《星のや東京》
日本の食文化とフレンチの技法を融合した
独創的なディナーコースに出合う。|前編
東京・大手町に林立するオフィスビルに紛れ込むかのように建つ「星のや東京」。ここだからこそ体験できる食と日本旅館ならではのもてなしを前後編でお届けします。 前編では、日本各地で育まれた食文化をフランス料理の調理技法と融合したコース料理「Nipponキュイジーヌ」や、日本料理の概念である「五味・五色・五法」に着目した朝食、苺をふんだんに使用したアフタヌーンティーなど、食の魅力に迫ります。
新しい美食のもてなし
「Nipponキュイジーヌ 〜美食の集い〜」
「その瞬間の特等席へ。」という想いの下、ゲストを非日常の世界へと誘う「星のや」。各施設でその土地が有する歴史や文化をもてなしに反映し、日本の暦で表現される四季の移ろいを伝えながら、滞在中の一瞬一瞬が最高の体験となる価値を提供している。
2016年に開業した「星のや東京」があるのは東京・大手町だ。“塔の日本旅館”をコンセプトに掲げ、地下2階、地上17階という縦の空間で、伝統的な和のしつらえと現代の旅行者が求める快適性やサービスを融合させた「進化する日本旅館」を体現している。この新しい日本旅館の在り方は、世界都市・東京に求められていたものだったといえよう。
星のや東京にしかない「その瞬間の特等席」。それは建築、客室、家具、サービスなど、あらゆる面から感じ取れるが、最も五感に訴えかけるのは、ダイニングでいただけるコース料理「Nipponキュイジーヌ〜美食の集い〜」だ。腕を振るうのは昨年の秋、総料理長に着任した岡亮佑シェフ。確かなフレンチの技術を礎に、各地域で育まれてきた食文化を独創的な解釈でくみ取り、星のや東京でしか成し得ない一皿ひと皿へと昇華している。
「東京は日本の良質な食材が集まり、豊かな食文化が花開いた場所。それは江戸時代の参勤交代により、諸国の食文化が持ち込まれたことに通じます。この歴史的背景に着目し、春夏秋冬それぞれで3つの県の食材と郷土料理をピックアップし、現代に置き換えたかたちで料理を表現したいと考えました」
コースの幕開けは江戸の四大名物料理をモチーフにした「始まりの一品」。この創意あふれるひと皿は東京から各地へ味覚の旅を広げていくプレゼンテーションで、ゲストの胸をさらに高鳴らせる。
「続くアペリティフから、3県の食文化を料理に落とし込んでいきます。大切にしているのは、郷土料理がもつストーリーを優先せず、現代人の味覚に合う美味しさを重んじること。そうすれば『現地を訪れて、ベースとなった郷土料理を食べてみたい』という食への興味にもつながると思うのです」
春のコースで光を当てたのは高知、富山、熊本。高知の「鰹のたたき」、富山の「黒つくり」、熊本の「ぶえん寿司」といった各県を代表する郷土料理を、岡シェフの自由な感性でフレンチへ再構築し、春の到来を感じさせる香り、味わい、食感を生み出している。
「盛りつけでは食材そのものがもつ、色彩とかたちを生かすように意識しています。コースを通じ、日本の食文化の多様性を感じていただけたらうれしいですね」
東京だからこその、めくるめく旬を味わう食の旅は、知的好奇心を刺激する。この季節ならではの、掛け替えのない記憶となるはずだ。
五味・五色・五法の「めざめの朝食」
和食の定式「五味・五色・五法」に立ち返り、心身のバランスを整えることを追求した和朝食「めざめの朝食」。旬の野菜を詰め込んだ味噌汁、彩り豊かな小鉢「五色がんも」、季節の焼き物、丁寧に巻き上げた出汁巻き玉子、お釜で炊いたご飯のお供「九種盛り」など、美味しさへのこだわりはもちろん、味わいと色み、調理法のすべてが調和するように仕立てている。
料理を引き立てるオリジナルの漆塗りの御膳と応量器も美しい
茶事に倣ったアフタヌーンティー
日本酒と点心または懐石、濃茶と主菓子、薄茶と干菓子、の順でもてなす正式な茶の湯の茶事に倣って楽しめる「Nipponキュイジーヌ 苺薫るアフタヌーンティー」。
点心にあたる数種類の押し寿司、主菓子と干菓子にあたるイチゴを用いた10種類のミニャルディーズを、スパークリング日本酒カクテル、オリジナルコーヒー、薪火晩茶というペアリングと合わせて堪能できる。1日1組(2名)限定で要予約。2024年4月30日(火)まで提供される
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“塔の日本旅館”へ
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text: Nao Ohmori photo: Atsushi Yamahira
Discover Japan 2024年5月号「進化するホテル」