北海道札幌市「和洋折衷喫茶 Nagayama Rest」
有形文化財の中で温故知新の喫茶メニューを愉しむ。
北海道札幌市にあるカフェ「Nagayama Rest(ナガヤマレスト)」。ここは自然豊かな永山記念公園内にある北海道指定有形文化財、旧永山武四郎邸及び旧三菱鉱業寮に入る“和洋折衷”をテーマとした喫茶店だ。クリエイティブの力で蘇った歴史的建造物の“今と昔”に迫る。
古くて新しい 驚きに満ちた空間
かつて「屯田兵の父」と呼ばれた人物がいた。その名は永山武四郎。彼は明治初期、30代で鹿児島から北海道に渡り、67年の生涯をかけて北海道開拓の基盤をつくった人物。その功績はいまも語り継がれている。
そんな永山武四郎がプライベートを過ごした私邸が、北海道札幌市の永山記念公園内の旧永山武四郎邸だ。1880(明治13)年に建てられたとされるその建物は、1911(明治44)年に三菱合資会社が土地と建物を買収、1937(昭和12)年に三菱鉱業寮部分を増築。その後2018年に「旧永山武四郎邸及び旧三菱鉱業寮」として北海道指定有形文化財に指定され、北海道開拓史における貴重な建物であり観光文化スポットとして生まれ変わった。
リニューアルされたこの文化財の中にあるのが「和洋折衷喫茶 Nagayama Rest」。カフェのプロデュースからインテリアデザインまで、クリエイティブ面は、札幌のデザイン事務所「STUDIO WONDER」が手掛けている。
施設のリニューアルに伴い、耐震工事、補強・補修工事が行われる中、これまで物置として使われていた旧食堂スペースを有効活用し、飲食店をつくるというのがこのリニューアルの大事なポイントのひとつだった。そして、カフェ運営を札幌中心に多くの飲食店を手掛ける「WONDER CREW」、カフェのプロデュース・デザインを「STUDIO WONDER」が担当し、「Nagayama Rest」は誕生した。
このカフェの最大の魅力は、歴史的建造物・指定文化財という建物の個性。価値のある既存建物と調和する空間デザインに仕上げられている。壁・床・天井は基本的に新たに仕上げているが、中には階段下の柱など、かつての状態で残されている部分もある。カウンターやテーブル、ソファ等の什器は、この空間のためにオリジナルでデザインされたもの。カフェに入ってすぐ出迎えてくれるレセプションカウンターは、会計とオリジナルグッズ物販棚の機能を兼ね備えているオリジナル什器。建物の”洋”の部分に馴染むよう、ヨーロッパのアンティークカウンターの形をベースに、モダンな要素が組み込まれている。
客席は、エレガントな曲線を持つフレンチデザインの椅子。それに対する直線的なデザインのテーブルは、オリジナルで制作されたもの。真鍮古美塗装やMDFなどの木天板は柔らかい印象、クラシックとモダンが調和している。
そうして完成したNagayama Restは、文化財の中にありながらも新しさが感じられ、建物の中で過ごす時間をより心地よく、記憶に残る空間となった。
旧三菱鉱業寮側の入口から入ると、正面には店内が見える大きなガラス窓がある。これは新設時に加わった要素で、カフェのコンセプトでもある「文化財を継承する」というメッセージを込めて、蔦のように繋がるグラフィックと公園にある色や建物の色を持ち込んだ配色で、大きなリース型のモニュメントが出来上がった。
青い絨毯の秘密
店内に入ると目に飛び込んでくるのが、鮮やかな青い絨毯だ。これは施設とカフェの空間の切り替わりを表現するものでありながら、実はもうひとつの理由がある。空間が切り替わる際に床材が変わるのはポピュラーだが、青色の秘密は、寮の絨毯の赤に対して青を選び、北海道開拓使旗の色を表現しているのだ。
メニュー紹介
文化財の中にその背景を踏襲しながら、歴史と現在を見せる同店。建築やカフェメニューを愉しむととともに、観光資源開発や歴史文化との関わりの中にクリエイティブが関わる可能性にも注目して訪れたい。
和洋折衷喫茶 Nagayama Rest
住所|北海道札幌市中央区北2条東6-2
時間|11:00~20:00(フード19:00L.O./ドリンク19:30L.O.)
定休日|毎月第2水曜、年末年始
Tel|011-215-1559
https://sapporoshi-nagayamatei.jp/detail/nagayama-rest/