がなんとも洗練された一品に仕上がっていた。

「今日は上物だったね」。いいときもあれば悪いときもある。それが天然の証しでもある。

雑炊。鍋のスープを濾して、そこにご飯を入れて混ぜ、全体にふわっと沸かせ、温まったところで火を止め、溶き卵を入れて静かに細かく混ぜる。卵とご飯粒が同じ大きさに揃った繊細な雑炊は、ここならでは!

4代目女将・山田喜美代さんによれば、養殖と天然の違いはとても微妙で、何度も両方を食べ比べてはじめて違いがわかるという。

「あるとき、天然を召し上がったお客さまが、もう少し食べたいとおっしゃいました。あいにくご用意できるのは養殖しかなかったので、ご説明してお出ししたら、『同時に食べて比べなければその差はわからないかもしれないね』と驚かれていました。天然も養殖もそれぞれのよさがありますね」。

手頃な値段の養殖から高額な天然までさまざまなランクのフグがある。産地でホンモノを味わう意味とは、その価値が理解できるようになること。それが食を文化として後世に伝えることになるのではないだろうか。

山田屋 臼杵本店(やまだや うすきほんてん)
住所:大分県臼杵市大字臼杵港町本通り5
Tel:0972-62-9145
営業時間:11:30〜13:30(L.O.)、17:00~19:30(L.O.)
定休日:不定休
料金:昼限定 ふぐミニコース7000円 夜 ふぐコース1万1000円、1万2000円、1万5000円
www.usukifugu-yamadaya.jp

文=犬養裕美子 写真=前田宗晃

2019年3月号 特集「暮しが仕事。仕事が暮し。」

《新・ニッポンのレストラン名鑑》
1|石川・能登の最高の食材を求めて。石川県金沢市「片折」
2|一年に一度、越前がにを食べに行く理由。福井県福井市「開花亭」
3|フグ食文化の真実を知る。大分県臼杵市「山田屋 臼杵本店」
4|漁師から料理人へ、無欲の料理が心に響く。宮崎県延岡市「きたうら善漁。」
5|10年かけて完成した理想の店。山梨県北杜市「八ヶ岳えさき」
6|総料理長が直接腕を振るうホテル内のレストラン。神奈川県足柄下郡「ベルス」
7|米、酒、料理……発酵で紡ぐ食の遠野物語。岩手県遠野市「とおの屋 要」
8|小さな村で実証する地産地消の最終地点。岩手県田野畑村「ロレオール田野畑」
9|弘前で再現されるリアルイタリアンライフ。青森県弘前市「オステリアエノテカ ダ・サスィーノ」
10|せせらぎに癒されながらフレンチとワインを楽しむ。青森県十和田市「Sonore」
11|文化を受け継ぐ蔵屋敷で畑と直結のフレンチを味わう。長野県松本市「ヒカリヤ ニシ」