和食の根幹をなす食材《米・豆・魚》の歴史
|日本の食文化「和食」を科学でひも解く②
日本人なら知っておきたい「和食」を科学的な切り口でひも解く展覧会が、国立科学博物館で開かれている。その見どころをピックアップ!
今回は日本の食文化の歴史について解説。米だけでなく、水田の近くに植えた畦豆(大豆)、水田や水路など灌漑施設の淡水魚によって米と豆、魚を食べる文化が生み出された。
豊かな森があることで海の恵みを享受できる
和食の基本がかたちづくられたのは米、大豆、魚(淡水魚)がはじまりだったが、それは海にもつながっている。田んぼや森の養分は川から海へと流れ出て、海の環境をも豊かに育んでいるからだ。
日本列島では、海ごとの特性や、寒流や暖流の影響で生息する海水魚も多様性に富んでいる。日本には4700種以上の魚類が生息し、固有種が多いことでも知られている。
日本近海にマグロがやってくるのも、豊かな田んぼや森の養分を餌にする海の生き物の食物連鎖が正しく循環しているからだ。また、江戸の循環型社会によって町人の排泄物も肥料として再利用されていた。この豊富な養分も海に注ぎ、江戸時代の日本は世界でも屈指の魚種を誇る国であった。
外食文化が発展した江戸で屋台料理が登場
江戸の町では、江戸城や町を支えるインフラの整備が進められ、その工事にあたる人々や職人、商人、武士が住む町としても発展していた。18世紀以降の江戸の人口は100万人以上になり、江戸市民の70%は単身者や単身赴任者の男性であったといわれている。その人々の胃袋を満たすための外食文化が発展していく。
屋台で提供されるのは握り寿司、天ぷら、蒲焼きの「重」や「丼もの」、ぶっかけ飯、うどん、そばなど。注文してすぐに出てきて、ささっとかき込めば短時間で食事ができる、江戸っ子には最適なスタイルだったのだろう。
食材を知ることが和食を支える第一歩
自然災害の多い日本では、食の面でも災害にフレキシブルに対応し、発展してきた。近年では酷暑や豪雨といった気候の変化もあり、海に流れ込むミネラルも減少。和食で使われる本葛粉や、ちまきの葉も手に入りにくくなっているという。和食全体が揺らいでいて、10年後にはさまざまな食材がなくなっているかもしれない。
そんな中、私たちにできることとして、月に一度でも家族で料理をつくってみてはいかがだろうか。釣りをして生きた魚に触れたり、体験農園で野菜の栽培をするなど、できれば子どもと一緒に食材に触れる機会があるといい。子どもが日本の食材を知ることが、和食の未来につながっていく。
<米>
粒のまま、または餅や粉にして、加工された
米は、粒のまま、あるいは餅や粉に加工して、さまざまな調理法で食べられてきた。粒のまま調理したものには、ふっくらと炊き上げた飯や、蒸し上げたこわ飯、煮た粥などがあり、こわ飯が糒(ほしいい)になるなど加工品をさらに加工して新たな食品をつくり出すこともある。粉にした米粉は団子や桜餅などに使われている。米と大豆を組み合わせた料理、菓子などもあり、すはま、煎餅、黄粉餅、幽庵地などが知られている。日本では米離れが問題化していて、米離れによって海、川の魚の生息地が奪われ、基本的な和食材の生産を衰退させる可能性があると危惧されている
<豆>
栄養とうま味がある「畑の肉」を工夫して食べてきた
大豆は、畑の肉とも呼ばれている高タンパク食品。大豆の加工法にはゆでる、炒る、発酵があり、調味料から料理、菓子など多岐にわたる。まずゆでる料理の代表格は、すりつぶして濾した「豆乳」をつくり、それをもとにする「湯葉」や「豆腐」、「揚げ」、「凍み豆腐」だ。豆乳をつくる過程でできる「おから」も低カロリーで高タンパクな健康食材。また、炒る料理は水を加えずに加熱した「炒り豆」が知られている。そしてよく炒ってから細かく粉砕したものが黄粉である。発酵には、ゆでた大豆を麹菌で発酵させた味噌、醤油がある。納豆菌で発酵させたものは納豆になる
<魚>
日本には4700種以上もの魚類が生息し、
和食に欠かせない貴重なタンパク源に
島国である日本は、太平洋や日本海、瀬戸内海などの海ごとに捕れる魚の種類が多様だ。さらに寒流と暖流の影響もあり、4700種以上もの魚類が分布(亜種や外来種も含む)。汽水域(海水と淡水が混ざり合う場所)や淡水域にも約400種が生息している。大きなマグロが日本近海で捕れるのは、恵まれた海の生き物の食物連鎖のおかげ。そこには森が関係する。森の土に含まれる養分が川から海に流れ込み、その養分を植物プランクトンが食べ、さらに動物プランクトン、小魚、中くらいの魚が順に食べ、アジやイワシが分布する近海にマグロもやってくる
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text: Yukari Akiyama
参考|『特別展「和食 〜日本の自然、人々の知恵〜」公式カイドブック』
Discover Japan 2023年12月号「うつわと料理」