TRADITION

中村勘三郎×坂東玉三郎×片岡仁左衛門が競演!
吉原を舞台に妖刀が導く数奇な物語。
シネマ歌舞伎『籠釣瓶花街酔醒(かごつるべさとのえいざめ)』

2021.7.14
<small>中村勘三郎×坂東玉三郎×片岡仁左衛門が競演!</small><br>吉原を舞台に妖刀が導く数奇な物語。<br><small>シネマ歌舞伎『籠釣瓶花街酔醒(かごつるべさとのえいざめ)』</small>
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歌舞伎の舞台を映画館で楽しめる「シネマ歌舞伎」。その多彩な演目は、毎月異なる作品を全国の映画館で上映する「月イチ歌舞伎」で楽しめる。7月の上映作品は、江戸・吉原で実際に起きた事件と妖刀伝説をもとにした『籠釣瓶花街酔醒(かごつるべさとのえいざめ)』だ。

人の良い田舎商人・次郎左衛門を中村勘三郎、次郎左衛門がひと目惚れする吉原一の花魁・八ツ橋を坂東玉三郎、その恋人である繁山栄之丞を片岡仁左衛門がそれぞれ演じ、豪華な顔合わせになっている。有名なセリフや名場面も多く、初心者から歌舞伎ファン、刀剣好きにも必見の作品だ。2021年7月23日(金)~29日(木)まで、全国の映画館で上映予定。今回はそのあらすじを紹介します!

ただの見物のはずが思わぬ展開?!
純粋な恋心が変えた次郎左衛門の運命とは


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上州佐野の絹商人、佐野次郎左衛門と下男の治六は、江戸で商いをした帰りに、話の種にと桜も美しい吉原へやってきた。初めて見る華やかな吉原の風情に驚き、念願の花魁道中も見て、いよいよ帰ろうとするところへ、吉原一の花魁、八ツ橋の道中と遭遇。この世のものとは思えないほど美しい八ツ橋に次郎左衛門は心を奪われてしまう。

それから半年、あばた顔の田舎者ながら人柄も気前も良い次郎左衛門は、八ツ橋のもとへ足しげく通い、ついには身請け話も出始める。しかし八ツ橋には繁山栄之丞という情夫がおり、身請け話に怒った栄之丞は次郎左衛門との縁切りを迫る。それを知らない次郎左衛門は、いよいよ八ツ橋を身請けしようと有頂天で吉原へやってくる。浮かぬ顔をした八ツ橋に、満座で突然愛想づかしをされ、恥をかきうちひしがれた次郎左衛門は、「八ツ橋のことはあきらめる」と吉原を去るのだった。

4ヵ月後、次郎左衛門は再び吉原に現れ、わだかまりなく振舞う。安心した八ツ橋だったが、ふたりきりになると次郎左衛門の態度が豹変し、その手にはなんと妖刀・籠釣瓶が……?!

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実際に起きた吉原の刃傷事件と妖刀村正伝説が題材


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江戸時代、「吉原百人斬り」と呼ばれる事件が起きた。下野(現在の栃木県のあたり)佐野の百姓が、吉原で馴染みの遊女をはじめ、多くの人々を殺傷したという。

このショッキングな出来事はのちに様々な作品の題材となり、本作品もそのうちのひとつだ。

作者である河竹新七は、この狂言にさらにもうひとつの物語、「妖刀村正伝説」を仕込んでいる。本作品では描かれないのだが、主人公の佐野次郎左衛門が持っている刀はその昔、旅の途中で助けた浪人から次郎左衛門が譲り受けたもの。この浪人は関ケ原の戦いで敗れた石田三成方の武士の子孫で、贈られた刀は、“水もたまらぬ切れ味”であることから「籠釣瓶」と名付けられた家宝の村正。

村正は伊勢の名工による刀の総称だが、江戸時代には幕府の祖である徳川家康の父・祖父・嫡男が命を落とした際の刀が村正であったとして、徳川家から因縁の刀として忌み嫌われた。

そのためか、物語に登場する「村正」は必ずと言っていいほど悲劇を巻き起こしている。現に本作品の中でも、次郎左衛門は籠釣瓶を譲り受ける際「この刀を抜くときは必ずその身に過ちある」と忠告を受ける場面がある。妖刀に操られるかのように、破滅の運命をたどる次郎左衛門から目が離せない。


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歌舞伎座での公演も話題となった、
仁左衛門、玉三郎、早世した名優・18代目勘三郎の豪華競演!

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本演目は歌舞伎ファンなら誰でも知る名場面や名台詞が満載で、現在もたびたび上演される人気作。シネマ歌舞伎に収録されている、2020(平成22)年の「歌舞伎座さよなら公演」では、豪華な顔合わせが実現し、公演当時も話題を集めた。

見た目は醜いが心がまっすぐで、一途な恋心に思わず同情してしまう次郎左衛門を演じたのは中村勘三郎。いまは亡き名優の演技を大スクリーンで観られるのは、シネマ歌舞伎ならでは。

また、華やかな美しさの中に遊女であることの寂しさを感じさせる八ツ橋と、吉原一の遊女を夢中にさせる色男の繁山栄之丞はそれぞれ坂東玉三郎と片岡仁左衛門が演じる。ふたりは先月歌舞伎座で上演された『桜姫東文章』で36年ぶりに競演して話題を浚い、美麗なゴールデンコンビの健在ぶりを見せつけた。本作ではまた別の美男美女を演じており、こちらも注目したい。

勘三郎ともよくコンビを組んで公演をしていた玉三郎。ふたりの共演作は、10月『ふるあめりかに袖はぬらさじ』、12月『刺青奇偶』と、今後の「月イチ歌舞伎」上映作品にもラインアップされている。多彩な役どころで共演したふたり、まずは古典の名作『籠釣瓶花街酔醒』で息の合った芝居を楽しもう。

月イチ歌舞伎 2021 上映作品
『籠釣瓶花街酔醒(かごつるべさとのえいざめ)』
上映期間|2021年7月23日(金)~29日(木)
上映館|東劇ほか全国の映画館にて (詳細はこちら
料金|一般2200円、学生・小人1500円
上映時間|113分
出演|中村勘三郎、坂東玉三郎、中村魁春、中村勘九郎、中村 七之助、中村鶴松、市村家橘、片岡亀蔵、片岡市蔵、坂東彌十郎、片岡秀太郎、片岡我當、片岡仁左衛門ほか

※新型コロナウイルス感染拡大防止のため、上映期間中に上映館が休館となる可能性があります。鑑賞前は映画館の上映状況を確認ください。来場時はマスク着用等、劇場の感染予防対策にご協力ください

text=Discover Japan


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