どぜう ひら井 本所吾妻橋/どじょう
《粋に呑みたい江戸の酒》
昔もいまも、酒は浮世の憂いを払い、心をゆるめるためにもいいものだ。そして酒は粋に呑みたいもの。東京・下町には、江戸の流れをくむ呑み方がある。酒場に通うマッキー牧元さん、江戸料理家のうすいはなこさんが愛する粋な店とは。
小鍋で呑むなら、どじょうが最適
鍋といえば落語にも数多く登場する。酒の肴なら小鍋仕立てのどじょう鍋、とマッキーさん。「頭と尾を落として中骨を抜いたぬき鍋もあるけど、僕は断然まる鍋です。甘辛い割下の味で、ゴボウとネギがどっさり入って。ネギをお代わりして食べるのが好きです」。
うすいさんは、「くりから焼」を食べてからどぜう鍋へ、という流れだそう。「酉の市の季節など、忙しさや寒さに負けぬよう、活力をつけたいときはどじょうでした。父は燗酒を飲んでいて、残った酒を鍋に入れるんです。子どもの頃はお酒入っているな、と思いながら食べたのを思い出します」。
江戸時代、どじょうは身近なタンパク源として庶民に親しまれてきた。東京のどじょう3名店に挙がる「ひら井」がこの地に店を構えたのは1903(明治36)年。主人は、いまとなっては貴重な国産の天然どじょうを使う。千葉や茨城、最近は青森や北海道でいいどじょうが捕れるそうだ。夏は腹に卵をもち、冬は泥の中に身を潜める。俳句で「掘る」とは冬の季語で、泥を掘り返せば、脂を蓄えたどじょうを楽に捕まえることができる。そんな季節の味があるのは天然ものならではだ。
生きたどじょうでないと臭みが出ると、火入れの直前に動き回るどじょうをまな板に目打ちし、研いで細くなった包丁でさっとさばく。カウンターでその様子を見ていると、どじょうが小さく「キュウ」となく。これは大事にいただかねばと思わずにいられない。
どぜう鍋は、小鍋にささがきゴボウを敷き、どじょうをのせ、割下を注いだ状態で運ばれてくる。卓上で火にかけて、くつくつと沸く頃には素材からいい出汁が出て、たっぷりのせたネギの香りと合わさっていく。
「どじょうなら、私はひら井。
昔もいまも、どぜう鍋は
江戸っ子が愛する肴です」
うすいはなこ
酒お品書き
【ビール】
瓶(アサヒ)大瓶760円
【日本酒】
玉乃光 純米吟醸 1合520円
菊正宗 本醸造 1合500円
読了ライン
どぜう ひら井
住所|東京都墨田区吾妻橋1-7-8
Tel|03-3622-7837
営業時間|11:30〜14:00、17:00〜21:00
定休日|日曜、月曜
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text: Yukie Masumoto photo: Kenji Itano
Discover Japan 2023年1月号「酒と肴のほろ酔い旅へ」