おうち時間を豊かに過ごすモノ選び「匠の技」との暮らしを始める一位一刀彫
多くの人が家で過ごす時間に価値を見い出しつつある昨今。さらなる心の豊かさのために、日々の暮らしに伝統工芸品を取り入れてみてはいかがでしょう。今回Discover Japanがご紹介するのは、岐阜県・飛騨高山の一位一刀彫。古典的なだけではない、オリジナルのモチーフも手掛け、またイタリアの自動車メーカーFIAT(フィアット)とのコラボレーション経験もある職人、小坂彫房の二代・小坂礼之(あやゆき)さんにお話をうかがいました。
―先代であるお父様からは、どのような教えを受けられたのですか?
父から手取り足取り教えてもらった記憶は一切ありません。まさに「見て盗め」という職人の世界。つくったものを見せると、黙って鉈でポンと割ってしまうんですよ。それで終わり(笑)。でも今になって、彫刻のことも、生きていく上でのこともいろいろと教わったんだなあ……と感じますね。
―技を追求する面白さ、難しさはどこにあるのでしょう?
頭の中で思い描いた形をゼロからつくり出すのが何よりの面白さですが、最初に木から大きな形を切り出す過程は難しいですね。「木の中に形が見えるから、それを掘り出すだけ」なんて言う職人さんもいますが、そんなに簡単なものじゃないですよ(笑)。30年以上この仕事をしていますが、いまでも苦労するし、どんな作品を仕上げても満足することはありません。もっとできるはずだ、という思いが常にありますね。
―一位一刀彫の「一刀」とは、ひとつの刃物で仕上げるという意味ですか?
諸説ありますが、父からは「一刀一刀に思いを込めて」という意味だと教わりました。道具は数100種類そろっています。
―作品に使われる「一位」という木は貴重だそうですね。
一位は、約800年前に天皇から名を授かったといわれる名木です。木目も経年変色も非常に美しいのですが、直径40cmほどに育つのに300〜400年かかる上に枯れやすい。ここ10年ほどは枯渇状態なので、ほかの木を使わせてもらっています。ただ、どんな木であっても数10〜数100年かけて育ったものですから、失敗は許されません。陶磁器や鉄の加工ならやり直しができるけれど、木は元に戻せませんから。
―伝統を未来に伝えるために、何を大切にしていますか?
伝統をつなぐには後継者が必要ですが、弟子を抱えるには経済的な基盤を維持しなければなりません。そのためにも、お客さまに喜んでいただける良いものをつくり続けるしかありませんね。
―家時間が増えたいま、一位一刀彫がそばにあることの魅力とは何でしょう?
一位一刀彫の置物には生命感があるんです。目がいくたびに「ああ、いるな」と、思わずにんまりしてしまう。ストレスの多い日々、そんな存在感に和んでいただければ、と思います。
―FIATとコラボレーションしてつくられたというシェルフは、とても新鮮ですね。
家具の一部に一位一刀彫の表現をほどこす、というのは初めての経験でした。僕は、伝統を未来につなぐためにも守りに入らず、常に新しいものをつくろうと思っています。進化なしに存続はあり得ませんから。
FIAT×MADE IN JAPAN PROJECT
職人を意味する「アルチザン」という言葉に代表されるように、イタリアでは古くからクラフトマンシップが尊敬を集めてきました。そんなイタリアで生まれた自動車メーカー、FIATの立ち上げたプロジェクトがFIAT×MADE IN JAPAN PROJECT。イタリア同様に「職人」が根付く日本文化と、さらに心を通わせることができそう。同プロジェクトによって、NPO法人「メイド・イン・ジャパン・プロジェクト」とともにさまざまなオリジナルプロダクトが生み出されています。
https://www.fiat-auto.co.jp/mijp/
文:棚澤明子