石川県《陶窯田村》
一子相伝の九谷焼×古典文学
2024年3月に北陸新幹線が延伸し、注目を集めている石川県小松市。九谷焼に極細の毛筆で古典文学を描く技法「九谷毛筆細字」を受け継ぐ「陶窯田村」の4代目・田村星都さんが守り続けるクラフトマンシップとは?
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100年以上続く、毛筆細字技法!
「あかねさす紫野行き標野行き野守はみずや君が袖振る」。可憐な赤絵の花器に、流麗な文字で描かれた万葉集の和歌。極細の毛筆で和歌などの古典文学を磁器に描き込むこの技法は「九谷毛筆細字」と呼ばれる。九谷焼全盛期の明治期に、九谷焼の繊細な柄付けに合う表現として生まれ、より細かく美しい細字を追求して構築されたという。
「作品は和歌から着想し、歌のテーマとリンクした絵付けやうつわが多いです。万葉仮名の書としての美しさだけでなく、全体的に調和が取れていて、『文字があるからこそ美しくなる』デザインを大切にしています」と話す星都さんは、20代で3代目である父・敬星さんに師事。長い期間研鑽を積み、現在はろくろで成形し、上絵付け、毛筆細字まですべて一人で手掛けている。わずか数㎜の文字で一行に一首、まっすぐに整然と古今和歌集の和歌がつづられた香炉、傾けたときに内側に描かれた万葉仮名が姿を現す洋杯など驚異的な技巧は神業と称され、現代的な感性で伝統に新たな風を吹き込んでいる。
「九谷焼は、ほかの産地に比べて多様性があるのも魅力。そして伝統を守るだけでなく外から来る人も受け入れ、惜しみなく技術を提供する懐の深さがあるので進化を続けています。その中で技術を高め、誰もたどり着いていない表現を突き詰めていきたいです」
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陶窯田村
住所|石川県小松市高堂町イ53
Tel|0761-22-6767
見学|可(要相談)
http://tamuraseito.com
text: Ryosuke Fujitani photo: Norihito Suzuki illust: Fumiaki Muto
2024年4月号「日本再発見の旅」