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「隈研吾展 新しい公共性をつくるためのネコの5原則」開催。これからの建築のヒントは、ネコの特性にあり?!

2021.6.1
「隈研吾展 新しい公共性をつくるためのネコの5原則」開催。これからの建築のヒントは、ネコの特性にあり?!
オドゥンパザル近代美術館(トルコ)2019 ©Erieta Attali

企画展「隈研吾展 新しい公共性をつくるためのネコの5原則」が、東京国立近代美術館にて、6月18日(金)〜9月26日(日)まで開催される。2020年11月から高知県立美術館や長崎県美術館で開催している巡回展で、隈作品の中から公共性の高い建築作品68件を紹介するほか、先端技術を用いた体験型展示、猫の視点から都市での生活を見直すリサーチプロジェクトといったコンテンツを展開する。

Photo © J.C. Carbonne

隈研吾(くま・けんご)
1954年生。東京大学建築学科大学院修了。コロンビア大学客員研究員を経て、1990年隈研吾建築都市設計事務所設立。2009年より2020年3月まで東京大学教授。現在、東京大学特別教授・名誉教授。1964年東京オリンピック時に見た丹下健三の国立屋内総合競技場に衝撃を受け、幼少期より建築家を志す。その土地の環境、文化に溶け込む建築を目指し、ヒューマンスケールのやさしく、やわらかなデザインを提案。また、コンクリートや鉄に代わる新しい素材の探求を通じて、工業化社会の後の建築のあり方を追求している。これまで20か国を超す国々で建築を設計し、日本建築学会賞、毎日芸術賞、芸術選奨文部科学大臣賞、国際木の建築賞(フィンランド)、国際石の建築賞(イタリア)等、受賞多数。

「くまてん」豆知識

展示風景(長崎県美術館)

日本博の一環としての「くまてん」
日本博主催・共催型プロジェクトの一環として制作された《東京計画2020》、360度VR、インタビュー映像を会場で観る事ができる。(360度VRの体験は、13歳以上に限られます)。日本博公式ウェブサイト:https://japanculturalexpo.bunka.go.jp/

展示風景(長崎県美術館)

東京国立近代美術館(MOMAT)が「くまてん」を開催するということは・・・
1952年に開館したMOMATは、これまでも建築展を開催してきた。当初「グロピウスとバウハウス」展(1954)や「ブラジル近代建築展:新首都建設」(1958)など海外の動向紹介を中心に、その約30年の後、1986年に「近代の見なおし:ポストモダンの建築 1960-1986」展をドイツ建築博物館からの巡回展に日本の動向を紹介するパートを加える形で開催。その後再び間をあけ、2008年、オリジナル企画として「建築がうまれるとき ペーター・メルクリと青木淳」を開催。さらに2010年の「建築はどこにあるの?7つのインスタレーション」、2011年の「ヴァレリオ・オルジャティ」(スイス連邦工科大学チューリヒ校建築理論・建築史研究所との共催)、2018年の「日本の家 1945年以降の建築と暮らし」(国際交流基金との共催)と続き、いよいよ2021年に、MOMATとしては開館以来はじめてとなる大規模な建築家の個展として、この隈研吾展を開催することとなった。

「くまてん」の見どころ
隈独自の方法論を、ネコの特性5原則で抽出

20世紀のコンクリートと鉄で作られた建築は、何か息が詰まるような感じがする。そう考える隈氏は、人間に優しい建築をつくることを目指している。そのために彼がしていることのひとつが木を使うことですが、実際には、木を使うだけでは人間に優しい建築はできない。(それにどうしても構造には鉄を使わなければならないこともある。)この展覧会では、人間に優しい建築=人が集まる場所=新しい公共性が生まれるような場所をつくるために隈氏が用いている方法論を5つのネコの特性になぞらえて紹介する。

なお、ひとつの建物は当然ながら、「孔」と「粒子」と「斜め」といったように複数の方法論の組み合わせでできているが、展覧会では便宜的に、ひとつの建物はあるひとつの方法論において紹介される。

アオーレ長岡 2012 ©by FUJITSUKA Mitsumasa

その1「孔」
隈建築では、「孔」が重要な要素となっている。たとえば《那珂川町馬頭広重美術館》では、建物にトンネルのような孔をあけることで、街と里山とがつながるようにした。《V&Aダンディー》でも、日本の鳥居に着想を得て、街と川とをつなぐ孔をつくっている。また隈氏は、建物と建物との間に隙間としてできる空間も孔だと考えている。《アオーレ長岡》は、市庁舎棟とアリーナ(体育館)棟と市民協働センターの入った棟という3つの建物の間に、ナカドマという大きな吹き抜けの空間をつくっている。そこが市民の憩いの場になっているのは、それがどこかで大きな洞窟のような印象を与えるからだろう。隈氏は「ネコは孔を使って、ある場所へと抜けていく以上に、孔の中に身を隠すことを大事にしている。コロナ後の人間もまた、ハコによって守られるのではなく、孔によって守られる時代をむかえるだろう」と述べている。

雲の上の図書館 / YURURI ゆすはら 2018 ©Kawasumi・Kobayashi Kenji Photograph Office

その2「粒子」
いわゆる公共建築は、ヒューマンスケールを超えた建物となり、威圧的になることがほとんど。そこで隈氏が用いるのが「粒子」という方法論。たとえば隈氏は、日本全国、どの製材所でも製造できる幅10.5cm程度の小径木と呼ばれる木をよく使う。小さな径の木であったとしても、それをきちんと組み合わせていけば大きな荷重を支えることができるのだ。と同時に、建物をヒューマンスケールにすることができる。このように、建築を小さな単位=粒子の集合体として捉えることで隈氏は、建築とその中におかれる様々なモノとを同じレベルで考えることができるようになる、つまり人に優しい建築ができると考えている(ネコも、のっぺりした空間ではなくて、粒子状の肌理のある空間を好む)。

高輪ゲートウェイ駅 2020 © 東日本旅客鉄道株式会社

その3「やわらかい」
通常、建築は固いものと思われている。でも、たとえば日本の伝統的な建築の壁が、水で溶いた土を塗ったものだったりするように、やわらかい素材を使って建築をつくることも可能。たとえば隈氏は、《高輪ゲートウェイ駅》では、駅全体を覆う屋根の素材に膜を選んだ。その結果、駅構内には自然光が満ちることになった。もちろん膜を支える構造は必要だが、隈氏はそれを垂直・水平ではなく、斜めに組み合わせていくことで、屋根を山や丘陵を思わせるものとした。隈氏は、やわらかさを導入することで、建築を人にやさしい環境的なものへと近づけようとしている。(ネコはかたくてつるつるしたものよりもやわらかくて触感のあるものを好む。)

オドゥンパザル近代美術館(トルコ)2019 ©Erieta Attali

その4「斜め」
軒下で雨宿りをすることができるように、下に向かう傾斜を持つ屋根は、「守る」印象を与える。一方、寺社の山門などに見られるような上に向かう傾斜を持つ屋根は、「迎える」印象を与える。隈氏はこうした斜めを様々な形でその建築に取り入れることで、人に優しい建築をつくる。また、斜めとなるのは屋根だけではない。壁も、また床も斜めになることがある。2020年に竣工した《東京工業大学 Hisao & Hiroko Taki Plaza 》では、屋根をステップ状にして地面からつなげている。また屋根上を庭園にすることで、周辺地域とスムーズにつながるようにしている(隈氏によれば、屋根や塀の上を自由に移動するネコは、「大いなる斜めの先達」)。

La Kagu 2014 ©SS Co., Ltd.

その5「時間」
隈氏における方法論としての「時間」はちょっと独特。古くなった建物は、ボロくなることで、その物としてのあり方が弱くなるが、隈氏は「物を弱くすることで、公共空間が楽しくなり、公共空間が人間のものになる」と考えている。それゆえ彼は、古くなった建物を用途変更したりしながら再生させる、いわゆるリノベーションのときに、ぴかぴかにきれいにすることをせず、自転車の車輪を装飾に使ったり、経年変化しやすい木材を用いたりするなど、あえてボロさが出るようにすることがある(ネコがボロい空間が大好きであることは、言うまでもない)。

先端技術を用いた体験展示

瀧本幹也(梼原のインスタレーションのためのプラン)2020 ©Mikiya Takimoto

高知県梼原にある6つの隈建築×瀧本幹也(+坂本龍一)
高知県梼原町は、愛媛県との県境にある町。そこには初期の《雲の上のホテル》にはじまり《梼原町総合庁舎》《まちの駅「ゆすはら」》《木橋ギャラリー》《雲の上の図書館(梼原町立図書館)》《YURURI ゆすはら》といった最近作まで、隈建築が6つもある。この町にある隈建築を、2019年の夏に写真家・映像作家の瀧本幹也氏が訪れハイスピードカメラを用いて撮影。それをリアル4Kによる映像インスタレーションへと昇華させた。坂本龍一氏の音楽とともに、日本の伝統的建築にインスパイアされた隈建築の造形美を堪能できる。

瀧本幹也(たきもと・みきや)
1974年愛知県生まれ。94年より藤井保氏に師事。98年に瀧本幹也写真事務所を設立。広告写真をはじめ、グラフィック、エディトリアル、自身の作品制作活動、コマーシャルフィルム、映画など幅広い分野の撮影を手がける。主な作品集に『LAND SPACE』(13)『SIGHTSEEING』(07)『BAUHAUS DESSAU ∴ MIKIYA TAKIMOTO』(05)など。「CROSSOVER」展(ラフォーレミュージアム原宿、18)など個展多数。また12年からは映画の撮影にも取り組み、15年には『海街 diary』是枝裕和監督作品で第39回日本アカデミー賞最優秀撮影賞を受賞。

スコットランドにできた博物館《V&Aダンディー》×タイムラプス映像
ロンドンにある世界でも有数のヴィクトリア&アルバート博物館。その分館がスコットランドのダンディーという人口約15万人の都市につくられることになったとき、世界の強豪を抑えて設計者に選ばれたのが隈研吾だった。今回この《V&Aダンディー》を素材に、アヴァンギャルドなタイムラプス映像を制作したのは、アイルランドのマクローリン兄弟。

マクローリン兄弟
アイルランドのスライゴー(Sligo)に住むパライックとケヴィンの双子によるユニット。パライックは2018年のタイムラプス・フィルム・フェスティバルにおいて第4位を受賞(エクスペリメンタル部門では第1位、第2位を受賞)。

富山市民に人気の図書館・美術館・銀行の複合施設《TOYAMAキラリ》×360度VR
《TOYAMAキラリ》の特長は斜めにたちあがる吹き抜け空間。そこにドローンを飛ばして360度VRで撮影した。

猫目線の東京計画 2020

隈研吾×Takram 東京計画 2020:ネコちゃん建築の5656原則 2020
©Kengo Kuma and Associates ©Takram

建築家の丹下健三が1964年の東京オリンピック開催前の1961年に発表した《東京計画 1960》は、建築家による都市の未来への大胆な提案として、よく知られている。この伝説的な案への応答として、今回隈研吾氏が発表するのが、《東京計画 2020(ニャンニャン)ネコちゃん建築の5656(ゴロゴロ)原則》。

日本を代表するデザイン・イノベーション・ファームであるTakramとの協働により、隈氏自身が住む神楽坂でネコの生態をリサーチ。そうして導き出されたのは、「テンテン」「ザラザラ」「シゲミ」「シルシ」「スキマ」「ノラミチ」という5656原則。これを3DCGのアニメーションにより紹介し「スキマ」のパートではちょっとかわったプロジェクション・マッピングも用いている。

隈研吾×Takram 東京計画 2020:ネコちゃん建築の5656原則 2020
©Kengo Kuma and Associates ©Takram

Takram
2006年に設立。「ビジネス」「デザイン」「エンジニアリング」の3つの領域を越境しながら、アプリやプロダクトのデザインにはじまり、ブランディングや空間デザインやヴィジョンデザインなど、多種多様なデザインを手掛ける。このプロジェクトは緒方壽人、櫻井稔、成田達哉が担当。

市民やクライアントに協力してもら って映像を制作

建物が実際に使われているシーンを撮影するには、市民による協力が不可欠。今回、《アオーレ長岡》を撮影したのは、日産アートアワード2017でグランプリを受賞した アーティスト・藤井光氏。藤井氏は、全国から視察が訪れるほど活気ある市役所として知られる《アオーレ長岡》の日常を、市民ボランティアやNPOの協力を得て撮影した。早朝に太極拳をする市民、勉強する学生、遊ぶ子供たち、社交ダンスのレッスンをする男女などの姿が、2面の映像インスタレーションにより、いきいきと描かれている。

また展覧会では、隈建築の発注者(クライアント)や利用者(ユーザー)に対するインタビューも上映。というのも、ほとんどの建築は発注者の依頼に基づいて設計が始まり、竣工後は利用者によって維持されるものである以上、彼らの言葉もまた建築家のそれと同じように(あるいはそれ以上に)重要だと考えるからだ。今回、気鋭のアーティストである津田道子氏は宮城県南三陸町と熊本県熊本市を訪れて、復興と建築をテーマに、町長、利用者、施主に対するインタビューを撮影。もちろん、隈研吾氏本人へのインタビュー映像もある。

《国立競技場》のスタディ模型とランプシェード

展示風景(高知県立美術館) 撮影:中島健蔵

照明や椅子といった家具から、ルーバーという建物の一部や土木のスケールを持つペデストリアンデッキまで、《国立競技場》の様々な箇所をスタディするためにつくられた膨大な模型の中から、この展覧会では約40点を選んで展示する。展覧会の中で公開されるのは世界初となる(先に開催された高知(閉幕)、長崎会場(開幕)まで開催ではすでに展示されている)。

また通常、一般の観客は入ることのできないフラッシュインタビューゾーン(競技後にインタビューが行われる場所)で用いられているランプシェード(と同じもの)を、特別に展示する。隈氏によるデザインの際にイメージされたのは、行灯や御簾がもたらす日本的な光。全部で3種類(大・中・小)あるなかの「小」が展示される。

ネコ好きのあなたも、そうでない方も、ネコの性質で公共建築のありかたが見えてくる展示会、一度足を運んでみてはいかがでしょうか?

隈研吾展 新しい公共性をつくるためのネコの5原則
開催期間|2021年6月18日(金)~9月26日(日)
会場|東京国立近代美術館 1F 企画展ギャラリー
住所|東京都千代田区北の丸公園3-1
開催時間|10:00〜17:00/金曜日・土曜日|10:00〜21:00(入館は閉館30分前まで)
休館日|月曜日(7月26日、8月2日、9日、30日、9月20日は開館)、8月10日(火)、9月21日(火)
お問い合わせ|050-5541-8600(ハローダイヤル)
アクセス|東京メトロ東西線「竹橋駅」1b出口より徒歩3分
観覧料|一般 1300円(1100)円、大学生 800(500)円
*高校生以下および18歳未満、障害者手帳をご提示の方とその付添者(1名)は無料
*()内は20名以上の団体料金。いずれも消費税込
*同時開催 所蔵作品展「MOMATコレクション・スペシャル」、コレクションによる小企画「鉄とたたかう 鉄とあそぶ デイヴィッド・スミス《サークルⅣ》を中心に」(会期5月25日~9月26日)入館当日に限り本展の観覧料でご覧いただけます。
https://kumakengo2020.jp/

※新型コロナウイルス感染症の拡大等の状況により、開催日程や出品内容が変更になる可能性がございます。
詳細は東京国立近代美術館ウェブサイト(https://www.momat.go.jp/)をご確認ください。


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