FOOD

菌と一緒に楽しく造る自然酒。
千葉県香取郡 寺田本家【後編】
文化を紡ぐ酒

2021.1.9
菌と一緒に楽しく造る自然酒。<br>千葉県香取郡 寺田本家【後編】<br><small>文化を紡ぐ酒</small>

自然酒造りのパイオニアとして、日本酒好きだけでなく多方面から厚く支持されている寺田本家。自然と生命に寄り添った酒造りの魅力と、菌とありのまま共生する哲学に迫ります。後編では、先代の薫陶を受け、寺田本家の屋台骨として邁進する寺田優さんに、自然への想いや自然酒造りの本意、そして未来について伺いました。

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寺田 優(てらだ・まさる)
1973年、大阪府堺市生まれ。横浜国立大学経済学部卒業後、カメラマンを経て2003年に寺田本家に婿入り。自然酒造りに開眼し、2012年に蔵元に就任。2017年より杜氏を兼任し、町おこし活動など、他方面で発酵の魅力を伝えている

2代に継がれる「発酵道」、
人の役に立つ酒造り

——優さんは入り婿ですが、大学を卒業されてから蔵に入ったのですか?

寺田 卒業後はムービーのカメラマンをしていました。大学時代は旅ばかりしていて。オーストラリアや東南アジア、アラスカとか回って、写真家の星野道夫さんに憧れていました。

——旅の経験でいまの酒造りにつながっていることはありますか?

寺田 ん〜……西オーストラリアのパースのビーチでボランティアしたとき、日の出から日の入りまでぼーっとしながら時々イルカや人が来て、地球の自然の一部になったような感覚は、いまにつながっているかな。自分の心地よさに素直になれる感覚。だから、怒られるかもしれないですけど、夏の田んぼ仕事は、リゾート感があってめちゃ好きなんです(笑)。

——寺田本家に入ったきっかけは?

寺田 カメラマンをやって一回実家に帰った頃、農業にも興味があったんです。そしたら奥さんが「うちで米づくりやってるよ」って。

——大胆ですね。そこから酒造りに開眼?

寺田 お酒はそんなに飲めないので、最初は先代の型破りな人間性に惹かれました。

——当時の先代の思い出はありますか?

寺田 2002年くらいに「これからは見えない菌とつながっていくことが時代のテーマになる。だから自然酒造りはその手伝いができる、神さまが喜ぶ仕事だ」って。そのときは、何言ってんのやろって思いましたけど。

——(笑)。いまの発酵ブームを20年先取りしていますね。

寺田 いまはわかります。先代は、酒造りや発酵からもっと深くて大きい生き方を考えていましたね。人間っていいところも悪いとこも両方あって、そのいいところに光を当てる人。それって菌も同じで、ある一面から見たら発酵で、別から見ると腐敗で、大きく見たら同じ現象。そのいい部分である発酵を伸ばすことが大事なんやなって、最近気づきました。

——その考えが「人の役に立つ自然酒」造りの根幹にある。

寺田 そうですね。もちろん飲んで健康になってもらいたいというのもあります。お酒って楽しい場や気持ちいい空間の中で飲むものじゃないですか。そのときに自然のよさに気づいたり、自分が本当に好きなこと、本当にやりたいことに立ち返れる。そんなお酒が造れたら最高やなって思います。

——今後造りたいお酒はありますか?

寺田 うちは自然のまんまでやっているので、酸味があって泥臭い味になる。それはそれでうちのスタイルでもあるんですけど、上品さを兼ね備えた酒ですね。かといって安易に香りに振るんじゃなくて、味わいのバランスの中でそれを実現させたい。

——そういった造りや、先代から受け継いで優さんが解釈した寺田本家の本懐を後進に教えていますか?

寺田 言葉にしてはいないかな。哲学的なことは背景としてわかっといてほしいですけど、それより楽しさ。自然酒造りって本当におもしろいんです。いまでも乳酸発酵した後、水入れて4日目くらいから酵母が湧き出してきたら「きたきた」って思いますし、発見の連続。そして、自分が造った酒で「美味しかった」、「元気になった」とか飲み手に喜んでもらえる体験の積み重ねが一番モチベーションになるんで、そういった自然酒造りのやりがいを感じていってほしいですね。

右)五人娘 純米酒
自然の恵みと生命のエネルギーを生かした、寺田本家の自然酒の先駆け。細胞が喜ぶ濃醇な味とふくよかな香りが堪能できる味わい。
価格|1457円/ 720㎖
原料米|麹米/美山錦、掛米/雪化粧、美山錦
精米歩合|麹米70%、掛米70%
日本酒度|+4
酸度|2.7
アルコール度数|15度
※日本酒度などは年で変動あり

中)菩提酛仕込 醍醐のしずく
生酛のルーツである「菩提酛」仕込みで醸した日本酒の原点。世界一と称されるデンマークのレストランnomaでも採用されている。
価格|1595円/720㎖
原料米|コシヒカリなど
精米歩合|90〜93%
日本酒度|−20〜−80
酸度|5〜12
アルコール度数|6〜17度

左)五人娘 しぼったまんま
「五人娘」の冬季限定酒。寒造りの時期だけ蔵内で芳香を放つもろみの華やかな香りとフレッシュな甘みはいましか味わえない。
価格|1760円/720㎖
原料米|千葉錦
精米歩合|70%
日本酒度|−1
酸度|3.6
アルコール度数|17度
※日本酒度などは年で変動あり

寺田本家
蔵は千葉県の市町村で最も人口が少ない、利根川流域の長閑な神崎町に建つ。販売コーナーも併設。
住所|千葉県香取郡神崎町神崎本宿1964 
Tel|0478-72-2221
年間生産量|約14万4000ℓ(一升瓶 約8万本)
営業時間|8:00〜12:00、13:00〜17:00(月〜金曜営業)
www.teradahonke.co.jp

text: Ryosuke Fujitani photo: Norihito Suzuki
Discover Japan 2021年1月 特集「温泉と酒。」


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