TRADITION

坂東玉三郎、表現者としての集大成!
太鼓芸能集団・鼓童とのコラボが映像作品に
シネマ歌舞伎《幽玄》

2023.8.9
坂東玉三郎、表現者としての集大成!<br>太鼓芸能集団・鼓童とのコラボが映像作品に<br> シネマ歌舞伎《幽玄》

歌舞伎の舞台を映画館で楽しめる「シネマ歌舞伎」。毎月、バラエティに富んだラインナップで全国34の映画館で上映中。8月の上映作品は特別篇『幽玄』。8月18日(金)~24日(木)にかけて上映される。見に行く前にあらすじや作品背景を予習しよう。

坂東玉三郎の軌跡

現代歌舞伎界の女方最高峰、坂東玉三郎。その活躍は歌舞伎界にとどまらず、映像監督や舞台演出、世界的アーティストたちとのコラボレーションなど様々な形でその類まれなる創造力を発揮してきた。
本作では、能・歌舞伎という日本の伝統芸能を鼓童の力強い太鼓の響きと融合させ、新たな次元の芸術作品として昇華させた。そんな必見の舞台が、映像作品となって上映される。

玉三郎は1957年に初舞台を踏んだ後、64年に十四代目守田勘弥の養子となり、五代目坂東玉三郎を襲名。「桜姫東文章」の桜姫、「助六由縁江戸桜」の揚巻、「伽羅先代萩」の政岡、「壇浦兜軍記」の阿古屋など当り役は多い。天守物語」の富姫、「日本橋」のお孝、「海神別荘」の美女など、泉鏡花作品にも意欲的に取り組む。
米ニューヨーク・メトロポリタン歌劇場100周年記念ガラの出演をはじめ、パリ、ブリュッセル、ベルリン、ドレスデン、ウィーン、ロンドン、台北など海外公演でも好評を博してきた。
海外のアーティストとのコラボレーションも多く、1988年にはヨーヨー・マらの演奏で創作舞踊を上演。同年、モーリス・ベジャールの振付により、パトリック・デュポン、 ジョルジュ・ドンらと共演、以後もバレエとの交流が続き、1994年にはベジャールとの共演で「リヤ王~コーデリヤの死」を初演した。
また新派や、「ナスターシャ」(1989年・演出アンジェイ・ワイダ)などの翻訳劇、「サド侯爵夫人」(1990年)など現代劇の舞台にも成果をあげている。世界各国で上映されたワイダ監督「ナスターシャ」(1994年・映画版)、ダニエル・シュミット監督「書かれた顔」(1990年)といった映像作品にも出演。
クリエイターとしての手腕も発揮し、「ロミオとジュリエット」(1986年)、「黒蜥蜴」(1990年)、「海神別荘」(1994年)などで舞台演出、「外科室」(1991年)、「夢の女」(1993年・ベルリン映画祭正式出品作品)、「天守物語」(1995年、主演)では映画監督を務めた。
これまでの功績が認められ、フランス芸術文化勲章最高位コマンドゥール章など国内外の栄誉ある賞に輝く。2012年には、重要無形文化財(人間国宝)に認定されている。

太鼓芸能集団・鼓童(こどう)とは?

新潟県佐渡島を拠点とし、和太鼓を中心に、和楽器・唄・踊りなど伝統芸能の新しい境地を切り拓くべく精力的な活動を行っている太鼓芸能集団・鼓童。約40年前に「太鼓」という新たな舞台ジャンルを確立、以来、常にパイオニアとして太鼓界をリードしてきた。
1990年日本ゴールドディスク大賞(アルバム部門)、1995年第37回日本レコード大賞特別賞、2017年地域文化功労者表彰(芸術文化分野)など数々の賞に輝き、1998年長野オリンピック文化・芸術祭や2001年ノーベル平和賞コンサート(100周年記念)といった国際的なイベントへの出演も多数。1984年より「ひとつの地球」をテーマに始めた世界ツアーは、現在までに世界50の国と地域で6000回を超える公演を行っている。

玉三郎と鼓童の出会い、そして『幽玄』へ

玉三郎は2000年から、鼓童の本拠地・佐渡に通い指導を行ってきた。各地で大成功をおさめた初共演作『アマテラス』ほか、多数の公演で演出を手掛け、さらに2012年から4年間は芸術監督を務めた。その後も舞台共演等で交流は続いている。

鼓童のメンバーから日本のものをやりたいという声が上がり、能楽の四拍子(しびょうし)を、と始まった本公演では、能の代表的な3つの演目を題材に幽玄の世界を描き出している。
玉三郎は「シテ(能における一曲の主役)が出てくるまでを、ワキやワキヅレ(同じく主役以外の役)、演奏家がお客様をどうやって飽きさせないで音楽的にもっていくか、どの世界に連れていくか、ということが問題。音楽のクラシックでも歌舞伎でも同じなんです。お客様が客席で、どのようなリズムを期待しているか、どのような演劇的カタルシスが来るのを期待しているか、ということをよくわかって、こちらがつくっていけばいい」と語る。
さらに映像版の制作に際しては、映像や録音となると太鼓の音は非常に再現しにくいとしながらも「映像的に面白いものを追求し、本物の音圧ではなくとも、できる限り劇場で見ているような臨場感を出すように、低音や胴鳴りの音などを入れてうまく調整してきました」と苦心したようだ。

『幽玄』あらすじ

『羽衣』
ある春の朝、漁師の白龍が仲間たちと三保の松原に釣りに出る。白龍は松の枝に美しい衣がかかっているのを見つけ、家宝にと持ち帰ろうとする。そこに美しい天女が現れ、衣を返してほしいと頼む。しかし白龍は衣を返そうとしない。嘆き悲しむ天女に、白龍は天人の舞を見せてくれるなら衣を返そうという。天女は喜び、羽衣を着て風にのって舞いつづけ、やがて三保の松原から浮島が原へ、富士の高嶺へと舞い上り、大空の霞にまぎれて消えるのだった…。

『道成寺』
女人禁制の寺にひとりの白拍子が現れ、再興した釣鐘の参詣を強く望む。僧は一度は断るのだが、白拍子のたっての頼みに、境内に入ることを許してしまう。僧から所望され、差し出された烏帽子をつけて、白拍子は舞い始める。そのうち、思えばこの鐘が恨めしいと、鐘の内へ飛び入り、鐘を落としてしまうのだった。実はこの白拍子は、叶わぬ恋の恨みから、鐘の中に隠れた男を蛇体になって取り殺したという娘の亡霊なのだった。僧たちが祈り始めると、鐘は元通りに上がり、その下に蛇がうずくまっていた。僧たちがなおも一心に祈りつづけると、ついに蛇は日高川に飛び込んでしまう…。

『石橋』
ひとりの法師が唐・天竺に渡り仏寺や霊地を巡る中、中国山西省の清涼山で有名な石橋にたどり着く。やがて文殊菩薩の使いの獅子が姿を現す。獅子は美しく咲き乱れる牡丹の花と戯れるように勇壮に舞い遊び、御代の千秋万歳を寿いで舞い納め、獅子の座に納まるのだった…。

歌舞伎俳優、演出家、映像監督と、様々な分野で活躍する玉三郎が、長年指導し信頼を置く鼓童と共に作り上げた、まさに集大成ともいえる本作。映画館でじっくり楽しもう。

読了ライン

月イチ歌舞伎2023 上映作品
特別篇『幽玄』
公開日|8月18日(金)~24日(木)
上映館|東劇ほか全国の映画館にて(詳しくはこちら
料金|一般2200円、学生・小人1500円
出演|坂東玉三郎、太鼓芸能集団 鼓童、花柳壽輔、花柳流舞踊家(2017年9月 博多座公演)
※同時音声解説のイヤホンガイドアプリはこちら

photo=Takashi Okamoto

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