FOOD

だから富山県の寿司は美味い。
昆布による食文化も堪能できる寿司名店【後編】
成希(なるき)/咊香柰(わかな)

2023.2.20
だから富山県の寿司は美味い。<br>昆布による食文化も堪能できる寿司名店【後編】<br><small>成希(なるき)/咊香柰(わかな)</small>
「成希」で提供される平目の昆布締めの握り。昆布締めのネタは季節によって異なる

定置網漁を主とする富山湾の漁場は港から近いため、魚市場には“キトキト”な魚がずらりと並ぶ。このような地の利を生かし、県内の鮨屋のほとんどが鮮度の高いネタを毎日仕入れているという。「富山の鮨は旨い」とされる所以を心から感じられる、鮨の名店をご紹介。

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食の感動に出合うため、
氷見の「成希」へ

広々としたモダンな空間。握りのみならず、焼き物や煮物などもカウンター内で調理する

2022(令和4)年7月、滝本成希さんは「成希」をオープンさせた。生まれ育った氷見市に鮨屋を開こうと決めてから、10年後のことである。滝本さんは高校卒業後、音楽業界に身を置き、25歳のときにイギリスで音楽の仕事に就こうと渡英。しかし言葉やビザの壁に突き当たり、現地の日本料理店で働くことになったのだという。「仕方なく始めた仕事でしたが、凝り性な性格も相まってどんどんのめり込んでいきました。6年後に帰国すると、幼い頃には気付けなかった氷見の食材や環境の魅力に、感銘を受けたんです」と、滝本さんは当時を振り返る。

華麗な手さばきで鮨を握る

イギリスで鮨を握っていたとはいえ、店を構えるからには“本物の仕事”がしたいと、東京・銀座の老舗寿司店や日比谷の人気鮨店で修行。満を持して開いた「成希」では、「『ここでしか味わえない鮨』を提供したいと考えました。氷見で捕れたネタを使い、自分にしかできない手当てや味付けを行いながら、魚の個性を引き出していく。氷見の旬の素材がもたらす食の感動をお客さまに感じていただけるよう、緻密につくりあげていくんです」と話す。

昆布締めには北海道産の利尻昆布、羅臼昆布、真昆布を、魚の種類に応じて使い分ける。平目には利尻昆布を使用

ネタは信頼する魚屋から仕入れる。生きたまま、もしくは船上で血抜きや神経締めの処置が行われている魚を選んでいるため、鮮度が損なわれることなく店に届く。「新鮮な状態で処置や手当てができるのは、この土地の大きなメリットだと感じています。鮮度がよいため、魚の味にも香りにも雑味がなく、綺麗な余韻が残るんですよ」と滝本さんは言う。

冬の時期、最初の一品として提供される「粕汁」。氷見の高澤酒造場の酒粕や純米吟醸をベースとし、大根や人参など具材はシンプルに

シャリへのこだわりも強い。2種類の米酢を使い、酢の酸を引き立たせるため、氷見の山間で栽培された「コシヒカリ」と石川県・能登産の「ササシグレ」をブレンド。淡白なネタは人肌、ブリやマグロは人肌より少し高めに握るなど、シャリの温度はネタによって変える。「鮨は口の中におけるネタとシャリの一体感が大事だとよく言われます。僕は味を立体的にとらえていて、瞬間的なインパクトとして香りを、続いて味がじんわり広がり、最後に米の甘みを残すイメージで組み立てています」。

「祖父の代からこの場所で商いを営んできました。お客さまを大切にしてきた歴史があるからこそ今があると実感しています」と滝本さん

提供するのはおまかせコース(1万5000円〜)のみ。前半は割烹料理、後半は握り鮨で構成され、「成希らしい余韻」を残すことを意識しているという。「美味しくなるのなら、やれることはなんでもやろうと思っています。地道な行動の積み重ねが大切ですから」という言葉にもある通り、明け方まで試作を重ねることも多いという。滝本さんは飽くなき探究心のもと、美味しさを追求し続ける。

重厚感のある外観。氷見市芸術文化館の前に店を構える

成希
住所|富山県氷見市幸町32-31
Tel|0766-74-5151
営業時間|18:00〜22:00
定休日|水曜日
https://naruki-himi.com/

高岡の「咊香柰」で、
独創的な鮨に酔いしれる

領毛さんは氷見出身。依頼している氷見の仲買人は同級生なのだとか

高岡市にある「咊香柰」の2代目として生まれ、石川県・金沢で修行を積んでいた矢先、先代が体調を崩し、20代で店を継ぐことになったという領毛龍生さん。「だからこそ余計に、鮨の勉強に打ち込みました。店を継いで15、16年経ちますが、まだまだ修行中の身。トライアンドエラーを繰り返し、自身の鮨を追い求めています」と領毛さんは謙遜するが、「咊香柰」の味に魅了されたファンは多い。

握りの前の料理の途中で提供する「季節の蒸し鮨」。菜の花と筍を混ぜたシャリをのどぐろで巻き、蒸して仕上げる ※提供時は、のどぐろを包み込むように桜の葉を巻いている

メニューはおまかせコース(1万1000円〜)に限り、趣向を凝らした料理と握りで構成。コース全体に領毛さんの独創的なエッセンスが散りばめられ、美味しさと同時に楽しさや驚きも与えてくれる。「さまざまな味わいを楽しみながら、トータルでご満足いただける内容に仕上げています」と領毛さんは話す。

アマダイの昆布締めの握り。シャリに使う米は「コシヒカリ」。粘り気を出しにくくするため、冷蔵庫で1年ほど寝かせてから使用する

「魚と米が綺麗に調和した握りを目指しています」と言い、シャリの鮨酢に砂糖は用いず、ブレンドした米で甘さを調整。酢は2種の赤酢と2種の白酢を使い、味の強い魚が多い冬は甘みを強く、淡い魚が多い春と夏はあっさりした味わいにするなど、季節に合わせてシャリの風味を変えていく。握るのは人肌より少し高めの40〜45度、いただくときに38度くらいになる計算だ。口に含むとシャリはホロリとほどけ、米の一粒一粒が立つ。もちろん、ネタとも見事に調和している。

丁寧に手当てされたイワシ、甘エビ、のどぐろ、げそ。キラキラと輝く、美しいネタだ

魚介類を富山県の氷見や新湊、石川県の輪島など複数の漁港から仕入れているのは、自身が満足できるネタを常時揃えるため。仕入れた魚は素早く手当てし、温度管理も怠らない。「うちの昆布締めは、ネタを昆布で挟んで寝かせず、2〜3時間“載せる”だけ。そのため、もっとも味が入る羅臼昆布を使用しています。そうすると身の締まりがちょうどよくなるんですよ」と、ひとつひとつの手当てにこだわりがある。

檜のカウンターには、高岡を代表する特産品である錫のマットが敷かれている

ゆったりとした時間が流れる店内は、1階がカウンターで、2階が座敷。鮨と酒に舌鼓を打ちながら、カウンター越しの会話にも花が咲く。「お越しいただく度に新しさをご提供できるよう、日々精進していきます」と話す領毛さんがこれからどんな鮨を表現していくのか、期待は募るばかりだ。

あいの風とやま鉄道「高岡駅」より徒歩5分、細い路地裏にひっそりと佇む

咊香柰
住所|富山県高岡市末広町37
Tel|0766-22-3542
営業時間|18:00~23:00
定休日|不定休

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text:Nao Ohmori photo:Kenji Okazaki

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