HOTEL

フランク・ロイド・ライトと《帝国ホテル》
2023年は帝国ホテル2代目本館「ライト館」開業100年

2023.6.8
フランク・ロイド・ライトと《帝国ホテル》<br><small>2023年は帝国ホテル2代目本館「ライト館」開業100年</small>
帝国ホテル2代目本館。ファサードに池を配したシンメトリーな構造は、シカゴ万博で披露された平等院鳳凰堂を模した「鳳凰殿」の影響もあるといわれる。中央玄関の一部は愛知県犬山市にある博物館「明治村」に移築されており、その面影をしのべる

日本の迎賓館の役割を担い誕生した帝国ホテル。文化の醸成に寄与した2代目本館は、日本を愛する一人の建築界の巨匠によって誕生した。

フランク・ロイド・ライトとは?
1867〜1959年。アメリカ・ウィスコンシン州出身の建築家。ル・コルビュジエ、ミース・ファン・デル・ローエとともに近代建築の三代巨匠に挙げられる。浮世絵のコレクターでもあった。ライトのはじめての海外旅行先は日本であり、日本文化から影響を受けたことで知られる。1916年、帝国ホテル初の日本人支配人・林愛作の依頼で、2代目本館の設計を手掛けることに。林との出合いはニューヨークで、日本美術を通してであった。

お話をうかがった方
ケン・タダシ・オオシマさん
1965年、アメリカ・コロラド州生まれ。ワシントン大学建築学科教授。国境を越え建築史、理論、表現、デザインの分野で教鞭を執る。ハーバード大学デザインスクールとUCLAの客員教授も務める。

人々が交流する小さな都市としての機能をもたせた
ライト館の特徴的な設計が、バンケットルームやレストランといった空間をつなぐプロムナード。当時の公式パンフレットによると、Peacock Alley(孔雀の小道)と呼ばれていた。それぞれの部屋までの、いわば「通り道」に椅子などを置き休憩場所をつくることで、人々が通過するだけでなくとどまることができる場に変えた。ホテルを小さな都市として見立てたライトならではの演出であった

帝国ホテル2代目本館が開業したのは、1923(大正12年)。近代建築の巨匠、フランク・ロイド・ライトの設計によるホテルは、「東洋の宝石」と称され、国内外から高く評価された。低層でシンメトリーな重厚感ある建築美と西洋と東洋が交錯するデザインは、いまなお多くの人々を魅了する。通称・ライト館として親しまれたこの空間について、建築史家のケン・タダシ・オオシマさんにうかがった。

大谷石の採用
栃木県宇都宮市の大谷町周辺で採掘される大谷石。多孔質で、加工に適した柔らかさをもち、耐火性にも優れていることから、蔵の壁や塀に使われてきた。ライトは大谷石に幾何学模様の彫刻を配し、外装だけでなく内装にも採用。ライト館の象徴的な素材として知られるようになり、その後、建材として広く普及した

「ライトが日本文化と出合ったのは1893年のシカゴ万博の頃です。彼は浮世絵のコレクターでもありました。1905年には日本全国を旅行。日本の風景や庭園から強い影響を受けたようで、帝国ホテルの設計にも反映されたと考えられます。着工にあたっては、アメリカから運ばれた麻布に描かれた特大の墨絵を含む、800枚近い図面に基づいて行われました」

実際に現場で指示をしていたライトは、日本の古来の尺貫法に苦戦するも、職人の技術の高さに驚き、尊敬をもって現場を見守ったという。素材は、ローカルにこだわり、栃木県の大谷石や愛知県常滑で製作したスクラッチタイルなどを採用。西洋と東洋が融合した唯一無二の空間は、ライトの美意識と日本の風土が育んだ素材、匠の技なくしては、完成しなかったはずだ。

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首都の中心にある東西が融合した空間
日本庭園を意識した中庭を望むオープンテラスは、モダンな美しい空間

「ライトはまた、建物そのものだけでなく、周辺に日比谷公園の緑があり、皇居があるという、都市におけるホテルの役割を意識していました。海外からのゲストをもてなす場であることはもちろん、国内外の人々が行き交う出会いの場として機能するホテルの未来を描いていたのだと思います」

演芸場やレストラン、中庭など、客室エリア以外の共用部分にスペースの約半分を割いた、当時としては画期的なライト館の構成からは、ライトがいかに人々が交流することができるパブリックスペースを重視していたかがわかる。日本ではじめて「アーケード」という名を冠したショッピングエリアには日本の特産品などを扱う店が軒を連ね、海外のゲストを魅了。夏の屋上テラスでは、ビール片手の映画上映会なども開催されていたという。いまでこそ、さまざまな施設を併設するホテルは一般的だが、当時の日本にまだそのスタイルはない。装飾を含めた刺激的な空間は、日本であって日本でないような特別な感動をもたらした。

日本においてゲストに非日常という刺激を提供するホテル文化の多くは、帝国ホテルからはじまり、ライト館で輝きを増した。長い年月をかけて育んできた伝統は、これからの100年に脈々と受け継がれていくことだろう。

850席を備えた演芸場。バルコニーや天井の隅々には、繊細な幾何学模様の彫刻が。日本の伝統芸能から欧米のエンターテインメントまで幅広く上演された
最大2000名収容の十字架型のメインバンケットルーム「孔雀の間」。ダンスパーティや披露宴、国際会議など、さまざまな催しの会場として利用された

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ライト館開業100周年記念の企画も

帝国ホテル東京では、ライト館の建築美や歴史を紹介する展示を本館1階「インペリアルタイムズ」で実施(〜9月30日)。「フランク・ロイド・ライト®スイート」に滞在しながら、「オールドインペリアルバー」で記念カクテルを楽しめる宿泊プランなども販売中。

帝国ホテル東京
住所|東京都千代田区内幸町1-1-1
Tel|03-3504-1111
客室数|570室
料金|1泊12万6500円〜(税・サ込、宿泊税別)「フランク・ロイド・ライト®スイートで極上のひととき」1室140万円〜(2024年3月31日の宿泊まで実施。4名まで。1泊朝食付。税・サ込、宿泊税別)
 
 

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text: Akiko Yamamoto 写真提供=帝国ホテル
Discover Japan 2023年7月号「感性を刺激するホテル」/W特集「ローカルが愛する沖縄」

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