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食文化と農産業に育てられる
「農大稲花小」の6年間
後編|給食から学ぶ日本の伝統と世界の文化とは?

2025.6.18
食文化と農産業に育てられる<br>「農大稲花小」の6年間<br><small>後編|給食から学ぶ日本の伝統と世界の文化とは?</small>

2019年に開校した東京農業大学稲花とうか小学校。大学の教育・研究資源をフル活用した、興味深い教育の中身に迫る。今回、東京農業大学稲花小学校初代校長の夏秋啓子さんと東京農業大学稲花小学校2代目校長の杉原たまえさんに話を聞いた。

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東京農業大学稲花小学校 初代校長
夏秋啓子(なつあき けいこ)さん
東京農業大学名誉教授。農学博士。2019年度の開校から2024年度まで農大稲花小校長。専門分野は植物病理学。最近は子どもの食農教育・科学教育などにも範囲を広げている。

東京農業大学稲花小学校 2代目校長
杉原たまえ(すぎはら たまえ)さん
学術博士。2025年度より現職。教授としては、国際食料情報学部国際農業開発学科で南西諸島や南太平洋地域を中心に、在来植物資源の利用開発や農村振興に関する研究を行う。

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給食から学ぶ日本の伝統と世界の文化

都道府県の郷土食を味わえる!
佐賀県|呉豆腐のごま醤油かけ、のっぺい汁など
長野県|山賊焼き、いもなます、おやきなど
青森県|大湊海軍コロッケ、せんべい汁など
大阪府|さばの煮付け、おかしなお好み焼きなど
愛媛県|しょうゆめし、鯛そうめん、いよかんなど
神奈川県|梅ごはん、とん漬け、けんちん汁など

夏秋 給食は食育の時間でもあります。大切にしているひとつ目は食材の幅。みかんは常温や冷凍での味わいの違い、品種によって異なる味の違いを体感する。ふたつ目は調理法。魚の漬け焼きやショウガ焼きなどさまざまで、1年生でも魚の身を自分でほぐして骨を除きながら食べられるように指導しています。3つ目はメニューで、節分やひな祭りなどの行事食や各地域の食事も学びます。世界各国のメニューではタンザニアのバナナ料理も登場したこともありました。私は現地で活動したことがありますから、当時の話を交えながら紹介しました。杉原さんのトンガのお話も楽しみです。

異文化体験の入り口はひと口から
アメリカ|チョップドサラダ、キャロットケーキなど
タンザニア|ムチュージ、ベイクドポテトなど
カンボジア|アモック、ソムロー・チーチャイなど
オランダ|キベリング、コールスローサラダなど
ブラジル|ムケッカ、パステウ、マヨネーザなど
韓国|プルコギ丼、たけのこのナムルなど

杉原 農大稲花小には食育を超えた「本物の農の教育」があり、東京農大のもつ教育資源が生かされています。

夏秋 高学年の宿泊学習では、北海道オホーツクキャンパスや宮古亜熱帯農場を訪問し、さまざまな体験をしました。杉原さんは宮古亜熱帯農場の農場長でしたね。

杉原 ちょうど6年生が宮古島に着いたその日に、オホーツクで流氷が着岸したというニュースが届きました。子どもたちは亜熱帯気候の農作物を食べることも、亜寒帯の流氷に触れる機会もあるんです。すごいですよね。

夏秋 将来、農業にかかわることがなくとも、食べ物や環境、生き物に対して「自分はどうかかわっているか」を考えられる人に育ってほしいです。入学式や卒業式でも「幸せになってください」と子どもたちに伝えてきました。自分が夢中になれる幸せを見つけつつ、困っている人に手を差し伸べられる人になってほしいという願いを込めました。

杉原 農学では、美味しい実や美しい花を咲かせるという最終目標のためには、“いい根”を育てることを学びます。そして“いい根”をつくるためには、“いい土”づくりをしなければならないことも学びます。根は地中に埋まり見えませんが、植物体を支えて、美味しい実やきれいな花を咲かせるためのもの。子どもたちの将来を支える大事な根を育てるのが私たちの使命です。

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開放的な校舎と校庭。東京農業大学世田谷キャンパスに隣接し、多様な学びを得られる環境が整う。放課後はアフタースクールに活用され、自宅、学校に続く子どもたちの第3の居場所に。異学年の友人と遊んだりと、思い思いに過ごせる

東京農業大学稲花小学校
住所|東京都世田谷区桜3-33-1
www.nodaitoka.ed.jp

東京農業大学へ行こう!
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text: Seika Mori photo: Tomoaki Okuyama
2025年6月号「人生100年時代、食を考える。」

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