「一澤信三郎帆布」の麻かばん
自分好みに育てる京土産
買って帰りたい京都
いまは何でも取り寄せて買える時代。でも、せっかく京都を訪れたなら、足を運ばないと聞けないつくり手の話とともに買って帰りたい、京都ならではの”いいもの”を、京都出身の目利き人・内藤恭子さんが厳選して教えてくれた。
選・文=内藤恭子
共著『京都を買って帰りましょう。』をはじめ、ジャンルを問わずつくり手の取材を数多く手掛ける。作家作品などを紹介するショップ「好事家 白月」も主宰する
私は祖母が住んでいた町家を事務所にしている。セルフリノベしたのだが、祖父も大工仕事が好きで、棚奥から道具入れが出てきた。帆布製で、タグには「一澤帆布製」とある。いまでは「一澤信三郎帆布」として親しまれている、あの名店のものだ。
古くから店を知る人たちにとってこの店のかばんは、丈夫な道具のイメージが強い。京都の牛乳店では配達に牛乳入れを使うのがツウで、いまもアレンジしてつくり続けられている。一度、取材の際、過去の製作物を見せていただいた。登山用リュックに楽器ケースなど、「つくれないものはないんじゃないか?」と思うほどあれこれ出てきたが、その中に麻の生地があった。ご主人の一澤信三郎さんによると、第二次大戦中の兵器のカバー用の生地だという。これを気に入った奥さんが、麻帆布のかばんを復刻させた。シャキッとなめらかな手触りは、綿帆布とまた違う質感で、使い込むとクタッと柔らかくなる。ヨーロッパから生地を取り寄せたこともあったが、内戦でスエズ運河が通れず届かなくなったことも。生地の品質と供給を安定させるべく、麻糸を輸入し、日本で織って特別に染め、オリジナルの麻帆布生地を仕立てた。「麻だけやないで、綿帆布も特注品。効率化や合理化のせいで、どんどん使いたいもんがなくなっていく」。そのため、あらゆるものを特注せざるを得ず、小さな金具にまでICHIZAWAの刻印が入ったオリジナルだ。「かばんはあくまで道具。丈夫で使いやすく、修理して長く使えるもんやないとあかん。それがつくる側の責任」と言い切る。だからこのかばんを持つたび、その実直さを思い出し、大切な何かを思い出すのだ。
一澤信三郎帆布
住所|京都市東山区東大路通古門前上ル高畑町602
Tel|075-541-0436
営業時間|10:00〜18:00
定休日|火曜
https://www.ichizawa.co.jp/
《買って帰りたい京都》
1|薄紅色に透き通る、とろける鯖の大トロ「祇園いづ重」の鯖姿寿司極上
2|織姫さまにも差し上げたい甘い5つの口福「松屋藤衛門」の珠玉織姫
3|緑茶だけではない京のお茶「椿堂茶舗」の京都紅茶
4|新撰組も味わった昔ながらの漬物の味「総本家近清」の漬物
5|無精者も虜にする簡単出汁「うね乃」の出汁
6|自分好みに育てるかばん「一澤信三郎帆布」の麻かばん
7|巨匠も愛した芸術品を普段に楽しむ贅沢「竹中木版竹笹堂」の木版手摺和紙
8|京都を代表する“カワイイ”を連れ帰る「三三屋」の高山寺の仔犬
9|貴人の愛した古裂をそっと忍ばせて「ちんぎれや」のがま口
10|集めても贈っても穏やかな表情で福を招いてくれるはず「嵐山いしかわ竹乃店」の嵯峨面
photo: Sadaho Naito
Discover Japan TRAVEL 2019年号 特集「プレミアム京都2019」