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「オーテピア」
高知の「知」を育てる、西日本最大級の冊数を誇る複合施設

2021.9.19
「オーテピア」<br> 高知の「知」を育てる、西日本最大級の冊数を誇る複合施設

高知県高知市の中心街に建つ、ひと際目を引く美しい建築。ここは全国初の県と市の合築による複合施設だ。高知県と高知市が協力して2018年に完成させた「オーテピア高知図書館」、「オーテピア高知声と点字の図書館」、「高知みらい科学館」の3施設。
東京国際展示場などを手掛けた佐藤総合計画による建築も魅力的なオーテピア。100年の歴史を持つ背景と各施設の見どころを紐解こう。

江戸時代までの「図書館」

日本で「図書館」が登場したのは明治時代になってからのこと。それまでは今日のような図書館はなかったが、図書館としての機能を持った施設は古くから存在していた。

日本で初めて公開図書館を創設した石上宅嗣(いそのかみのやかつぐ)

日本で最も古い図書館は、律令制の時代に誕生した図書寮(ずしょりょう)だ。一般に開かれた施設ではないが、文殿(ふみどの)に国家の蔵書などを保管するとともに、国史の編纂や図書の装丁、仏像の管理も行っていた。一方、初の公開図書館は、奈良時代後期の貴族・石上宅嗣が平城京に創設した私設図書館「芸亭(うんてい)」。好学の士に対して蔵書を開放していた。

鎌倉時代には、北条実時(さねとき)が私設図書館「金沢文庫」を設立し一般の人々にも本を貸出。また室町から戦国時代の関東最高学府と言われる足利学校は、学校図書館の機能も持ち合わせていた。

江戸時代に入ると、徳川家康が江戸城富士見亭に、金沢文庫の蔵書を移して「富士見亭文庫」を創設。1644(寛永10)年からは書物奉行4名を置き、蔵書管理や目録編纂を行った。同時期、江戸で板坂下斎(いたさかぼくさい)による私設の「江戸浅草文庫」、仙台では「青葉文庫」など、一般公開を行う私設文庫が出現するようになった。ただし、このような公開図書館を利用できる人は一部で、一般的に親しまれたのは有料の貸本屋だった。

「高知」と「図書館」の歴史

1916(大正5)年に建設された高知県立図書館。大正モダンな建築が特徴だ

さて、高知にはいつから「図書館」があったのか?
江戸後期、福沢諭吉が西洋の「ライブラリー」を初めて日本に紹介し図書館の必要性を主張したことをきっかけに、明治時代に入ると全国的に公立図書館が設置されていった。
高知県でも1879(明治12)年に初めての図書館となる「高知書籍館(しょじゃくかん)」が高知城三の丸懐徳館に開設。前年まで、国内には5館しか書籍館がなく、この年に新たに5館が作られ、そのうちのひとつが高知書籍館だった。また、全国的に増えた公立館がその後閉館する中、高知書籍館の閲覧者数は年間5000人台を保ち、全国でもトップクラスだった。

明治時代末期から大正初期にかけて通俗教育(社会教育)の必要性が語られるようになり、図書館は社会教育の重要な役割を担うものとして位置づけられた。高知県においても通俗図書館を求める声が上がり、1916(大正5)年、現在の県庁敷地の西端付近に高知県立図書館が建設された。この県立図書館は、まさに大正モダンと呼ぶに相応しいハイカラな外観。同年に行われた開館式には県内外の人々が参加し盛大なものとなった。

しかしその後、大正モダンの高知県立図書館の館舎は第二次大戦の高知空襲で灰燼に帰す。このとき疎開寸前だった貴重な郷土資料を含め、13万冊余りの蔵書は館と運命を共にしたのだった。

戦後まもなく、職員は空襲後に事務所として間借りしていた海南中学校(現高知小津高校)で再建への第一歩を踏み出す。そして1946(昭和21)年、同学校にて約1年ぶりに図書館としての再スタート。1950(昭和25)年に、待望の県立図書館が移転と共に再建された。

1948(昭和23)年7月、全国で最も早く開設された自動車文庫。当時は2か月に一度のペースで宇佐・大栃・梼原・大野見松葉川・豊永・別府など9コースを巡回

戦後、日本の占領政策を実施した連合国軍最高司令官総司令部(GHQ)には、民主主義の普及や教育改革などを担当する民間情報教育局(CIE)があり、そこには図書館政策の担当官が置かれていた。CIEは自ら「先進的」な図書館のモデルとして、各地にCIE図書館を設置。四国では、高松市と松山市に、そして徳島市と高知市にはその分館が設置された。このCIE図書館は、当時日本で一般的だった閉架式ではなく開架式の書架を採用するなど、アメリカ式の図書館だった。閉架式は自分で目録を調べてカウンターに請求し、本を職員に取ってきてもらうのに対し、開架式は直接書架を観ながら自分で本を手に取って選べる、今日の図書館のようなサービスが無料で受けられた。

1950(昭和25)年に図書館法が制定され、公立図書館のサービスや司書の資格などが定められ、またこれが公立図書館の利用料無料の原則の根拠法令となる。その4年後には、「図書館の自由に関する宣言」が採択され、図書館が民主主義を守るという決意が表明された。

高知県立図書館と共に「オーテピア」のルーツとなる高知市民図書館が誕生したのは、こうした時代だった。日本中の図書館がサービスの在り方を模索している段階で、市民図書館は次々と新たなサービスを展開し、日本の図書館界に指針を示していった。

1949(昭和24)年に開館した市民図書館は、蔵書不足や利用者増加による館内混雑、貸出時の保証金制度などさまざまな課題に直面するも、画期的なアイデアで乗り越えていった。とくに完全な無料貸出となった保証金制度の廃止と、貸出時の手続きが簡略化されたブックカード方式の採用は、利点が大きく、1960年代以降の日本の公共図書館では多く採用された。そして、最も衝撃を与えたのが1997(平成9)年に導入された図書館情報システム。これによって利用者と職員双方の負担が減り、利用者の増大に繋がった。

利用者数と蔵書数の増加は嬉しい悲鳴である反面、「広さ」という課題も突き付けた。市民図書館の改築移転の案が持ち上がる一方、県立図書館も建物の老朽化や狭隘化から改築移転を検討していた。1990年頃から約10年間それぞれが別々に移転改築計画を進め、互いに難航していた中、2007(平成19)年に当時の知事と市長の会議の中で問題が交差し、県と市が手を携える新たな図書館づくりが進められる運びとなり、2018(平成30)年、高知県立図書館と高知市民図書館は「オーテピア高知図書館」として生まれ変わった。

高「知」の樹を育てる空間

3つの施設が併設されたオーテピアは、いわば高知の「知」を担う場所として「高“知”の樹」をコンセプトに追手前小学校跡地に建てられた。 「オーテピア」という名称は、追手前小学校跡地の場所にちなんだ「オーテ」と、多くの仲間が集い利用する場になるよう英語で仲間を表す「ピア」を組み合わせたもの。

建築を担当したのは、大隈講堂の建設にも関わった建築家・佐藤武夫が創設した建築設計事務所を前身とする佐藤総合計画。現在代表を務める細田雅春氏は、東京国際展示場や広州国際会議展覧中心などを手掛けたことでも知られている。

本施設の収蔵可能冊数は、なんと西日本最大級の約205万冊。こうした膨大な蔵書を効率よく収蔵するため、170万冊を収蔵する書庫はガラス張りにし、閲覧スペースの中心に。膨大な蔵書、すなわち「知の集積」を身近に感じ取れる設計とした。この書庫は構造コアとしても機能し、同館の「幹」となっている。

各フロアは高い階高の中に書庫を2層に積層、閲覧スペースは開放的に作られている。外周部には内部庇を巡らせて機能空間を配置し、機能や場所に合わせて柔軟に広がる「枝」をイメージした空間に。

外装には、高知の強い日差しを制御しつつ柔らかな自然光として取り込む「葉」のような存在としてリーフルーバーを設置。周囲に大きく開かれた同館の周辺には、カフェやレストランなどもあり、高知の賑わいの中心として、地域に根付いている。

こどもコーナー。子どもたちが利用しやすいよう、書架や床が配慮されている

すべての人を本の世界へ!
「オーテピア高知 声と点字の図書館」

障害や高齢、病気などのさまざまな理由により、本を読むことが難しい人は多く存在している。「オーテピア高知 声と点字の図書館」は、そういった読書が困難な人を、さまざまなバリアフリー図書でサポートしている。

視覚に障害のある人だけでなく、身体の麻痺などにより本を持ったりページをめくったりできない人、長時間集中して読めない人、文字や文章を認識・理解するのが難しい人などに向けて、活字図書を音声で読み上げてCDに録音した「録音図書(声の本)」、視覚障害者に向けて活字図書を点字に打ち直した「点字図書」、音声サポート付きの電子書籍「マルチメディアデイジー図書」など、全国のボランティアによって製作されたバリアフリー図書を扱っている。

そのほかにも、対面音訳(要予約)、見えない・見えにくい人を対象とした福祉機器などの紹介や操作方法の説明なども行われている。

親しみやすいオープンな閲覧室。録音図書や点字図書、マルチメディアデイジー図書など、色々なバリアフリー図書が閲覧できる。各種バリアフリー図書の展示やパソコンコーナー、視覚障害者向け機器展示コーナーも

見て、触れて、感じて、作って、学び遊ぶ。
「高知みらい科学館」

日常生活の中に「科学の視点」を少し入れるだけで、生活が便利になったり、気持ちが豊かになったりすることがある。そんな科学の楽しさを、大人も子どもも一緒に体感できるのが「高知みらい科学館」だ。

常設展示では、高知県にゆかりのある科学者たち、高知の企業などの科学・ものづくり、高知の自然や生き物を紹介した展示や、宇宙・地球・光・音・運動・電気・感覚など、さまざまな科学体験ができる。

また800万個の星と美しい映像で大宇宙を描き出す「プラネタリウム」、土日や祝日などに開催される「サイエンスショー」、簡単な実験や工作を通して科学の楽しさに触れられる「ミニかがく教室」など、バラエティ豊かなラインアップだ。

プラネタリウムでは、高知でしか見られないオリジナル番組を参加者の反応に合わせながら話す生解説で案内

県内外の多様な人々に開かれ、知的好奇心を刺激してくれる3つの施設。インプットを増やすとともに、ふたつの図書館が歩んできた歴史に想い馳せてみてはいかがだろうか。

オーテピア
住所|高知県高知市追手筋2-1-1
時間|ウェブサイトを確認または電話にてお問合せください
アクセス|電車/JR高知駅より徒歩約20分(または路面電車で約15分) 路面電車/大橋通より徒歩3分、堀詰より徒歩5分 バス/帯屋町・追手筋より徒歩2分、大橋通より徒歩3分 車/高知ICから約15分、伊野ICから約17分、高知東部自動車道 高知南ICから約15分
Tel|088-823-4946(オーテピア高知図書館)、088-823-9488(オーテピア高知声と点字の図書館)、088-823-7767(高知みらい科学館)
https://otepia.kochi.jp

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