HOTEL

新たなコミュニティが生まれる
東京のソーシャルホテル4選
ホテルジャーナリスト・せきねきょうこが分析
2024年、ホテルはこう変わる!|前編

2024.5.21
新たなコミュニティが生まれる<br>東京のソーシャルホテル4選<br><small>ホテルジャーナリスト・せきねきょうこが分析<br>2024年、ホテルはこう変わる!|前編</small>

日本国内の観光業が大いに賑わう中で、注目を集めるホテルの新たな概念やその現況をホテルジャーナリストのせきねきょうこさんが分析。
 
前編では、“ソーシャル”をコンセプトに掲げる東京の4つのホテルを紹介する。

文=せきねきょうこ
ホテルジャーナリスト。フランス・アンジェで大学生活を送り、スイス山岳リゾート地で観光案内所勤務中に3年間のホテル暮らしを体験。94年から現職。連載・著書多数、アドバイザー、コンサルティングも
www.kyokosekine.com

各客室階に1カ所ずつ集いの空間「お茶の間ラウンジ」をしつらえた星のや東京

2024年1月1日、新年が明けたばかりの能登半島が未曽有の大地震に襲われた。新年のはじまりに日本中が緊張のスタートとなった。あれから約3カ月が過ぎ、いまだ能登は癒えない日常だが、それでも、日々、現地の人々は力強く前を向き歩みはじめている。そしてうれしいこともある。世界中の旅行者が「日本へ行きたい」気持ちを抑えることなく大空を翔けてやってくる。悲惨だったコロナ禍は遠い昔のことのように、平和産業である国内の観光業が大いに賑わっているのだ。
 
この3月初旬、数日間にわたり京都での取材に勤しむ中、京都観光のオーバーツーリズム状態の現実を感じさせられた。これは喜んでばかりはいられない。
 
事実、2023年の年間訪日外国人観光客数は2500万人を軽く突破(日本政府観光局)し、特に昨年12月における訪日外客数は過去最多の約273万人という伸び率だった。京都も例外ではなく、コロナ禍の数年で閉館した数々のホテルや民泊、消えた2000台ともいわれるタクシー。さぁ、現在、そして日本の未来を支える我が国の観光業は、世界的にも人気の高い京都に続き、日本各地で十分な受け入れ体制は整っているのだろうか。近々に京都の人気散策路“花見小路通”から延びる私道の小道が、住民を迷惑行為から守ろうと通行禁止となる可能性が高いという。主要な交通インフラや看板ひとつでさえ対策は不十分……と、かつて世界屈指の観光国スイスに暮らした筆者は、アレもコレもと不安がよぎる毎日だ。
 
だが、ここではそのザワつく気持ちをひとまず納め、地球規模でわき出てきたホテルの新たな概念やその現況を分析してみるとしよう。

コンセプトは“プライベート”から“ソーシャル”へ

宿泊客以外でも利用できる8つの魅力的なレストラン&バー、宿泊者とメンバーシップ会員が利用できる都内ホテル最大級のジムなど、街とつながる施設が充実している「ジャヌ東京」

世界の観光地を俯瞰で見ると、これまでのホテルの概念を覆し新しい在り方を発信するホテルが各国・各地に誕生しはじめている。ひとつは、まさにこの原稿を書きながら迎えた2024年3月13日、話題の大型ホテルが東京に開業を迎えた。世界的ブランドの「アマン」のシスターブランドとして、世界初オープンとなった「ジャヌ東京」の登場である。
 
「アマン」がプライバシーを重視し静かに寛ぐ大人のホテルであるならば、「ジャヌ」の掲げるキーワードはずばり「つながり」。静かに寛ぐよりも“エネルギッシュ”に、プライベートに過ごすよりも“多くの仲間と真のつながり”を、また非日常空間ではなく“日常でのリアルな高揚感”を求めたいと願う人々のニーズに応えようと市場に大きな一石を投じているのだ。

「星のや東京」の客室フロアにひとつ設けられた「お茶の間ラウンジ」は、客室とオフィシャル空間の中間にある場所。そのフロアに滞在するゲスト専用で、お茶を飲んだり、仕事をしたり、思い思いに過ごせる

それならばと、ここで国内を再度見渡してみると身近な存在にも気づかされた。8年前の2016年7月、東京・大手町に開業した“塔の日本旅館”をうたう「星のや東京」だ。日本の伝統をまといながら、スタイリッシュな未来系の日本旅館としてスタートした。館内には分け隔てなく誰もが集える場として、日本旅館でははじめて各客室階に1カ所ずつ集いの空間「お茶の間ラウンジ」をしつらえた。このソーシャルな空間利用はその階に滞在するゲストに限られてはいるが、自由にお茶を飲み、交流をし、そして仕事もできる。まさに集いや、つながりの提案である。宿のHPには「当ラウンジは、旅先で居合わせたお客様同士の社交の場であり、日本らしい接客を体感できる空間でもあります。日本独自のおもてなしは、海を越えてやってきたお客様の記憶にも残ります」という画期的で斬新な提案が掲げられている。さらに星のや東京には最上階に天然温泉の大浴場があり、国籍を問わない裸のつき合いが生まれる。世界のどこよりも早く、日本ならではの旅人同士の交流をと提案したソーシャルな日本旅館である。

ゲスト同士がエンターテインメントを通してつながることができるHOTEL GROOVE SHINJUKU, A PARKROYAL Hotelのダイニング&バー
撮影=木奥惠三

新宿・歌舞伎町の東急歌舞伎町タワー内に、2023年5月19日に開業した「HOTEL GROOVE SHINJUKU, A PARKROYAL Hotel」も、コンセプトが革新的でユニークだ。歌舞伎町に古くから伝わるエンターテインメントや現代の遊びを通して、歌舞伎町と呼応した高揚感を楽しもうというホテルである。

新宿・歌舞伎町という街を遊び尽くすための拠点がコンセプト。この街で生まれるアートや音楽といったカルチャーを楽しむエネルギッシュなライフスタイルホテル
撮影=木奥惠三

若い世代のゲスト同士がエンターテインメントを通してつながるように、ダイニング&バーは「この場所で偶然出会い、そしてジャムセッションのように型にとらわれず、一人ひとりの感性が交わりながら、世界に新たなエネルギーを発し続ける新しいまちの社交場が誕生」と掲げ、つながりの魅力を体感する空間として新しい提案をしている。

コワーキングラウンジ、ソーシャルキッチンなどを備え、1泊でも長期滞在でも快適に過ごせる。ホテルをアート活動を応援する場として活用するプロジェクト「Art Your lyf」も

銀座にも2023年11月30日に、ソーシャルなホテル「lyf(ライフ)銀座東京」が開業。1泊から長期滞在まで可能な施設としてあり、次世代の旅行者のニーズに合わせてデザインしたという、遊び心満載の館内には、コワーキングラウンジ、ソーシャルキッチン、コインランドリーといった共有スペースがずらりと揃う。運営はThe Ascott Limited(アスコット)。シンガポールを起点に40カ国、220都市以上でしゃれたホテルを展開する人気オペレーターだ。lyfのコンセプトは、「自然に皆が集まり輪の広がりを提供するソーシャル&ライフスタイルブランド」という。
 
日本市場においてもホテルの規模にかかわらず、集いの空間を重視したホテルが驚くほど急速に増えつつあるのだ。

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地域を元気にする
ソーシャルホテル3選

 
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ジャヌ東京
住所|東京都港区麻布台1-2-2
Tel|03-6731-2333
料金|1室16万4450円〜(税・サ込)

星のや東京
住所|東京都千代田区大手町1-9-1
Tel|050-3134-8091
料金|1泊2食付9万5000円〜(税・サ・入湯税込)

HOTEL GROOVE SHINJUKU, A PARKROYAL Hotel
住所|東京都新宿区歌舞伎町1-29-1
Tel|03-6233-8888
料金|1泊1室1万6000円〜(税・サ別)

lyf(ライフ)銀座東京
住所|東京都中央区京橋2-5-4
Tel|03-3528-6505 
料金|1泊1室1万1200円〜(税・サ別)


Discover Japan 2024年5月号「進化するホテル」

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