オーベルジュ オーフ/Auberge “eaufeu”/
小松の里山に佇む学校が生まれ変わる
《石川県の自然の恵み伝統と革新》|後編
豊かな自然に裏付けられ、食文化を育んできた石川県。しかしその伝統は、単なる継続ではなし得ない。伝統が革新の連続だとすれば、無数の革新が伝統をつくり上げ、次の伝統をつくり上げていく。石川県のこの地に、なぜその体現者が二人集うのか。風土のなせる業か、人の成し得る技か。表裏一体ともいえる伝統と革新を体現する二人にプロデューサー立川直樹と写真家の宮澤正明が対峙する。
Auberge “eaufeu”
シェフ 糸井章太(いとい・しょうた)
1992(平成4)年生まれ。2013(平成25)年、辻調理師専門学校へ進学後、アルザスの3つ星レストラン「オーベルジュ・ド・リル」などで研鑽を重ね、2018(平成30)年、「RED U-35」35歳以下の料理人を対象にしたコンクールにて最年少の26歳でグランプリ「レッドエッグ」を受賞、翌年にはフォーブス「30 UNDER 30」Asia アーティスト部門に選出。2022年よりオーベルジュ オーフのシェフに就任
里山のオーベルジュで待つ
自然の恵みたち
イベントの候補地になった観音下(かながそ)の石切り場を訪れたときに看板を目にし、ここにあるのかと思った農口尚彦研究所のすぐそばに、廃校をコンバージョンした、オーベルジュオーフがある。日本遺産に認定されるほどの美しい、“石の文化”が根づく観音下の西尾小学校は、2018年3月に廃校になったが、2022年7月に大自然や豊かな食の魅力などを活用し、この地の活性化も目的にオーベルジュへ生まれ変わった。
図書館がスイートルームになり、給食室が厨房になり、スイートとジュニアスイートにはレコードプレイヤーが設置されている。館内には6歳のころ、ロンドンのパンク・ムーブメントに影響を受け、洋服に絵を描きはじめたのがアートとの出合いだという現代芸術家、小川貴一郎さんが、実際にこの地のエネルギーを感じながら創作した作品が多数飾られており、“泊まれる美術館”というスタッフの言葉にも納得。
そして、その作品によって実に魅力的な空間になっているレストランで供される料理が、また掛け値なしに素晴らしいものだった。
シェフは糸井章太さん。1992年生まれだから、本当に若いが、蒸してすりつぶしたサツマイモを丸めて揚げ、観音下で採れる日華石の上に美しく並べたり、前菜から農口尚彦研究所の純米大吟醸の酒粕でつくったアイスクリームのデザートまで、申し分ないフルコース。見た目に美しく、食べても美味しい料理の組み立てはほぼ完璧で、僕は「食べながら思ったのは、勢いがあって自由度が高い。たとえるなら演奏能力もセンスもある人が、ちゃんとライヴをやっているのと共通する魅力がある」と素直に感想を述べた。
鯖を糠に浅く漬けたものを軽く炙り、エシャロットを含ませたクリームチーズと一緒にタコスで巻いて食べたときの口福感は得難いものだった。「短期間、研修で行ったカリフォルニアは、メキシコの文化が色濃い土地で、ハーブ使いがおもしろく、自分の料理に取り入れようと思ったんですよ。手で巻いてほお張るという行為も楽しくてワイルドですし」。「ハーブや野菜を使うのが好き」という糸井さんは、「スキルや知識は勉強しましたけど、この土地で料理をつくる意味、この土地の風習やカルチャーを取り入れて、自分のフィルターを通して、自分ならどうするか……そこを考えてつくっています」と話してくれたが、「11が僕のラッキーナンバーなのでコースは11品と決めている」と言ったときの微笑がすてきだった。
読了ライン
Auberge “eaufeu”(オーベルジュ オーフ)
住所|石川県小松市観音下町口48
Tel|0761-41-7080
料金|1泊2食付 1名2万6400円~(税込・サ別)
営業時間|ランチ12:00~15:00(L.O.13:00)(土・日曜、祝日のみ営業)、ディナー 17:30~22:00(L.O.20:00)
※ランチ・ディナーともに要予約/カフェスペース11:00~17:00
客室数|12室
カード|AMEX、DINERS、JCB、VISA、Masterなど
IN|15:00
OUT|11:00
定休日|火・水曜(祝日の場合は営業)
アクセス|JR小松駅から車で約20分、小松空港から車で約30分
Wi-Fi|あり
text: Naoki Tachikawa photo: Masaaki Miyazawa
Discover Japan 2023年2月号「癒しの旅と温泉。/秘湯、湯治宿、銭湯、サウナ37」