日々の生活に欠かせない暮らしの道具「焼物」
うつわの基礎知識

日本人にとって身近な焼物。食卓を彩るだけでなく、手入れすれば長きにわたって使うことができ、愛着のもてる道具です。まずは、焼物に関する基礎知識を押さえるところからスタートしましょう。
なぜ焼き物は日本で盛んになったのか?
焼物の産地は全国に500カ所ともいわれている。これほどまでに焼物が盛んになったきっかけは何だったのだろうか。焼物がはじまったのはいまから約1万2000年前。その後独自の進化を遂げ、中世には後に 「六古窯」と呼ばれる瀬戸、常滑、越前、信楽、丹波立杭、備前で壺や甕が焼かれるようになった。その後、秀吉の朝鮮出兵で多数の陶工が日本に連れてこられ、飛躍的に製陶技術が進歩したのだ。
ちょうどその頃、千利休が茶の湯を確立し「茶陶文化」が花開く。茶の湯に熱中した各地の大名たちは自分の領地に窯を開き、また商家などがパトロンになって焼物づくりを推奨する。これにより全国に製陶が広まり、土地それぞれの特徴を競うようになったという。
焼物をつくるのに、特別なものは要らない。材料となる粘土と、それを焼く薪さえあれば、これといった名産のなかった土地でも焼き物はできる。中国大陸や朝鮮半島では、焼物を使う習慣が日本ほどには広まらなかった。これは彼らが基本的に狩猟民族であったためだ。移動の多い生活に割れやすく重い焼物は不便。一方、日本は定着型の農耕民族。甕や壺に食料を蓄え、薄手の茶碗や皿に食事を盛る。焼物が欠かせない暮らしがそこにあったのだ。
各部には名前があるんです

茶巾摺(ちゃきんずれ)
茶巾で拭う内側上部のこと。底部は「茶溜まり」、周辺の凹凸部は「茶筅摺」と呼ぶ
口辺り(くちべり)
蓋の付いていないうつわの縁部分。「口縁」とも。口当たりは成形や釉の感触で異なる
見込(みこみ)
碗状のうつわの内側。内側全体を指す場合と、内側正面や内側中央底面を指す場合がある
胴(どう)
茶碗の胴体部分。茶碗の顔となる部分で主に景色が表れる。中央部の膨らみは「腹」
腰(こし)
茶碗の中心の「胴」の下部から「高台脇」までの部分を「腰」と呼ぶ。これは徳利でも同じ
高台(こうだい)
外側の底部。丸い輪のかたちの「輪高台」が多いがほかに「切高台」、「割高台」なども
高台脇
「高台」の外側周辺。「高台際」ともいう。窯印を施すことも。釉切れ、釉溜まりが表れる
高台内
高台内部のことで「高台裏」ともいう。釉がかかっておらず土の味が楽しめる
畳付き
高台底部。畳の上に置いた場合に、直に接触する部分なのでこう呼ばれる
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バリエーション豊かな釉薬
自然の鉱物を原料とする釉薬は焼成するとガラス質に変化。これを表面にかけて焼くため陶磁器は吸水性が少なく傷つきにくい。色合いも多様で、装飾の役割も。

草木の灰を主原料とする釉薬で、灰の性質が色に反映される。藁灰(わらはい)は白濁色など

鉄分を主成分とする釉薬。酸化炎で焼くと茶褐色または黒系の艶やかな飴色に発色する

銅を発色剤とする釉薬。還元焼成をすると全体が真っ赤に色づく。焼成が難しいとされる

釉薬に含まれる少量の鉄分を還元させて淡青や淡緑の透明ガラスに。気泡も独特の風合い

鉄分を含む長石や酸化鉄などにより、黒、黒褐色、漆黒など、さまざまな黒に焼き上がる
個性を決める装飾
絵付けや染付けのほか、布や櫛を使って模様を入れるなど、さまざまな装飾技法によって焼物はより表情豊かに、個性的になる。代表的な装飾を覚えておこう。

ベースの上に白泥を全体にかけ、透明釉を施して焼く技法。白い粉が積もったように見える

色絵具による上絵付け。金彩を加えると金襴手と呼ばれる。九谷焼や、伊万里焼などに多い

染付け技法のひとつ。呉須という藍色の彩料を霧状に吹きつけ、濃淡やグラデーションを表現

櫛の歯のような道具で平行線や波形などの模様を入れる装飾技法。益子焼などに多い

白泥などの化粧土を刷毛で表面に塗りつけて刷毛の跡を残し、透明な釉薬をかける技法
料理の盛りつけが楽しくなるさまざまなカタチ
日本料理の盛りつけの美しさにひと役買っているのがうつわのかたちのバリエーションの豊富さ。何を盛ろうかと考えながら選ぶのも楽しい。使い勝手も吟味して。

焼き魚をはじめ先付や前菜にも。少量をバランスよく配すると料理を美しく演出する

液体が流れやすいように片側に注口を付けたもの。酒器、鉢・向付としても好まれる

家庭で多様使いできる楕円形の鉢。和食器でも人気が高まり、多彩な装飾のものが登場

珍味や薬味を盛ったり、醤油を入れたりと幅広く使える小さなうつわ。形状も彩りもさまざま


もとは向付の別名。現在は蕎麦汁を入れる蕎麦猪口、酒を飲むための杯が一般的

口辺りのすぐ下あたりに耳が2カ所向かい合うかたち。鉢ものや花入れ、水指などもある

和え物や酢の物などに使いやすい形状。小ぶりなら向付にも。大きなものは盛り合わせに

縁に規則的な切り込みや凹凸があり、口づくり全体が花型の皿や鉢。料理を華やかに演出
edit: Miyo Yoshinaga illustration: Tomoyuki Aida
Discover Japan 2020年12月 特集「うつわ作家50」
≪うつわの基礎知識≫
1|日々の生活に欠かせない暮らしの道具「焼物」
2|日々の生活に欠かせない暮らしの道具「陶器」
3|日々の生活に欠かせない暮らしの道具「磁器」
4|日々の生活に欠かせない暮らしの道具「漆器」【前編】
5|日々の生活に欠かせない暮らしの道具「漆器」【後編】
6|うつわを長く愛用するための、正しいお手入れ方法
7|1分でわかる焼物のルーツと見分け方