地域を元気にするソーシャルホテル3選
ホテルジャーナリスト・せきねきょうこが分析
2024年、ホテルはこう変わる！｜後編
日本国内の観光業が大いに賑わう中で、注目を集めるホテルの新たな概念やその現況をホテルジャーナリストのせきねきょうこさんが分析。
後編では、地域を元気にする“ソーシャル”な3つのホテルを紹介する。
“ソーシャル”なホテルは
地域を元気にするキーワード
ローカルでも、その地域の人々も巻き込んで“ともに元気になろう”という意図をもった宿が、少し前から各地に続々と登場している。
風光明媚な広島県生口島・瀬戸田に2021年に生まれた「yubune」がそのひとつ。高級旅館「Azumi Setoda」の道を挟んだ場所に誕生した銭湯付きの宿「yubune」は、主に瀬戸内しまなみ海道を走るサイクリスト向けのスタイリッシュな宿だ。
宿は「しおまち商店街」にあり、滞在者はいつでも銭湯で汗を流し、銭湯を利用する地元民との裸の交流ができるのが好評。ガイドブックにない地元の情報交換にも花が咲く。海外からの観光客にも人気で、大浴場での裸のつき合いもあることから、国を越えた交流の場になっている。銭湯という場を活用した、日本的なソーシャルホテルといえそうだ。
そして山形・庄内地方の斬新な宿「SHONAI HOTEL SUIDEN TERRASSE」。ロケーションは、鶴岡市がバイオサイエンスの高度な研究機能や関連産業の集積を目指し2001年に開設した鶴岡サイエンスパークの一画である。ホテル開業は2018年9月。米処ならではの原風景の中で、ホテルの建物がまるで水田に浮かんでいるように見えるスタイリッシュなホテルとして話題を呼んだ。コンセプトは「晴耕雨読の時を過ごす、田んぼに浮かぶホテル」とある。スパ会員になれば地域の人も利用可能な源泉かけ流し天然温泉や、レストラン、ライブラリーなどを備えている。さらに隣接しているのが0歳〜小学6年生までを対象にした全天候型の児童教育施設「キッズドームソライ」。屋内遊戯施設「アソビバ」とものづくりができるアトリエ「ツクルバ」など、ホテル滞在者以外に、地域の子どもたちが十分に活動できる恵まれたキッズワールドだ。
また、食の循環を意識し、安心・安全や食料廃棄、食料自給率や食育など、食の課題について、ホテルは生産者と消費者をつなぐ役割も担う。庄内地方の製塩会社とコラボし野菜の廃棄部位を使ったホテルオリジナルソルトも開発され自社レストランで提供。常に食の循環を意識し、一方通行ではない課題解決に取り組んでいる。
そして九州。熊本県の半導体バブル景気にあやかり九州全体がエネルギッシュな状態だ。外資系ホテルや、人里離れたオーベルジュも次々とオープン。自然が豊かで食材豊富な九州らしく、その土地の魅力を生かしたホテルやしゃれたオーベルジュの急増にも注目である。
2023年10月に開業した湯宿「嬉野 八十八」は、お茶の故郷、日本三大美肌の湯といわれる嬉野温泉にある。食材は嬉野から88㎞圏内の地産地消を原則とし、地域の生産者を盛り上げる。贅沢な客室は温泉付きの全36室。とりわけフォーカスしたいのは、日本茶のティーセレモニー。地元の茶農家を専属茶師として迎え入れ、菓子と嬉野茶とのペアリングを、茶農家自らの手で提供するという新しい試みだ。「茶と温泉で、心と体が調い和していく湯宿を目指します。嬉野最大の特産品である嬉野茶。毎日、茶農家さん自ら点て振る舞う茶は嬉野茶の魅力を存分に感じていただける」とHPにはある。インバウンド数がより増えれば、歴史的な日本茶文化の拡大が期待されるだろう。
九州の宿はいずれも心温まるもてなしが快適だ。特に食材に恵まれた地方では豊かな食文化や豊富な天然温泉も享受でき、自然の中で寛ぎ、肩の力を抜いてゆったりと癒されるメイド・イン・ジャパンの新しい“リトリート滞在”が提案できそうだ。
大都市の最高級ホテルなどと単純な比較はできないが、こうして地方を俯瞰で見直してみると、日常の近所づき合い、人との助け合い、つながりなどは日本の常識として遥か昔から根づいていた。そう思うと、日本は世界に引けを取らない“ソーシャル文化大国”であり、神代の昔から“人と人とのつながり先進国”であった。いまホテルが新しい概念として掲げる“ソーシャル”なコンセプトは、日本ではスポンジがス〜っと水を含むように素直に受け入れられそうな気がする。
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yubune
住所｜広島県尾道市瀬戸田町瀬戸田269
Tel｜0845-23-7917
料金｜1泊１室２万円〜（税・サ別）
SHONAI HOTEL SUIDEN TERRASSE
住所｜山形県鶴岡市北京田字下鳥ノ巣23-1
Tel｜0235-25-7424 （9:00〜18:00）
料金｜１泊朝食付１万6500円〜（税込）
嬉野 八十八
住所｜佐賀県嬉野市嬉野町下宿丙2400-30
Tel｜0954-20-2188（10:00〜17:00。電話受付定休｜水曜）
料金｜１泊２食付３万6300円〜（税・サ込、入湯税別）
