TRADITION

〈飛鳥〜平安時代〉
日本のスパイスの歴史

2026.1.6
〈飛鳥〜平安時代〉<br>日本のスパイスの歴史

わさびや生姜、七味唐辛子……。いまや日本人の食生活に欠かせない「スパイス」は、どのようにして日本で親しまれるようになったのか。その歴史をひも解こう。今回はエスビー食品制作協力のもと、飛鳥時代〜平安時代に日本でスパイスがどのように使われていたのか、その役割に迫る。

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『古事記』などの書物に
記載があるスパイスとは?

〈ゴマ〉
奈良時代の正税の出納状況を記した東大寺正倉院文書『正税帳』には、中央政府に納めていたもののひとつとして、「胡麻子」が記録されている。

〈ニンニク〉
『古事記』には、ヤマトタケルノミコトが白鹿に化けた神を倒すため、滋養強壮の用途で「蒜(ニンニク)」を用いたとの記述が残る。

〈山椒〉
『古事記』には「はじかみ」として記載。神武天皇が大和平定をした際の歌には、「口にするとひりひりとするもの」として詠われている。

〈わさび〉
日本最古の薬物辞典『本草和名』には、薬草として利用されていたわさびが「山葵」として記載。『延喜式』には「山薑」の名で記されている。

〈和からし〉
『延喜式』には、各国からの貢納品として「芥子(和からし)」の記載がある。甲斐国や信濃国などの中男(17~20歳)が納めた税のひとつだった。

〈生姜〉
醍醐天皇の命によって、平安時代中期に編纂された法典『延喜式』には、伝来時期は明らかではないものの、食用としての栽培が記されている。

世界ではスパイスはどう使われていた?

古代エジプトではミイラをつくる際に、防腐効果をもつ「シナモン」や殺菌作用をもつ「クローブ」が利用されていた。また、中国・漢の時代では宮廷の官吏が吐息を清めるために、1本の「クローブ」を口に含むという慣習も。さらに、教会や寺院に「山椒」や「シナモン」などを燻して空気を清める香煙としての利用もされていたとか。スパイスは、薬用や祭事、保存など多様な役割を担っていたことがわかる。

スパイスは貴重なお宝!
正倉院にいまも所蔵

聖武天皇が愛用していた60種の薬用植物
東大寺献物帳『種々薬帳』/正倉院正倉蔵

奈良県・東大寺の宝物や聖武天皇の遺愛品が現在まで保存されている「正倉院」には、シルクロードを通じて日本に渡来したスパイス(薬草)も納められている。薬草の目録を記録した『種々薬帳』には、東大寺の大仏に献納された約60種の薬物が記されており、そのうちの約40種はいまなお現存している。

(左上)「桂心 大」/正倉院正倉蔵  右上)「丁香」/正倉院正倉蔵
(左下)「畢撥」/正倉院正倉蔵  (右下)「大黄」/正倉院正倉蔵

〈桂心(桂皮)シナモン〉
クスノキ科の植物「桂(ケイ)」の樹皮。シナモンやニッケイなどの別名をもつ。中国南部からインドシナ半島のものとされる。健胃薬としての用途で使用されていた。

〈丁香 クローブ〉
フトモモ科の植物「チョウジ」の花蕾(からい)や未熟な状態の果実。当時はモルッカ諸島(マルク諸島)でのみ産出していたという。健胃薬や香料として使用。

〈畢撥 ヒハツ〉
コショウ科に属する植物「ヒハツ」の根と茎。熱帯アジアで産出されたものとされる。独特な香りで胃の機能を促進する芳香性健胃薬としての用途で使用されていた。

〈大黄〉
多年草のタデ科の植物「ダイオウ」の根茎(こんけい)。中国の高地で産出されたものとされる。腸を刺激して排便を促す緩下薬(かんげやく)の用途をもつ。

『源氏物語』に登場する
夏バテに効く薬草とは?

理想の女性像を語り合う「雨夜の品定め」に登場する「蒜」
『源氏物語図 帚木(巻2)』/大分市歴史資料館

疲労回復やスタミナアップなど、栄養価の高いスパイスであると同時に、強い臭いをもつスパイスとしても知られる「ニンニク」。実は、日本最古の長編小説『源氏物語』にも登場している。第2帖 帚木ははきぎの巻の「雨夜の品定め」の場面では、式部丞の男性が久しぶりに女性の元を訪ねると、「風邪が重く、『極熱の薬草』を服用していて、臭気があるため会うことができない」と面会を断られたというエピソードが。この「極熱の薬草」こそが暑気払いや風邪の治療で使用されていた「ニンニク」なのだ。

“ハッカ”も平安貴族の食卓に?

写真提供=北見ハッカ通商

歴史上最も古い栽培植物のひとつともいわれる「ハッカ」は、いまから2000年以上前に中国から日本に伝わったとされる。平安時代中期に編纂された漢和辞書『倭名類聚抄』には「波加」として、『本草和名』には「薄荷」として記載されていることから、平安時代の貴族の間でもハッカが親しまれていたことがうかがえる。

日本で唯一香辛料を祀る
波自加彌はじかみ神社

写真提供=波自加彌神社

石川県金沢市には、山椒や生姜といった香辛料の神を祀る神社「波自加彌神社」がある。奈良時代に加賀国の国造が雨乞いのために参拝し、救われたことから、住民たちは自生する生姜を献じて祭りを行うようになった。この祭りは現在も「はじかみ大祭」として続き、全国の香辛料にまつわる商品が奉納されている。

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写真提供=波自加彌神社

 

鎌倉〜安土桃山時代の
日本のスパイスの歴史

 
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日本のスパイスの歴史
01|独自のスパイス文化が花開くまで
02|縄文〜弥生時代
03|飛鳥〜平安時代
04|鎌倉〜安土桃山時代
05|江戸時代〜明治以降

text: Discover Japan cooperation & photo: S&B FOODS
2025年11月号「実は、スパイス天国ニッポン」

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