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「東京農大物語」
大学令による設立から100年を迎えた。
前編|東京農大のルーツにせまる!

2025.5.26
「東京農大物語」<br>大学令による設立から100年を迎えた。<br><small>前編|東京農大のルーツにせまる!</small>

東京農業大学は2025年、大学令による創立から100年を迎える。その歴史には、近代農学の祖であり、初代学長である横井時敬ときよしが掲げた建学の精神が脈々と息づいている。東京農業大学・名誉教授の友田清彦さんにその歴史を教えてもらった。

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歴史のはじまりは
藁葺きの掘立小屋から

殖民の担い手を育成した
創設者・榎本武揚

幕臣。明治政府では農商務大臣、文部大臣、外務大臣などを歴任。1891年、東京農業大学の原点である育英黌農業科を創設。安定した農業生産力の発展のため、近代農業技術を国内外の殖民地で牽引する人材の育成を目指した

東京農業大学の建学の祖は、幕末から明治にかけて活躍し、多くの要職を歴任した榎本武揚えのもと たけあき

「1885年、榎本は旧幕臣の子弟のための奨学金制度として徳川育英会を設立しました。これを母体として1891年、現在の千代田区にあたる麹町区飯田町河岸に設置された育英黌いくえいこう農業科が東京農業大学の原点です」と、かつて同大学で学び、明治農政史を専門とする友田清彦名誉教授は話す。

当時、駒場の農科大学(現・東京大学農学部)をはじめ官立(国立)学校の教育が理論優先だったのに対し、榎本は“教育とは、セオリー(理論)とプラクティス(実践)の二者が車の両輪のように並び行われることで、はじめて完全なものとなる”とし、実学的な教育の必要性を強く唱えた。

大塚窪町の校舎を描いた後年のスケッチ。「横井時敬はこの校舎を『見るも哀れな藁葺きの掘立小屋』と回想しています」と友田名誉教授

1892年には小石川区(現・文京区)大塚窪町に移転。翌年には、育英黌から独立して東京農学校となり、榎本が校主として就任した。ところが学生がなかなか集まらず、経営難となってしまう。1896年には榎本が廃校を決意するが、同校の評議員であった横井時敬ときよしがこれに反対。同校は大日本農会の附属となり、運営を引き継いだ横井は教頭に就任した。

常磐松校舎の学校本部

「それが1897年1月。これで危機を脱したと思ったら、同年9月には暴風雨で校舎が倒壊します。ただ大塚窪町の敷地が手狭だったため、横井はこの災難をむしろ好機ととらえ、翌年には現在の渋谷区にあたる渋谷村の常磐松御料地に移転。常磐松時代は、戦前の東京農業大学の歴史における中心期であり、“常磐の松風”として学歌にも歌われています」

戦前の東京農業大学を支えた
常磐松校舎

大日本農会附属東京農学校となった1897年、暴風雨で大塚窪町の校舎が倒壊。教頭の横井時敬が大日本農会の幹部らに働きかけ、翌年には東京府豊多摩郡渋谷村の常磐松御料地の一画(上地図の円の範囲)に移転した

官立学校の学生の大半は士族出身で、卒業後は教育者や官僚などになる者がほとんど。これに対し横井は、農村から地主や豪農の子弟を受け入れ、農村指導者としての農業教育に取り組んだ。

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東京農業大学の歩みを年表でおさらい!

1891年 東京・麹町の飯田町河岸に徳川育英会(会長・榎本武揚)を母体とした育英黌農業科を設置。
1892年 東京・小石川の大塚窪町に移転し、育英黌分黌農業科と改称。
1893年 東京農学校と改称。校主に榎本武揚が就任。
1897年 東京農学校が大日本農会の附属となり、横井時敬が教頭に就任。
1898年 東京・渋谷の常磐松御料地内に移転
1901年 大日本農会附属東京高等農学校と改称。
1902年 校長に田中芳男が就任。
1903年 専門学校令による認可を受ける。
1908年 校長に横井時敬が就任。

日本の博物館の父・ 田中芳男
博物学者。幕末から明治に内国勧業博覧会の開催や博物館・動物園の創設に携わり、殖産興業に尽力。1902年、東京農業大学の前身である大日本農会附属東京高等農学校の初代校長に就任。植物図譜『有用植物図説』を監修

 

苦難を乗り越え、大学になる。
 
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text: Miyu Narita
2025年6月号「人生100年時代、食を考える。」

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