陶芸家・竹村良訓さんのうつわ
“個性”を好きになるオンリーワンの色彩
陶芸家・竹村良訓さんがつくる作品は、すべて色の組み合わせやかたちが異なる一点もの。新しさを追求し、自由な発想で生み出される作品はどれも個性的だ。自分だけが手にする作品だからこそ、自然と愛着がわいてくるだろう。
竹村良訓(たけむら・よしのり)さん
1980年、千葉県生まれ。武蔵野美術大学卒業後、東京藝術大学大学院で文化財修復を修了。古陶器の研究・復元制作を行いながら、陶磁器・漆器修復にも携わる。現在は作家活動と並行し、陶芸教室 陶房「橙」で指導も行う
新たな色を生み出すリユースという手法
多種多様な形状と、そこに重なり合う独特の色彩。陶芸家・竹村良訓さんは、ろくろを回しながら新しいかたちを考案し、それぞれのかたちに合わせて色を決め、釉薬をかけていく。即興で生み出される、かたちと色。ゆえにひとつとして同じ作品は存在しない。
「僕にとって作陶は、実験と同じなんです。粘土の配合や釉薬の調合によっても、仕上がりはすべて異なりますから。作陶するその時々の感覚で、常に新しいものをつくっています」
竹村さんは幼少期から理科の実験が好きだった。大学は理工学部を志望するも、美術教師の勧めもあり、武蔵野美術大学の工芸工業デザイン学科へ進学。入会した陶芸サークルで焼物との相性のよさを感じたという。
「大学で専攻した木工は、最初から素材が出来上がっています。しかし陶芸は、粘土を成形し、素焼き、釉かけ、窯入れを行い、そこで化学反応を起こしてようやく完成。工程が理科的で、自分に合っていると感じました」
大学卒業後は陶芸を続けながら、大学院で文化財の修復を学び、古陶磁の研究や復元に携わる。当時制作していたのは渋い色合いの茶碗など。そんな中、美しい色彩の作品を残した陶芸家、ルーシー・リーやベルント・フリーベリと出合い、釉薬研究に没頭するようになる。
「『こんなにきれいな色がつくれるのか』と実験精神が出て、色数はどんどん増えていきました。現在は100色ほど。色は固定でなく、新たに調合した釉薬と随時入れ替わっています」
2〜3年ほど前からは、刷毛(はけ)を洗う際に出た釉薬のオリと、道具や手を洗う際に出た粘土のオリをリユースした、「再生釉」と「再生土」を制作に使用。どちらもグレイッシュな色で、そのまま用いたり、別の釉薬や土を混ぜて使ったりと、竹村さんの表現がさらなる広がりを見せている。
「以前は捨てていたものなので、『もったいない』という気持ちではじめました。いまは色や土のバリエーションのひとつとして、楽しんでいます」
竹村さんの作品は、変化と進化を続けている。すべて一点ものだからこそ、作品とのめぐり合いは一期一会。それは深い愛着につながっていくだろう。
「ものの価値は値段ではなく、もつ人の愛着によって決まります。僕の作品の一つひとつが誰かの心に響き、愛着を抱いてもらえたらうれしいですね」
竹村さんがつくる作品は、暮らしの中で生かせるもの。定番のかたちはほとんどなく、カップや皿といったうつわ、「アートピース」と呼ぶ花器やオブジェなどを制作している。作品の用途も限定しておらず、使い手の感性に応じて楽しんでほしいという。
「作陶の主眼は新しいものをつくること。だからこそ定番化はあえて避けている面があります。制作工程で一番おもしろい瞬間は、窯出しをするときですね。新しいアイデアがどの作品にも必ず入っているので、どんな風に焼き上がったのか楽しみなんです」
竹村さんといえば「カラフルな作品」をイメージする方も多いだろう。しかし近年は、色粘土を複数組み合わせて模様をつくる「練り込み」の作品、再生釉や再生土を用いたアースカラーの作品などにも注力している。
「“竹村良訓”という作家像を固定したくないんです。新しい作品を通じ、いい意味で裏切っていけたらなと」
作品にはサインも入れていない。それは時代性や言葉に代わるテーマすらもたない存在感を目指すからだ。
「時代を超えても新しい、古いものが好きなんです。自分も作品も末長く愛していただいた末に、アンティークになれたらいいなと思っています」
※すべて一点もののため、価格やサイズなど若干の変更が生じる可能性があります。
陶房「橙」
住所|千葉県松戸市六高台4-1-8
見学|不可
問い合わせ|@takemurayoshinori(Instagram)
※陶芸教室は新規入会休止中。不定期でワークショップを開催。
text: Nao Ohmori photo: Kenji Okazaki
Discover Japan 2022年12月号「一生ものこそエシカル。」