桜なべ中江/桜なべ
《粋に呑みたい江戸の酒》
昔もいまも、酒は浮世の憂いを払い、心をゆるめるためにもいいものだ。そして酒は粋に呑みたいもの。東京・下町には、江戸の流れをくむ呑み方がある。酒場に通うマッキー牧元さん、江戸料理家のうすいはなこさんが愛する粋な店とは。
江戸のすき焼きといえば桜肉
獣肉を食べることが禁止されていた江戸時代、庶民は桜肉、牡丹、紅葉といった隠語を使って肉を楽しんでいた。それぞれ馬肉、猪肉、鹿肉のことだ。明治に入ると肉食が解禁になり、文明開化とともに横浜で牛鍋が大流行する。「桜なべ中江」が位置するかつての吉原遊郭周辺では桜鍋が生まれた。一説には吉原でお金を使い果たし、自分が乗ってきた馬を近くの商家に売る人があったのがきっかけとも。明治の最盛期、吉原には数十軒の桜鍋の店ができた。1905(明治38)年創業の中江もそのひとつ。いまではたった一軒で、吉原生まれの東京の味を守っている。
「下町ですき焼きといえば、昔は桜肉が当たり前。うちではどじょう鍋が日常なのに対して、桜鍋は記念日に食べるものでした」とうすいさん。
中江で使う馬肉は、北海道で生まれ、九州・久留米で専用に飼育された純国産。馬刺しがメインの店では赤身が鮮やかな1〜2年で出荷されるが、中江では7〜8年をかけるため、身に旨みたっぷりの脂を蓄える。口にとろけるような軟らかさにも驚かされる。
鍋の中央に盛られた脂身の下に味噌だれが潜んでいて、これを割下に溶かしていただくのだが、この味噌だれは中江の初代が考案したもので、門外不出。桜肉は少し赤みが残るぐらいが一番美味しいと主人。ザクは肉を食べ終えてから鍋へ。肉の旨みが溶け込んだ汁が野菜や麩を美味しくする。
「ここの入れ込み式座敷で、一人、馬刺しやタルタルには目をくれず、はなから桜なべで、神亀の燗酒で鍋をつつくのがいい」とマッキーさん。歴史が香る建築で、甘い香りを放つ鍋を前に2代目が絵付けをしたというとっくりを傾ける。なんともいい時間が流れる。
「桜鍋といえば冬の季語。
脂を蓄える冬はひと際美味しいです」
うすいはなこ
酒お品書き
【ビール】
生(アサヒ) グラス780円
瓶(アサヒ) 中瓶780円
【日本酒】
神亀 特別純米酒 徳利(144㎖)1080円
田むら 純米吟醸 グラス980円
惣花 純米吟醸 グラス780円
菊泉 純米酒 グラス780円 ほか
【ほか】
焼酎(牟禮鶴、金黒) グラス750円
ハイボール グラス850円
梅酒 グラス600円 ほか
読了ライン
桜なべ中江
住所|東京都台東区日本堤1-9-2
Tel|03-3872-5398
営業時間|17:00〜22:00(土・日曜、祝日は11:30〜21:00)
定休日|月曜(祝日の場合は翌日休)
sakuranabe.com
text: Yukie Masumoto photo: Kenji Itano
Discover Japan 2023年1月号「酒と肴のほろ酔い旅へ」