《輪島キリモト》桐本泰一
輪島塗の先にある可能性を求めて
|輪島塗に新風を吹き込む塗師たち
日本有数の漆器の産地として名高い石川・輪島。2024年元日の大地震により甚大な被害を受ける中、輪島塗再建に向けて新たな一歩を踏み出した人々がいる。
今回は、被災をきっかけに発見された木地を生かす「蘇生する漆の器」づくりに取り組む「輪島キリモト」桐本泰一さんを紹介する。
「輪島キリモト」には、代表である桐本泰一(きりもと たいいち)さんを筆頭に、木地師2名、塗師3名が在籍。工業デザインを学んで図面が読める職人、金継ぎや漆絵に長けた職人、これまで見たこともない変わり塗りに挑戦できる職人などバラエティ豊かなメンバーが揃う。桐本さんは、1700年代末から輪島で漆器業を営む家に生まれ育った。大学で工業デザインを学び、後にオフィス設計に従事して図面が読めるように。それが強みとなり、デザイン性を兼ね備えた輪島塗や建築内装の漆仕上げを得意とする。前述の職人たちと組んで、輪島塗の既存の枠にとらわれない、ユニークな作品を次々と生み出してきた。
大地震は初詣に出掛けていた桐本さん家族を路上で襲った。道路があちこちで「マフィンのように」盛り上がりひび割れた。その後の雨や余震で自宅は完全に倒壊。本町通りにあった家屋は全焼。倉庫の建物自体は無事だったが、中はひどいありさまだったという。
生きることに必死だった1カ月が過ぎた頃、桐本さんの元を建築家の坂 茂(ばん しげる)さんが訪れた。坂さんが10年間改良を続けた、十数時間で出来上がる紙管とボードの仮設住宅の図面を携えて。図面を見た桐本さんは「坂さん、これで仮設工房ができますよ!」と即座に提案した。これがあれば、仕事場を失った職人たちもすぐに仕事に取り掛かれると。
仮設工房を2棟設置した桐本さん。まず1棟は倉庫の作品を整理し、企画展準備の場として用いた。それが輪島塗復興の第一歩だった。だが「倉庫に残った製品を出して復興支援や応援に甘んじているだけでは駄目。再び製造をはじめるために、輪島全体で協力していかなければ」と桐本さんは言う。
そんな桐本さんに、ある出会いがあった。被災した高校の同級生の実家の蔵に30年ほど眠っていた、中塗りまで済ませた大量の漆器だ。小ぶりな重箱があり、壺椀、平皿があり、高台付き菓子皿があった。その中から現代の生活空間にフィットするかたちを選び、それぞれに合う仕上げで新たな命を吹き込んだ。布や和紙の表情を加え、パール銀漆を使うなど変わり塗りを施し、輪島塗の伝統的なかたちにモダンな感性をプラス。被災したうつわが蘇生し、美しい輪島塗が誕生した。
「坂さんの協力があり、まずは輪島塗を続けていく体制を整えることができました。ここからは次のステージです。現代のダイニングに、漆の内装や家具、うつわを取り入れていきたい。そのための探求はずっと続きます」
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田谷昂大
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問い合わせ|輪島キリモト
http://kirimoto.net/
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text: Yukie Masumoto photo: Maiko Fukui
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