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陶芸家・竹村良訓さんのうつわ
“個性”を好きになるオンリーワンの色彩

2022.12.24
陶芸家・竹村良訓さんのうつわ<br><small>“個性”を好きになるオンリーワンの色彩</small>

陶芸家・竹村良訓さんがつくる作品は、すべて色の組み合わせやかたちが異なる一点もの。新しさを追求し、自由な発想で生み出される作品はどれも個性的だ。自分だけが手にする作品だからこそ、自然と愛着がわいてくるだろう。

竹村良訓(たけむら・よしのり)さん
1980年、千葉県生まれ。武蔵野美術大学卒業後、東京藝術大学大学院で文化財修復を修了。古陶器の研究・復元制作を行いながら、陶磁器・漆器修復にも携わる。現在は作家活動と並行し、陶芸教室 陶房「橙」で指導も行う

新たな色を生み出すリユースという手法

多種多様な形状と、そこに重なり合う独特の色彩。陶芸家・竹村良訓さんは、ろくろを回しながら新しいかたちを考案し、それぞれのかたちに合わせて色を決め、釉薬をかけていく。即興で生み出される、かたちと色。ゆえにひとつとして同じ作品は存在しない。

「僕にとって作陶は、実験と同じなんです。粘土の配合や釉薬の調合によっても、仕上がりはすべて異なりますから。作陶するその時々の感覚で、常に新しいものをつくっています」

竹村さんは幼少期から理科の実験が好きだった。大学は理工学部を志望するも、美術教師の勧めもあり、武蔵野美術大学の工芸工業デザイン学科へ進学。入会した陶芸サークルで焼物との相性のよさを感じたという。

「大学で専攻した木工は、最初から素材が出来上がっています。しかし陶芸は、粘土を成形し、素焼き、釉かけ、窯入れを行い、そこで化学反応を起こしてようやく完成。工程が理科的で、自分に合っていると感じました」

現在、作陶で使用している釉薬のテストピース。左側のテストピースは、再生釉を用いたもの。再生釉に釉薬の原料となる鉱物や金属を加えることで、さまざまな色が生まれるという。再生釉のグレイッシュなカラーを生かした、深い色合いが美しい

大学卒業後は陶芸を続けながら、大学院で文化財の修復を学び、古陶磁の研究や復元に携わる。当時制作していたのは渋い色合いの茶碗など。そんな中、美しい色彩の作品を残した陶芸家、ルーシー・リーやベルント・フリーベリと出合い、釉薬研究に没頭するようになる。

「『こんなにきれいな色がつくれるのか』と実験精神が出て、色数はどんどん増えていきました。現在は100色ほど。色は固定でなく、新たに調合した釉薬と随時入れ替わっています」

2〜3年ほど前からは、刷毛(はけ)を洗う際に出た釉薬のオリと、道具や手を洗う際に出た粘土のオリをリユースした、「再生釉」と「再生土」を制作に使用。どちらもグレイッシュな色で、そのまま用いたり、別の釉薬や土を混ぜて使ったりと、竹村さんの表現がさらなる広がりを見せている。

「以前は捨てていたものなので、『もったいない』という気持ちではじめました。いまは色や土のバリエーションのひとつとして、楽しんでいます」

竹村さんの作品は、変化と進化を続けている。すべて一点ものだからこそ、作品とのめぐり合いは一期一会。それは深い愛着につながっていくだろう。

「ものの価値は値段ではなく、もつ人の愛着によって決まります。僕の作品の一つひとつが誰かの心に響き、愛着を抱いてもらえたらうれしいですね」

竹村さんの工房。奥の棚には、釉薬の原料や調合した釉薬などが並べられている

竹村さんがつくる作品は、暮らしの中で生かせるもの。定番のかたちはほとんどなく、カップや皿といったうつわ、「アートピース」と呼ぶ花器やオブジェなどを制作している。作品の用途も限定しておらず、使い手の感性に応じて楽しんでほしいという。 

「作陶の主眼は新しいものをつくること。だからこそ定番化はあえて避けている面があります。制作工程で一番おもしろい瞬間は、窯出しをするときですね。新しいアイデアがどの作品にも必ず入っているので、どんな風に焼き上がったのか楽しみなんです」

竹村さんといえば「カラフルな作品」をイメージする方も多いだろう。しかし近年は、色粘土を複数組み合わせて模様をつくる「練り込み」の作品、再生釉や再生土を用いたアースカラーの作品などにも注力している。

「“竹村良訓”という作家像を固定したくないんです。新しい作品を通じ、いい意味で裏切っていけたらなと」

作品にはサインも入れていない。それは時代性や言葉に代わるテーマすらもたない存在感を目指すからだ。

「時代を超えても新しい、古いものが好きなんです。自分も作品も末長く愛していただいた末に、アンティークになれたらいいなと思っています」

プレートA
茶系の色に調整した再生土と鮮やかな色をつけた粘土を使用した、練り込みのプレート。再生土のもととなるオリは、さまざまな粘土がごちゃ混ぜとなっているため、再生土のベースはグレイッシュな色。そこに鉱物や金属を加えて、色を調整していく
価格|8000円、サイズ|約φ200×H20㎜、素材|陶磁器
プレートB
練り込みの技法で、淡い色彩のマーブル柄を表現。マットな質感と、ニュアンスのある独特の表情が美しい。ポイントとなる青いギザギザ模様は、フライドポテトをつくる道具「ポテトカッター」を使用して生み出しているとか
価格|8000円、サイズ|約φ200×H20㎜、素材|陶磁器
水玉プレート
これまでの竹村さんの作品では珍しい、モノトーンのうつわ。ランダムに描かれた無数のドットが、洗練されたモダンな表情を醸し出している。何を盛るか考えるのも楽しい
価格|1万円、サイズ|約φ200×H35㎜、素材|陶磁器
水玉ボウル
さまざまな用途で使える、三角形のボウル。竹村さんの新技法「撥水釉薬」で、先に白い水玉模様をつけ、その後全体に黒い釉薬をかける、という手法でつくられている
価格|1万2000円、サイズ|約φ140×H80㎜、素材|陶磁器
スモールカップ
竹村さんが「小さいマグ」と呼ぶ、少し大きめのカップ。深い茶系とくすみがかったブルー系の釉薬による色の組み合わせ、ラフな模様とのバランスが美しい
価格|6000円、サイズ|約φ75×H85㎜、素材|陶磁器
ボウルA
再生土、再生釉、撥水釉薬と、近年編み出した竹村さんの新しい技法が多数用いられた作品。シックな風合いで、スタイリッシュな佇まい。かたち違いのアイテムも制作した
価格|1万円、サイズ|約φ160×H70㎜、素材|陶磁器
アルファベットカップ
持ち手が「P」になったカップで、色のパターンは異なるがさまざまなアルファベットのバリエーションがある。グレーの部分は再生釉薬の色をそのまま生かしている
価格|6500円、サイズ|約φ60(取っ手含むW95㎜)×H75㎜、素材|陶磁器
花器A
「アートピース」と呼ぶアイテムのひとつ。「アート作品という意味合いではなく、生活の中で『見る』という使い方も楽しんでもらえたら」と竹村さんは話す
価格|2万円、サイズ|約φ55×H180㎜、素材|陶磁器
フードボウル(デザートカップ)
犬用フードボウルとしてつくられたが、人間が使ってももちろんOK。このアイテムの売上の一部は、保護犬・保護猫シェルター「ライフボート」に寄付しているという
価格|8000円、サイズ|約φ110×H80㎜、素材|陶磁器
ランプシェードA
イエロー系の釉薬のベースに、オリジナル技法「飛ばし」で模様をつけたランプシェード。オブジェのような存在感を放ち、インテリアのアクセントにもなるだろう
価格|未定、サイズ|φ100×H80㎜、素材|陶磁器
果物のオブジェ
コロンとした愛らしいフォルム。つやのある質感やマットな質感など釉薬の色によって手で触れたときの感覚が変わるのもおもしろい。へたの部分は再生土でつくられている
価格|1万円、サイズ|φ75×H110㎜、素材|陶磁器

※すべて一点もののため、価格やサイズなど若干の変更が生じる可能性があります。

陶房「橙」
住所|千葉県松戸市六高台4-1-8
見学|不可
問い合わせ|@takemurayoshinori(Instagram)
※陶芸教室は新規入会休止中。不定期でワークショップを開催。

text: Nao Ohmori photo: Kenji Okazaki
Discover Japan 2022年12月号「一生ものこそエシカル。」

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