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球磨焼酎を知る旅へ【前編】
焼酎の概念を変える?世界基準の酒はこう生まれる

2022.3.2
球磨焼酎を知る旅へ【前編】<br><small>焼酎の概念を変える?世界基準の酒はこう生まれる</small>

熊本県・人吉で500年以上造られ続けている球磨(くま)焼酎。いま各蔵元が取り組んでいる「球磨焼酎蔵ツーリズム」がおもしろい。個性豊かな球磨焼酎の蔵をめぐる旅に出掛けた。

球磨焼酎の多彩な味わいが、焼酎の常識を覆す

人吉市内にある大橋から望む球磨川。奥には鎌倉時代から人吉球磨地方を治めた相良(さがら)氏の居城・人吉城跡があり、国の史跡に指定されている

熊本県最南端に位置する人吉球磨地方。四方を囲む緑豊かな山々は清らかな球磨川を生み、盆地特有の寒暖差の激しい気候と相まって、この地域では米づくりが盛んに行われてきた。ここに目をつけたのが人吉を治めていた相良氏である。相良氏は藩を挙げて酒造りを奨励。それにより良質な米と水を生かした米焼酎が、室町時代からつくられるようになったという。

時は流れ人吉球磨地方の米焼酎はWTO(世界貿易機関)から「地理的表示の産地指定」を受け「球磨焼酎」というブランド酒になった。フランスの「Kura Master」や「東京ウイスキー&スピリッツコンペティション」で受賞をする蔵も多く国際的な評価も高い。

樽で焼酎を長期熟成させることで、味はまろやかになる。樽材はオークやシェリーなど蔵元によってさまざま。写真は深野酒造の樽貯蔵庫

球磨焼酎を名乗るには「原料は米に限る」、「人吉球磨地方の地下水でもろみを仕込む」、「人吉球磨地方で蒸留から瓶詰めまで行う」という主な条件があるが、同じ球磨焼酎といっても味のバリエーションは実に多彩だ。ではなぜこれほどまでに味の種類が豊富なのか。その背景には、麹づくり→一次仕込み→二次仕込み→蒸留→濾過→貯蔵・熟成→瓶詰めの流れを基本とする製造工程の中で、各蔵元のこだわりや技術などさまざまな要素がある。しかし「蒸留方法」と「熟成」が、ポイントであることは間違いないだろう。

蒸留方法には常圧蒸留と減圧蒸留があり、この違いだけでも風味は大きく異なる。常圧蒸留は高温で蒸留する伝統的な手法だ。原料の成分が多く抽出されるため、濃厚な香りと芳醇な味わいに仕上がり、長期熟成にも適している。減圧蒸留は1970年代前半に登場した蒸留方式。40℃ほどの低温で蒸留することで、淡麗な味わいとなる。また焼酎の新酒は非常に荒々しいので、貯蔵・熟成の工程は必須。ゆえに甕・樽・ホーローなどどんな素材のタンクで貯蔵し、何年間熟成させたかによっても、味の傾向は変わっていくのである。

人吉球磨地方には27の蔵元が点在し、それぞれが独自の焼酎造りを追求している。味わいの個性もさまざま。必ずや自分好みの球磨焼酎に出合えるだろう。

甕で焼酎を仕込む繊月酒造の蔵人たち。昭和初期の写真だとか
繊月酒造に展示されているかぶと釜式蒸留器の復元。江戸〜明治時代にはこの蒸留器が使用されていたという
球磨焼酎専門店「一期屋」の有料試飲コーナーではテイスティングシートも用意
「清流山水花 あゆの里」の球磨焼酎ラウンジ。約100種の球磨焼酎を揃え無料試飲も


 
いざ球磨焼酎蔵ツーリズムへ!
 
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text: Nao Ohmori photo: Atsushi Yamahira
2022年1月号「酒旅と冬旅へ。」

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