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「能」の”型”と”動き”大研究 – 空飛ぶ『羽衣』はこうなります
能では型の組み合わせによって何かを表現します。天女が舞を舞いながら天に帰ってゆく『羽衣』の最後の場面を佐野さんに実演していただき、いくつかの型をピックアップしてみました。
宝生流能楽師シテ方
佐野 登(さの・のぼる)
「生きる力」をテーマとしたエデュケーション・プログラムを行うほか、次世代育成、普及における伝統文化伝承のための多様な体験型プログラムを実施。
〈『羽衣』あらすじ〉
各地に見られる「羽衣伝説」が題材
春霞のたつある朝、漁師の白龍は三保の松原で松の枝に掛けてある美しい衣を見つける。家の宝にとそれを持ち帰ろうとすると、天人が現れ、それは天人の羽衣であるから返すよう乞うが、白龍は返そうとしない。
天人は「その衣がなければ天に帰ることが叶わない」と嘆き悲しむ。それを見た白龍はかわいそうに思い、天上界の舞を見せてくれれば返そうという。
さらに「返せば舞わずに帰るのであろう」と疑う白龍に、天人は「そのような疑いをもつのは人間だけで、天上界に偽りなし」と言い、その言葉に己を恥じた白龍は羽衣を返す。羽衣をまとった天人は美しい舞を舞いながら、やがて空高く舞い上がり天に帰っていく。
①三五夜中の空にまた
「三五夜中の空」は十五夜のこと。「引分ケ(ひきわけ)」の型で、胸から両手を左右に大きく広げ、月を眺めるように目線を上へ向ける。謡のことばとこの型によって、美しい満月の情景を表現する。
②七宝充満の宝を降らし
扇で上から下へ大きく招くような動作は、種々の宝を天から下界(国土)へ降らす様を表現する。ここでの宝とは金銀宝石ではなく、天や仏からの恵みのことを指している。
③国土にこれを施し給ふ
正面を向きながら、開いた扇を胸の前で受けるように出す動作は、降らせた宝を国土へ与えるイメージ。正面になったところで扇を前に差し出すような格好が「施す」風に見えるからさすが。
④天の羽衣浦風にたなびきたなびく
左右に大きく扇を動かすこの動作は、風を起こしつつ風そのものを表現する。その風により、天女の羽衣がたなびいている様子をイメージできるだろう。このあたりから風に乗るように天に舞い上がる。
⑤三保の松原浮嶋が雲の愛鷹山や富士の高嶺かすかになりて
舞い上がった天女が次第に高度を上げ、富士山を見下ろすまでの高さに達することを表現するため、歩みつつ下を見ながら首を左右にゆっくり振る。天女が空高く舞うイメージが伝わってくる。
⑥霞にまぎれて失せにけり
扇を「カザシ」、「廻返シ(まわりかえし)」という型を用いてここで表現するのは「霞に紛れて、だんだんフェイドアウトしていく」美しいシーン。それを扇と約1回転半その場で回ることで表す。
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「能」の”型”と”動き”大研究
【能から学ぶ日常の所作】
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1|「能」とは?三間四方に広がる美しき想像の世界
2|鑑賞する前に知っておきたい「能」の決まりごと
《知っているとより楽しめる!「能」の”型”と”動き”大研究》
1|【基本姿勢】
2|【型のイロハ】
3|【空飛ぶ『羽衣』はこうなります】
4|【能から学ぶ日常の所作】
photo:Bakuya Shinoda text=Akiyoshi Nishidate, Akiko Kaneda, Maho Shimizu(Notion)
2018年別冊「ニッポンの伝統芸能 能・狂言・歌舞伎・文楽」