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「ウシマル」千葉の恵みが詰まった地産地消レストラン【後編】
犬養裕美子のディスカバー ベスト・レストラン

2021.5.14
「ウシマル」千葉の恵みが詰まった地産地消レストラン【後編】<br><small>犬養裕美子のディスカバー ベスト・レストラン</small>

どんな小さな店でも、どんな辺鄙な場所でも、『ホンモノ』であれば、必ず人は引き寄せられる。今月も強烈な一店に出合いました!今回は、千葉県山武市にあるレストラン「Ushimaru(ウシマル)」について、前後編記事でご紹介します。

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素材集めに終わらず料理、店の完成形へ

地産地消をうたうレストランが成功するには、シェフやスタッフが、その土地を正しく理解することが条件となる。その場所に育った人でも、どんなものがつくられているのか?収穫されているのか、意外に知らないことが多い。また、知っている情報が実は子どもの頃のもので、アップデートされていないのでは役に立たない。その点、打矢シェフは新潟生まれ。千葉とは縁もゆかりもない。だからこそ、必要な素材の最新情報を自分の足でアップデートし続けてきた。

取材に訪れる前、この土地で採れる素材をそのまま撮影させてほしいとお願いした。注文通り幾種類もの珍しいきのこ、食用カエル、天然鰻などが用意されていた。生きたカエルを誌面に出すのはためらうところだが、実物に対面してあまりに立派で美しいことに驚いた。これが〝千葉〞なんだと感心するとともに、打矢シェフのこの土地の素材に対する想いが伝わってきた。

素材がスゴイだけじゃない。打矢シェフの料理スタイルは、その素材を生かすことに集中している。炭火やオーブンで、丁寧に時間をかけて仕上げ自然にイタリア料理に落としこむ。つけ合わせは、その素材を引き立てるものだけが添えられている。

ちなみに料理を盛りつける皿は、地元のブランド「スガハラ」がメイン。透明感のあるガラスのうつわに、存在感のある料理。都心から来たお客が驚くのは、そのレベルが都心以上の水準にあることだ。

イタリアンの真打、パスタの素材は「ユメホシノ」、「W8号」の2種類の国産小麦粉。肉料理の後にいただくパスタなのでお腹がいっぱいならひと口、まだまだイケルなら、ボリュームはいかようにでも調節してくれる。同じくフォカッチャはパスタに使用する小麦粉種に千葉県産小麦粉「農林61号」をプラスして焼く。粉の風味を最大限に楽しめるよう、ゲストの人数分をまとめて大きな塊で焼く。コースの途中、フロアに焼きたてを運び、香りとともに切り分けサプライズサービスをする。

そして最後に忘れてならないのが〝アイスクリーム〞。実はオーナーの実家は元酪農家。ジャージー牛を育てていた経験から、そのフレッシュな牛乳でつくるアイスクリームの美味しさを知ってほしいと、ドルチェには必ずアイスクリームを使う。それが評判を呼び、カップアイスに商品化されているほどだ。

まず「ウシマル」に行ってみてほしい。ここで感じるのは、地方の可能性だ。レストラン文化は都市だけのものではない。むしろ地方にこそ骨太な成功例があるのだ。

千葉県産食材を100%楽しむ1万円コース

コースは、その日に揃う素材によって、品数も内容も替わる。基本はテーブルごとに同じコースで、コースごとのいっせいスタート。ワインは国産に力を入れている。ペアリングには日本酒や焼酎を入れることも。

1.天然キノコとブレザオーラ

シェフが採ってきた天然キノコ。夏のキノコはたっぷり採れる。ブレザオーラ(牛の生ハム)はジャージー牛の雄を使用。ミノ、センマイ添え。

2.九十九里産海捕天然ウナギの炭火焼き

炭火で香ばしく焼いた鰻に、自家製山ワサビ、山椒塩でさっぱりと。直焼きなのにしっとりした食感なのは、水分を吹きかけて焼くから。

3.花ズッキーニとしらすのスープ

花ズッキーニの中に細かくカットしたジャガイモ、モツァレラ、ズッキーニを詰めて、飯岡のシラスで出汁を取ったスープをかけて味わう。

4.天然カエルとキノコ

鮮やかな色のキノコはアンズ茸。カエルはさっと塩をして火を通してある。臭みは一切なく淡泊な味わい。鶏のささみのよう。

5.岩ガキ

プルプルの岩牡蠣に山ワサビを半分まぶして。

6.金目鯛のウロコ焼き

勝浦に揚がった金目鯛のウロコはパリパリに焼ききり、身はしっとりとジュ―シーに仕上げる。胃袋ときくらげを添えて。

7.サラダ

自家菜園と周辺の生産者から仕入れた野菜を総動員。季節の野菜が10種類ほど盛り込まれている。何より鮮度が抜群。

8.ジャージー雄牛の炭火焼き

確かに炭火で焼かれているのに、その身の軟らかさは繊細そのもの。山椒をつぶしたサルサ・ヴェルデの爽やかなアクセントがよく合う。

9.シャーベット

お口直しに、山椒とホエー(乳清。牛乳から乳脂肪などを除いた水溶液)のシャーベット。軽い刺激と酸味が爽やか。

10.手打ちパスタ

地粉で打ったパスタはコシがあり、かみしめるほど甘みがある。自家菜園で育った新ニンニクとオリーブオイルのソースで。

11.デザート

うつわの上には、ジャージー牛の牛乳とヨーグルト、生クリームでつくったアイスクリーム。うつわの下には梅のカーネテ・ルリ。

「ウシマル」のここがスゴイ
炭火焼きにも工夫あり

火の強弱を調節するだけでなく、水分を吹きかけながら“蒸し焼き”にする。鰻もしっとり、ふっくら仕上がる。

フォカッチャを目の前で!

パンはコースが中盤に差し掛かった頃に焼き上がりが登場する。切り分けるサービスで場も盛り上がる。

お腹に余裕があればチーズも

酪農王国・千葉では、いま、チーズが盛んにつくられている。チーズ工房“千”、“いすみ”などは東京でも人気。

千葉県産ワインあります

「千葉県産『齊藤ぶどう園』のワインをはじめ、日本のワインも揃えています」(鈴木治人マネージャー)。

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Ushimaru(ウシマル)
住所|千葉県山武市松尾町木刀1307-2
Tel|0479-86-1222
営業時間|12:00~14:00(L.O.)、18:00~21:30(L.O.)
定休日|水曜、第2火曜、木曜は昼休
ランチ3800円、1万
円、ディナー6000円、1万円(土・日曜、祝日は昼夜とも6000円、1万円。税・サービス料10%別。8月11~15日は問い合わせを)

text:Yumiko Inukai,photo:Muneaki Maeda
Discover Japan 2018年8月号『あの憧れの楽園へ』

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