日下部民藝館を飾った、飛騨高山の匠の技
日本有数の木工の郷として、1300年以上の歴史をもつ岐阜県・飛騨高山。江戸時代から続く情緒豊かな町並みや、春と秋に行われる高山祭の祭屋台など、伝統的な暮らしの中に、ものづくりの精神がいまも息づいている。それらを支えるのが、2016年に日本遺産にも認定された「飛騨の匠」と称えられる職人たちの技と心だ。
そんな飛騨高山の地で、3年に渡り行われた「飛騨高山ものづくり実践塾」。その成果のお披露目の舞台となったのが、1879(明治12)年に竣工し、飛騨高山の匠たちが手掛けた町家建築の集大成であり江戸時代の建築様式をいまに残す「日下部民藝館」と、東京・渋谷PARCOの「Discover Japan Lab.」だ。
飛騨高山ものづくり実践塾の全貌は過去の記事で紹介したが、今回は2020年末に日下部民藝館で行われた展示「飛騨高山ものづくり実践塾 作品展 想・創・装」の模様から、そのものづくりの魅力に迫る。
飛騨一位一刀彫
日下部民藝館を象徴する梁と束柱の豪快な木組が印象的な、吹抜け空間。その重厚な柱に展示されたのは、木工職人の鷲塚沐仁さんが手掛ける、飛騨高山伝統の「一位一刀彫」の「般若面」。一位一刀彫は、国の伝統的工芸品に指定されている。
イチイの木を使ってつくった般若面には、迫力ある存在感もちろん、つくり手のエネルギーがにじみ出ている。松田亮長(1799-1871)をはじめ、飛騨高山にはどの時代にも一位一刀彫の優れたつくり手がおり、切磋琢磨してその腕を磨いてきた歴史をもつ。
暮らしに寄り添う優しい作品を手掛けるつくり手が多い中、般若面は強面だが、そばにあると不思議と心を穏やかにしてくれる優しさに満ちている。
ノクターレ・TS産業
障子越しの陽射しが美しく、ついつい座り込みたくなる和室には、OEMを中心に木製パーツや木製小物、オーダー家具などを手掛けるノクターレの「シダーベース」とスツール「ceppo(チェッポ)」が展示された。シダーベースは杉を材にろくろ挽きで制作された花器で、美しい木肌に特徴がある。飛騨春慶で仕上げたモデルには洋と和をミックスした趣があり、どんな空間にもなじむ。
木肌の美しさは、林業の問題に向き合う思いを込めて杉でつくったスツールにも生かされている。見た目の重厚感に反して軽やかで取り回しにも優れているため、サイドテーブルとして使ったり、中空がくり抜かれたデザインを生かして移動式のディスプレイ棚としても使うこともできる。
アーツクラフトジャパン
日下部民藝館のひと間に、岐阜県産の広葉樹を使用し「地産地消」と「オンリーワン」をテーマにした「カッティングボード」が勢揃いした。手掛けるのは、アートとクラフトを組み合わせて日本らしいものづくりを標榜するアーツクラフトジャパン。
ユニークなかたちは、あえて材を整えすぎず。耳付きの木のままサイズに合わせて幅とフォルムを決めているから。使う人が自由に選べる余白を残した。
濃い色であったり、フシがあったり、個性的な木目は、木に人と同じように多様性があり木が生きていることを再認識させてくれる。飛騨地方では道の駅などでも手に入る天然のエゴマ油を使用して仕上げている。
白百合工房
代々使われていた民具が置かれ、子どもたちの遊ぶ声がいまにも聞こえてきそうな通りに面した座敷に展示されたのは、1982年に創業した白百合工房の二代目・上野望さんが長年の歳月をかけて生み出した玩具「TSUMIBOBO」。
身体の部分は東白川村産の杉、頭の部分には飛騨の広葉樹の楓を使っており、手にしたときに天然木の優しさを感じることができる。
座敷に座り、積み木を手にして慈しむように展示を楽しんでいる来館者の姿が印象的だった。
積み木としてはユニークなかたちだが、アクロバティックに積み上げてもバランスが保たれるように考えられたデザインは、単体で飾っても楽しいオブジェになる。
奥井木工舎
飛騨高山の新しい民藝品ともいわれる、奥井木工舎の奥井京介さんがつくる「飛驒の雪入道」は、日に照らされて黄金色に輝く木立が窓の外に広がる、幻想的な空間に展示された。
飛騨ではおなじみの「朴葉味噌」に使われる、抗菌作用もある高級材・ホオノキで木杓子をつくる際に切り落とされて余った木材を活用して生み出されている。
雪入道は雪深い地方に伝わる妖怪で、子どもが悪さをすると森に連れていくという言い伝えがあるのだとか。
渋草柳造窯
開放感のある吹抜けの空間の下、飴色によく磨かれた水屋箪笥の上に、歴史ある調度品とともに昔からそこに居たかのように展示された「bobo」。
飛騨の民藝品である「さるぼぼ」をベースに、ろくろや釉薬の研究を重ねて、つくり手である戸田鉄人さん・柳平さんが生み出した、飛騨高山の新しいキャラクターである。
手にすると、ぷっくりとした造形に温かみを感じる。古典柄やオリジナル柄を織り交ぜた多彩な絵付けが施されることで、民藝と工芸、そしてコンテンポラリーの要素を兼ね備えたハイブリッドな存在になっている。
まる工芸
シェーカー教徒の道具という背景をもちながら、日本の生活に合うようにリファインされた、まる工芸の「オーバルボックス」。日下部民藝館の展示では、大胆にも民藝の祖・柳宗悦の書が掛けられた陰影のある床の間に、色違いでシンメトリーに鎮座させた。
まる工芸の大澤昌史さんは、飛騨高山のつくり手の中でも全国区で知られる存在。曲げ物の家具や小物づくりを得意とする大澤さんがつくるオーバルボックスは特に有名で、都内のショップでは入荷するとすぐに完売する人気ぶりだ。
仏壇工芸ほりお
木地、塗り、金箔、金具、組など、いくつもの匠の技の結晶ともいえる工芸品が仏具。創業100年の歴史をもち、代々仏壇をつくり続けてきた仏壇ほりおの3代目・堀尾宗弘さんは、なんと元プロスノーボーダーだ。
堀尾さんの仏壇は、雪国の民家ならではのほの暗く温もりある空間に、渋草柳造窯の「bobo」とのコラボレーションで展示された。飛騨春慶塗で仕上げたスケートボードは現在、仏壇ほりおのアイコン的な存在。匠の技が生み出す春慶塗のつややかで美しいスケートボードは、伝統的な素材や技術を現代のモチーフに置き換えることで、新たな魅力を放つことを教えてくれた。
ちなみに日下部民藝館には、明治8(1875)年の大火を免れた、隠しからくりの仕掛けが施された絢爛豪華な仏壇があり、飛騨高山のパワースポットとなっている。
日下部民藝館
舞台となった高山市内に建つ国指定重要文化財「日下部家住宅」。近世・近代と飛騨に活躍した大工一門である松田又兵衛以勝を祖にもつ松田一門。その末裔である明治の名工・川尻治助が手掛けた飛騨高山の古き良き面影を、往時のままに残す名建築である。
大梁を大黒柱が支える構造が男性的な美しさをもつと評され、伝統的な飛騨高山の生活空間が現存する日下部民藝館の空間は、この地に代々受け継がれてきた匠の技をいまに伝える舞台としてはまたとない場所だ。そして今回の展示会では、現代の匠たちが手掛けた作品が、歴史ある重厚な空間と対等に渡り合えることを証明してくれた。
この記事で紹介した日下部民藝館での展示作品は、現在、渋谷PARCOのDiscover Japan Lab.に引き継がれ展示販売中。ぜひこの機会に足を運び手にしていただきたい。
≫Discover Japanオンラインショップでも一部商品を購入いただけます
飛騨高山×Discover Japan 特別展
飛騨高山ものづくり実践塾を通して磨き上げされた作品の数々を、1月6日(水)から2月5日(金)までの期間、展示販売します。木の温もりと、匠の技の粋が詰まった作品を、手に取って体感してください!
場所|Discover Japan Lab.
住所|東京都渋谷区宇田川町15-1 渋谷PARCO1F
Tel|03-6455-2380
営業時間|11:00~21:00 ※緊急事態宣言期間中は~20:00
定休日|不定休
※本記事の価格表示はすべて税込みです
text: Takashi Kato photo: Kazuya Hayashi