熊本・南関町《ヤマチク》
竹の可能性を広げ、地域の誇りを生み出す
|九州観光まちづくりAWARD2025 金賞 ものづくり部門
今年で4回目の開催となった、JR九州が手掛ける「九州観光まちづくりAWARD」が2025年も始動。宿・食・ものづくり・にぎわいづくりなど、旅心をくすぐる、魅力的な取り組みとの出会い。今回、九州観光まちづくりAWARD2025 金賞 ものづくり部門を受賞したのは、熊本・南関町にある純国産の竹箸を国内で唯一製造する箸メーカー「ヤマチク」。自社ブランドを立ち上げて職人の誇りを取り戻し、海外からの評価も高い。ヤマチクが描く、持続可能な未来とは?
自社ブランドの開発で
山も人も元気にする

創業以来60余年にわたり、熊本県玉名郡南関町で純国産の竹箸をつくってきた「ヤマチク」。年間約500万膳を生産し、世界17カ国の食卓に届けている。全国のセレクトショップなどで販売され、さらにミシュランの星を獲得したレストランや名だたる旅館、ホテルからも高い評価を得ている。
「お箸をまもる、心をつなぐ」をミッションに掲げるヤマチクは、竹箸を材料の切り出しから仕上げまで一貫して行う国内唯一のメーカー。多くの箸が、実は輸入材に頼っているという現状の中、ヤマチクは日本の文化を守っていくという使命感をもち、地元の孟宗竹を使って職人がつくり続けている。

しかし、かつては竹の材料を山から切り出す職人・切子への賃金は1本500円程度と低かった。彼らなくして箸づくりは成り立たない。しかも伐採する人の営みが守れなければ山の荒廃にもつながる。さらに、大手量販店や他産地のOEM商品づくりがメインで、自社の名前を出せず価格の決定権もないという苦しい状況だった。そこで3代目の山崎彰悟さんは、初の自社ブランド「okaeri」を立ち上げ、箸づくりに誇りを取り戻す挑戦をはじめた。

家族で使えるシンプルなデザインを追求したokaeriは、「ニューヨークADC」などの海外デザイン賞を多数受賞。世界的に評価され、取引先も増えて海外への輸出も決まった。そして、それ以上によかったのが、社内の空気が一変したこと。職人が自信をもって仕事に取り組めるようになり、毎年開催される社内デザインコンテストでは納豆を混ぜるための箸やカップラーメンの蓋を押さえられる箸など、遊び心あふれる商品が次々に生まれブランドの魅力を高めていった。


自然・顧客・つくり手の三方よし
のヤマチク循環システム

6年間で自社ブランドの売上は70%を超え、利益率も大幅に改善。スタッフも14人からいまでは37人に。 竹の買い取り価格も10年前の倍に引き上げることができ、若い切子たちも少しずつ増えてきた。
竹を使った箸づくりの背景や文化を発信し、適正価格で販売。利益は地域に還元され、美しい景観づくりにも貢献している。地元の山と人々を支えるものづくりのかたちが見えてきている。

さらに2023年には、工場のそばにファクトリーショップ「拝啓」をオープン。人口1万人に満たない南関町に人を集め、観光地にしようとしている。
伝統技術ディレクター・立川裕大さんは、「地域の雇用とともに尊厳や誇りを育んでいるのが素晴らしい。社会問題となっている竹林問題への貢献も非常に意義深いものです」と絶賛した。
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陣野真理
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ヤマチク ファクトリーショップ「拝啓」
住所|熊本県玉名郡南関町久重14
Tel|0968-82-8818
営業時間|10:00~16:00(L.O.15:30)
定休日|水・木曜
https://hashi.co.jp
1|JR九州による「九州観光まちづくりAWARD2025」、結果発表!
2|福岡・糸島市「前田和子・大串幸男(白糸の森)」
3|福岡・柳川市「柳川藩主立花邸 御花」
4|大分・宇佐市「神谷禎恵」
5|熊本・南関町「ヤマチク」
6|長崎・諫早市「陣野真理」
7|特別賞–NEXT CREATE–を受賞した皆さま①
8|特別賞–NEXT CREATE–を受賞した皆さま②
9|「九州観光まちづくりAWARD2025」を振り返ろう
text: Nozomi Kage photo: Hiromasa Otsuka
2025年10月号「行きたいまち、住みたいまち。/九州」



































