高知の宴文化“おきゃく”とは?
皿鉢料理と日本酒で愉しむ土佐文化
前編|土佐のおきゃくを味わう冬の旅へ
酒と宴をこよなく愛する、おおらかな県民性で知られる高知。脈々と伝わる “おきゃく”のもてなしを体験すれば、初対面の人とも和やかに打ち解け、知らなかった高知が見えてくる。前編では、名料亭で体験するお座敷遊びとともに、土佐流もてなしの魅力をご紹介。
line
高知の美味しく楽しい酒文化を堪能

南国の風土で、豪放磊落な気風が育まれてきた高知。山内容堂など歴代の土佐藩主が酒豪揃いであったというエピソードなどから、酒好きのイメージも強い。酒が好きなら、酒を楽しむ席も大好き。そんな気質を象徴するのが“おきゃく”だ。“お客”を招いて開く宴は、やがてそれ自体が“おきゃく”と呼ばれるようになったという。
冠婚葬祭をはじめ、祝い事や節句の際に催される“おきゃく”の付き物といえば、皿鉢料理。大皿を用いて、刺身や鮨、煮物、和え物、そして甘味や果物などが賑やかに盛り込まれた料理の総称だ。下ごしらえこそ手間と時間を要するが、事前にすべてを用意してからゲストを迎えることができるので、給仕に追われる人も出ず最初から宴の一員に。あとは、各自が好きなものを好きなだけ。現代でいうビュッフェスタイルのような、とても合理的でみんなに優しいシステムなのだ。

折に触れて開く“おきゃく”に備えて、一般家庭でも大皿と取り分け用の小皿、徳利やお猪口を多数揃えていたとか。さらには時間を忘れて夜更けまで盛り上がったときのために、お客用の布団まで常備していたというから心が和む。
大皿を囲み、ざっくばらんに酒を酌み交わせば、立場や年代が違っても、いつしか家族のような気安さに。“おきゃく”を体感すれば、ますます高知が好きになる。
line
歴史ある料亭で
高知伝統のお座敷遊びを体験!

いかに楽しく酒を飲んで、“おきゃく”を満喫するか。古くからその追求に余念のない高知県人にとって、お座敷遊びも外せない。
皿鉢料理と美酒を味わい、場が温まった頃が座興の出番。天狗、ひょっとこ、おかめをかたどった、卓に置けない形状の「べく杯」は、あまりにも有名なアイコンだ。各キャラクターの絵が描かれた特製のこまを回し、出た目に描かれた杯で酒を受けるのがお約束。最も杯の容量が多い天狗が出ると、いやが上にも盛り上がる。こま回しにもコツがあり、3回続けて失敗した場合は天狗の杯を干すペナルティが。「たまるか(なんと)!」と、土佐弁でリアクションしてみるのも楽しいだろう。

ゲームに負けたら、楽しく罰杯を受けよう。酒を飲み干す際は、お面を被ったようにべく杯を持つのがポイント。大ぶりな天狗の杯は、写真映えも抜群だ
見えないよう握り込んだ箸を一対一で出し合い、合計の本数を当てる「箸拳」も、シンプルだがヒートアップ必至の遊び。実は、坂本龍馬が新婚旅行で鹿児島を訪れた際に「なんこ拳」なる遊びを知り、大いに気に入ったため土佐にもたらしたのがはじまり……という説も。このほか、伏せた杯を一人ずつひっくり返していき、中に仕込まれた花を引き当てた人が酒を飲むという、ロシアンルーレットのような「菊の花」なども。
飲むほど、酔うほどに取りつかれる“おきゃく”の魅力。酒が飲めなくても、心配は要らない。ノンアルコールでも十分に雰囲気を楽しめる。老舗料亭「得月楼」で仲居さんから手ほどきを受けながら遊びに興じれば、龍馬ら先達の酒豪と肩を並べたような気分に。
150余年の歴史を紡ぐ名料亭で、至福のもてなしを
「得月楼(とくげつろう)」

1870(明治3)年、玉水新地で創業。南海第一楼(西日本一の料亭)と称され、宮尾登美子の著書『陽暉楼』のモデルとなった。文人墨客の書画を多数所有し、典雅な和風建築の離れからは、幕末の著名な庭師が手掛けた庭園を望むことができる。山海の幸をふんだんに使って仕立てた、豪快かつ繊細な土佐料理を楽しみたい。皿鉢料理は2名から提供可、前日までに要予約。お座敷遊びは別途リクエストを。


得月楼(とくげつろう)
住所|高知県高知市南はりまや町1-17-3
Tel|088-882-0101
営業時間|11:00~14:00(L.O.13:30)、17:00~22:00
定休日|月曜(祝日の場合は水曜休)
www.tokugetsu.co.jp
line
地元の人々の日常に触れられる
“おきゃく”体験

より日常の目線で「おきゃく」を体感できるスポットも。場所は四国の中央に位置する土佐町。元小学校の建物を生かしたコミュニティセンターで、地域住民に迎えられての宴会がかなう。
こちらの皿鉢料理は、山里ならではの美味が凝縮。魚の代わりにタケノコやコンニャク、ユズなどを使った田舎寿司、山菜の炒め物や漬物といった素朴で滋味深い品々が、じんわりと心に染みる。酌み交わすのは、土佐町で長年愛される地酒。校舎の面影と相まって、はじめて訪れたのにどこか懐かしい。館内で宿泊もできるので、宴が長引いて夜が深まっても、そのまま布団へ。旅なのに里帰りさながら。そんな体験もまた「おきゃく」の醍醐味だろう。

山村の学び舎跡で、地元目線の宴会に触れる
「いしはらの里」

2009年まで数多くの子どもたちを育んだ旧石原小学校を、地域のコミュニティ拠点として再生。「いしはらのおきゃく!」プランでは、ホスピタリティ精神あふれる地元の“おんちゃん・おばちゃん”たちと交流しながら、皿鉢料理や地酒を味わえる。ほかにバウムクーヘンづくりや薪割り、木工など体験プログラムも充実。館内には家族風呂やシャワールームが新設されているので、宿泊(1名4000円)も快適。

いしはらの里
住所|高知県土佐郡土佐町西石原1228
Tel|0887-72-9328(月~金曜、9:00~17:00)
※「土佐のおきゃく文化を体験 大人の修学旅行 土佐のおんちゃん・おばちゃんと語る いしはらのおきゃく!」1泊2日1万9800円(宿泊料、香る竹食器づくり一式、桂月飲み放題のいしはらのおきゃく体験、朝食。10~30名で受付可能)
※「土佐のおんちゃん・おばちゃんと語る いしはらのおきゃくランチ」日帰り4000円(地鶏BBQ、10~40名で受付可能)
www.ishiharanosato.jp
line
≫次の記事を読む
text: Aya Honjo photo: Azusa Shigenobu
2026年1月号「世界を魅了するローカルな酒」



































