陶芸家《冨本大輔》
日本人の食卓の記憶を宿す
時代に流されないうつわ
愛知県常滑市で活動する陶芸家・冨本大輔さん。染付けといえば美しい白磁に描かれた姿を思い浮かべるが、冨本さんが探るのは、和食器の素朴な土に寄り添う染付けの姿。ろくろと真摯に向き合い、日本人の食卓に受け継がれてきた“暮らしの記憶”を現代に甦らせる──。

冨本大輔(とみもと だいすけ)
1973年、愛知県常滑市生まれ。窯元の家に育つ。愛知大学経営学部を卒業後、信用金庫に就職するものの、陶芸家である父の体調不良を機に2年で退職。以後、陶芸の道を歩みはじめる。
日本の食卓の記憶を再構築する

染付けといえば、呉須の藍が引き立つよう、白磁に描かれた姿が一般的。だが自らをあまのじゃくな性格だと話す冨本さんは「土物和食器と調和する染付けや色絵って、どんなものなのかなと。きれいじゃない生地に絵付けをする。そこを探っていまに至るところがあります」と、人懐っこさのある染付けを模索してきた。

土を締めて密度を上げる「土殺し」をはじめ、先人が培ってきた技術は理にかなっていると冨本さん。その積み重ねが合理的なうつわを生む
ところが、陶芸をはじめた当初はそんな性格もあってか「ろくろを使わなくても、おもしろいものがつくれるのでは」と、いまとは対極的ともいえるシンプルな白磁の作品を手掛けていた。だが、陶芸と向き合う時間が増えるにつれ、傷やひびが入りにくくゆがみにくい、雑器にふさわしい強さやしなやかさを生み出しているのは、ろくろなのだと気づいた冨本さん。先人の知恵への敬意や、ある作家の美しい染付けとの出合いが転機となり、ろくろにもうつわにも真摯に向き合うようになったのだという。
「日本の食卓が洋食化しているので、私のうつわは現代の日常からは少し外れている気がするのですが、そういう日本の奥ゆかしさが好きなんです。『これがいいじゃん』という意地もありますね」と、時代への逆行を楽しむかのように古伊万里などの骨董を研究し、日本人が培ってきた和食器の在り方を再構築してきた。うつわをひと目見れば、料理を自然に思い浮かべることができる冨本さんのうつわには、時代を超えて受け継がれてきた日本人の暮らしの記憶が宿っているともいえる。

肩ひじ張らない作風には、冨本さんがこれまでの人生で見たもの、聞いたもの、触れたもの、食べたもの…、そのすべてが落とし込まれているという。情報であふれる頭でっかちな現代社会こそ、自らも含め、もう少し動物的な五感を大切にするべきだと話す。「生きることの最終目的は、食べることじゃないかな。食べて命をつないでいく上で、どう暮らしていくかだと思っているんです」。そんな哲学にも似た思想から生まれるうつわは、気持ちよく食事をするための道具であると同時に、生きることの意味を静かに問い掛ける。
作品ラインアップ

灰釉絵付飯碗
常滑の赤土を混ぜて、ざっくりとした表情に。独楽(こま)から着想を得た絵付けとけんかしないよう鉄の吹き具合も調整。

灰釉絵付蕎麦猪口
釉薬を極力薄く施すことで生まれる緋色の微妙な表情が、染付けの呉須に加え、赤・青・黄の絵付けの色彩をいっそう際立たせる。

灰釉絵付深丼
胴の深さ、高台の高さ、腰の張り方など、うどん・蕎麦が似合う「ザ・どんぶり」を追求。縁の赤いラインが鮮やか。
line
Discover Japan Lab.
住所|東京都渋谷区宇田川町15-1 渋谷PARCO 1F
Tel|03-6455-2380
営業時間|11:00~21:00
定休日|不定休
公式Instagram|@discoverjapan_lab
text: Natsu Arai photo: Shiho Akiyama
2025年11月号「実は、スパイス天国ニッポン」



































