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シンスケ 湯島/居酒屋【後編】
《粋に呑みたい江戸の酒》

2023.1.29
シンスケ 湯島/居酒屋【後編】<br><small>《粋に呑みたい江戸の酒》</small>

昔もいまも、酒は浮世の憂いを払い、心をゆるめるためにもいいものだ。そして酒は粋に呑みたいもの。東京・下町には、江戸の流れをくむ呑み方がある。酒場に通うマッキー牧元さん、江戸料理家のうすいはなこさんが愛する粋な店とは。

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1805年に酒屋として創業し、関東大震災後に居酒屋に転向して間もなく100年。当代の矢部直治さんが30歳で店を継いだとき、ここは湯島天神のお膝元ということをあらためて意識したという。江戸のルーツがあり講談高座発祥の地。花街の残り香がある。店には昔から息づく雰囲気が流れている。
 
「シンスケは盛りつけに心が込められている」とはマッキーさん。「ご主人いわく、ここは料理屋ではなく居酒屋。いわば銭湯を目指しているそうです。余計なことや華美なことはせず、庶民の心に寄り添う。でもきちんと整っているというのが大事で、それは江戸っ子の心意気に通じると思います」 
 
仕事場と自宅の中間にあって、銭湯が身体をさっぱりさせる場所だとしたら、居酒屋はゆっくりと心をゆるめる場所だと矢部さん。湯島には落語の寄席がたくさんあって、昼の公演が終わるのが15時半頃。その流れで一杯呑みたいという方たちのために、店の開店時間を16時に繰り上げたという。
 
酒は、酒屋時代からのご縁で秋田の「両関」ひと筋。秋風が吹くと樽酒が入り、「樽酒は精神のもみほぐし方が違う」と言うマッキーさんのような酒好きが集う。昭和の初め頃、酒の量をごまかして売る居酒屋が増える中、まっとうに酒を量り売るべきだと、店名に「正一合の店」と添えた。
 
「シンスケは何を食べても美味しい」とうすいさんが絶賛する肴は、この地で昔から食べ継がれてきた料理をブラッシュアップさせたもの。加えて、お客とのコミュニケーションから生まれたメニューもある。場所柄、外国人客も多く、スイス人が土産にと持ってきたチーズを油揚げに挟んだ「きつねラクレット」、カボチャの食感が苦手だというアメリカ人とのやり取りから「かぼちゃのゴマ和え」などが生まれた。
 
シンスケの肴は一見そっけないが、実は香りや温度、テクスチャー、盛りつけに工夫を凝らし、丁寧な仕事の積み重ねで成り立っている。そんな心意気が、今日も呑んべえたちの足を向かわせる。

<古くて新しい、シンスケの肴10選>

江戸が東京に変わっても食べ続けられている食材や家庭の味を、新しい解釈で再構築。そのどれを取っても決して前に出ず、静かに酒に寄り添う。

にしんの山椒漬け 825円
乾物を見直し、会津若松の郷土料理をアレンジ。カチカチに干したニシンを戻して漬け込んでいるため、独特の歯応えと香りがある
里芋の竜田揚げ カラスミ添え 935円
出汁で煮た里芋を揚げ、カラスミとともに。魚卵の臭み取りにすり下ろしたカボスの皮を加えてある。ラディッシュを添えて
シンスケ風ポテトサラダ 770円
マヨネーズに頼らず甘酢ショウガを混ぜ込み、ニンジンの甘露煮、キュウリの一夜漬け、焦がし醤油味のベーコンと。酒に合う
鶏もつウスターソース煮 715円
2代目祖母のお総菜を、フレンチの技法で再構成。ともすればモソモソになりやすい鶏レバーの触感がクリーミーに
カボチャのゴマ和え 660円
水羊羹にヒントを得てつくったカボチャ寒の上部をキャラメリゼ。ゴマだれがよく合う。カボチャの種で食感をプラスして
きつねラクレット 1100円
スイス土産のラクレットを、納豆の包み焼きの納豆に代えて先代が即興でつくった一品。外はクリスピーで中はメルティ
ねぎぬた 825円
ぬたといえばねぎであり、江戸の味。本来は赤味噌だが、白味噌で軽さを出している。味噌をさらになめらかにする工夫も
塩納豆とイカの薬味仕立て 935円
こんなにきれいなイカ納豆はほかにないとマッキーさんが絶賛。納豆に塩昆布をからめてあり醤油要らず。薬味とすだちで
しゃけの焼漬け 825円
新潟・村上の郷土料理を新しい解釈で。サーモンの身は低温調理でソフトな火入れ。皮はパリパリ。新潟のかんずりを添えて
あじ酢 1430円
身の厚い鯵をさっと軽めに酢で締めた東京っ子好みの一品。キュウリ、ショウガ、ニンジンなどの取り合わせも見事

酒お品書き
【ビール】
キリン、サッポロ、ギネス 中瓶750円
 
【日本酒】
両関 本醸造、純米 1合660円
両関 大吟醸(シンスケ特注醸造)半合880円
両関 たる酒(10〜5月)1合715円
 
【ほか】
梅酒ロック グラス660円

読了ライン

お客を見ながら絶妙な加減で燗をつける矢部さん。きっちり正一合(180㎖)のとっくりに加え、日本古来の価値観を見直したいと、正二合半(450㎖)の「シブイチボトル」もつくった。シブイチとは一升の1/4を意味する酒屋言葉から

正一合の店 シンスケ
住所|東京都文京区湯島3-31-5
Tel|03-3832-0469 
営業時間|16:00〜20:30
定休日|日曜、祝日
www.shinsuketokyo.com

 

ひら井 本所吾妻橋/どじょう
 
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《粋に呑みたい江戸の酒》
1|シンスケ 湯島/居酒屋【前編】【後編】
2|どぜう ひら井 本所吾妻橋/どじょう
3|はち巻岡田/小料理屋
4|神田まつや/蕎麦
5|桜なべ中江/桜なべ

text: Yukie Masumoto photo: Kenji Itano
Discover Japan 2023年1月号「酒と肴のほろ酔い旅へ」

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