宮城県・東鳴子温泉《旅館大沼》
現代版の湯治ができる宿
|温泉ビューティ研究家・石井宏子が選ぶ
保養スタイル別温泉宿⑤
「ゆるりと心身を癒してくれる温泉宿」をテーマに、温泉ビューティ研究家・石井宏子さんが選ぶ保養スタイル別温泉宿を紹介。温泉滞在は連泊してこそ。移動の心配がない「自由な丸一日」ができ、温泉をゆっくり堪能できる。ゆとりがあると心も身体も喜ぶし、旅の楽しみ方が多角的に変わっていく。
今回は、快適な環境で仕事をしながらの連泊滞在ができる宮城県・東鳴子温泉の「旅館大沼」を紹介する。
温泉も仕事も! 現代湯治がかなう
元祖現代湯治の宿はリニューアルを重ね、2023年にさらなる変貌を遂げた。木造本館の旅館部を全室改装、地元の木をあしらったナチュラルな雰囲気となり、全館高速Wi-Fiで椅子とテーブルがある部屋も増えて、仕事をしながらの連泊滞在がさらに快適に。大胆な発想に思わず歓声を上げてしまったのが湯治館最上階の「401」。この階にはほかに客室がなく、廊下の洗面・トイレやふたつの貸切温泉はまるで自分専用のような気分だし、こもりたくなる湯治ペントハウスだ。
5代目湯守の大沼伸治さんは20年以上も前から現代湯治を提唱していて「現代湯治は2泊3日から」と言う。心身をととのえていくには1泊では足りない。2泊目の中日を「白の時間」と呼び、このゆとりが重要だという。繰り返し温泉に浸かり、脳のスイッチをオフにして心身をゆっくり休眠させていくと、1泊目より2泊目のほうが深く良質な睡眠が得られる。そんな実証実験も試みている。
温泉旅館と湯治場のふたつの世界を駆使してハイブリッドな滞在ができることも魅力。ヘルシーな食事からご褒美料理まで選べる食事がある一方、自炊キッチンがあり道具も家電も揃っている。素泊まりにして「暮らす気分」で自炊してもいいし、鳴子温泉街で総菜を買ってきてご飯と味噌汁だけの注文もできる。徒歩圏内にスーパーや食材の店もあって、JR陸羽東線で2駅乗れば人気の道の駅もあるので、朝夕は旅館の食事、昼は道の駅の野菜を買ってきて自炊という滞在も楽しくて、何日でもいられそう。
玄関に「婦人名湯」の看板がある。赤湯と呼ばれる自家源泉はナトリウム–炭酸水素塩泉で重曹成分の純度が高い。紅茶色の湯で植物由来のモールを含み、木材のような癒しの香り。肌の古い角質が落ちてすべすべ、植物成分で潤い補給もできて、うっとりするほどつやピカになる。もう1本の源泉はナトリウム–炭酸水素塩・塩化物泉で、身体の芯まで温まる温泉。大浴場の薬師千人風呂や庭園貸切露天風呂などで入れる。
<温泉data>
泉質|ナトリウム-炭酸水素塩泉、ナトリウム-炭酸水素塩・塩化物泉
湧出温度|ナトリウム-炭酸水素塩泉 約64.9℃、ナトリウム-炭酸水素塩・塩化物泉 約66.4℃
かけ流し|〇
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《国民宿舎 箱根太陽山荘》
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旅館大沼
住所|宮城県大崎市鳴子温泉字赤湯34
Tel|0229-83-3052
料金|1泊2食付1万7600円〜(税・サ込) ※本館トイレ付の客室利用の場合
IN|15:00
OUT|11:00
キッチン〇/ランドリー〇/Wi-Fi〇/送迎×
《保養スタイル別温泉宿》
01|北海道・旭岳温泉《湯元 湧駒荘》
02|青森県・酸ヶ湯温泉《酸ヶ湯温泉旅館》
03|宮城県・川渡温泉《山ふところの宿 みやま》
04|栃木県・板室温泉《大黒屋》
05|宮城県・東鳴子温泉《旅館大沼》
06|神奈川県・強羅温泉《国民宿舎 箱根太陽山荘》
07|新潟県・栃尾又温泉《自在館》
08|新潟県・村杉温泉《角屋旅館》
09|大分県・長湯温泉《大丸旅館》
10|大分県・鉄輪温泉《湯治柳屋》
text: Hiroko Ishii
Discover Japan 2024年2月号「人生に効く温泉」