高知県《シーベジタブル》
海の未来を守る、
新しくて美味しい“海藻”【中編】

2023.7.27
高知県《シーベジタブル》<br><small>海の未来を守る、<br>新しくて美味しい“海藻”【中編】</small>

世界で海の生態系が変化し、日本が誇る海藻の食文化がいま危機にさらされている。そこで立ち上がったベンチャー企業、シーベジタブルの挑戦には、伝統を未来へと紡ぐヒントが隠されている——。

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“海のゆりかご”を守ることで
海も、人も、健やかにしたい

共同代表の友廣裕一さん(右)と料理開発担当シェフの石坂秀威さん。「新しい海藻のニーズを生み出すことで海藻への意識を変え、日本全体で生産を高めたい」と石坂さん

その挑戦は、友廣さんと共同代表を務める蜂谷潤さんが、高知大学農学部栽培漁業学科(現・農林海洋科学部)在学中の2009年、学生を対象としたビジネスコンテストに応募した事業プラン「海洋深層水を活用したアワビ類及び海藻類の複合養殖」が優勝したことにはじまる。友廣さんはその事業を手伝っていたが、育成に時間がかかるアワビの養殖の事業化が難航していた中で、餌として養殖していた青のりの需要が思いがけず高まった。そこで確立したのが、世界初となる地下海水を使用した環境負荷の少ない海藻の陸上栽培モデルだ。
 
「地下海水は海から地中を浸透して湧き出す天然の海水。清浄で透明度も高く、一年を通して安定した水温なので風味豊かな海藻を通年育てられます」
 
そして二人は2016年にシーベジタブルを設立し、いま全国各地の生産拠点で陸上栽培を展開している。
 
その後、海藻研究所所長・新井章吾さんが仲間に加わったことが、二人の挑戦をネクストフェーズへと押し上げた。新井さんは、45年にわたって、多い年には年間約250日以上、国内外の海に潜ってきた海藻のフィールド調査・分類の第一人者だ。

10代の頃から海に潜り、海藻の減少に危機感を抱いていた共同代表の蜂谷潤さんは、海藻研究、種苗生産を専門とする
日本全国の藻場を把握し、数多くの新種の海藻を発見してきた世界有数の海藻のスペシャリスト、新井章吾さん

「新井さんと一緒に日本中の海に潜り、目の当たりにしたのは砂漠化した藻場。そこで毎週のように新井さんと議論して出した結論が海面栽培です」
 
アイゴやウニなどの活性が落ちる水温が低い時期に海面栽培を行い、ロープに挟み込めば海藻は育つ。それまで海面ではワカメや海苔、昆布など需要の高い海藻しか栽培されていなかったが、いままで育てづらかった海藻でも、それに適した海域を探して種苗を提供すれば、海の生態系を守りながら漁師たちの雇用を生むこともできる。
 
そこでシーベジタブルは、陸上と同時に海面栽培も展開。全国の漁業者と手を組み、試験栽培を含め約30種類の海藻を育て、その数を拡大している。「豊かな海の生態系に海藻は欠かせません。いわば藻場は〝海のゆりかご〟です。それらを守りながら、海も人も健やかにしていきたい」
 
その想いに共鳴し、2022年、シーベジタブルにジョインしたのが、世界最高峰のレストラン「noma」のDNAを受け継ぐ「INUA」でスーシェフを務めていた石坂秀威さんだ。

全国各地で進む、さまざまな“初”の海藻栽培

地下海水を使用した
環境負荷の少ない循環型の陸上栽培

地下海水はミネラル分も多く、陸上では効率的に太陽光を吸収しながら栽培できるメリットがあるという。現在、高知県・三重県・愛媛県・熊本県などの生産拠点で、すじ青のりとはばのりなどの海藻を生産している

全国各地で海藻の多様な可能性を切り拓く海面栽培
海に浮かべる海面栽培は、天然とほぼ同じ条件で行われている。「これまでメジャーな海藻以外に種苗が提供されなかったので未活用の海が多かった。そこに私たちが種苗を生産し、各地の漁師さんたちと連携して育てることで、多種多様な海藻が生産できます」

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text: Ryosuke Fujitani photo: Kenji Okazaki
Discover Japan 2023年6月号「愛されるブランドのつくり方。」

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