大分・宇佐市《神谷禎恵》
伝承料理を通して、日本の食文化を伝え紡ぐ
|九州観光まちづくりAWARD2025 金賞 食部門
今年で4回目の開催となった、JR九州が手掛ける「九州観光まちづくりAWARD」が2025年も始動。宿・食・ものづくり・にぎわいづくりなど、旅心をくすぐる、魅力的な取り組みとの出会い。今回、九州観光まちづくりAWARD2025 金賞 食部門を受賞したのは、大分・宇佐市の神谷禎恵さん。暮らしの中で受け継ぐ“伝承料理”を伝える場「生活工房とうがらし」で母の想いを受け継ぎ、おにぎりをはじめ、さまざまな活動で国内外に広げ、食の本質を届けている。
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時代を超えて継がれる、
これからの伝承料理の可能性。

大分県宇佐市の田園風景に佇む「生活工房とうがらし」。高校の家庭科教師だった金丸佐佑子さんが、地元の食を研究するためにつくった台所だけの工房で、料理を伝える非営利の活動を行ってきた。ここでつくられてきたのは郷土料理ではなく、“伝承料理”。レシピではなく、暮らしとともにある“想い”を次の世代に伝えていく料理だ。

現在は、娘の神谷禎恵さんがこの活動を継承。神谷さんのことは3年ほど前から行う活動「おにぎり神谷」で知る人も多いだろう。「お米は日本人のアイデンティティ」を掲げ、ライスツーリズムをテーマに、国内外の多くの人に、炊きたてのご飯で握ったおにぎりを手渡してきた。「大阪・関西万博」でも、おにぎりのアドバイザーとして活躍する存在だ。「私のおにぎりの活動も、食をどう伝えるかという伝承料理がルーツなんです。昔からお米で命をつないできた私たちのDNAが喜ぶ食の本質をおにぎりで伝えたくて」と神谷さんは話す。
「今日は、母方の祖母と父方の祖母から伝承した料理をお出しします」と審査員に振る舞われた料理の滋味深い味わいは、審査員一同の感動を呼んだ。
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今後は「おとなの家庭科塾」に力を入れたいという。「家庭科の時間が減ってしまったことは、日本の食や暮らしの衰退を招いた要因のひとつ。母はそう感じていましたし、実際に求める声も多いんです。祖母は私の母にあたる娘たちに、母は生徒さんや地域の人に、私は生産者や料理人の方、海外の方に。少しずつ届ける範囲を広げ、伝承料理を伝えてきました」と神谷さん。

工房では、観光案内所ならぬ「関係案内所」として農業者や商業者をつなぐ活動も行う。「田植え後の水鏡のような風景や麦畑、ユズ畑など土地の豊かさも味わってほしいですね」。
菓子研究家・福田里香さんは「つくっていただいたお料理が非常に美味しかった。いま、星付きシェフが各地で伝承料理を学ぶ流れがあります。語り継がれてきた味にこそ、人々が求める食の未来があると思います」と話す。神谷さんの手から伝わる、“湯気ごと握った”おにぎりや料理には、時代を超えて心に響く力がある。

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食への探求心があふれる
“実験的台所工房”

金丸佐佑子さんが高校生と一緒に伝承料理を研究し、手書きのレシピを自費出版。膨大な数のレシピノートに審査員からは歓声が上がった。世界の料理の本など名著が揃う本棚に、金丸さんの目利きの高さがうかがえる。
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ヤマチク
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生活工房とうがらし
住所|大分県宇佐市猿渡553-1
見学|要事前問い合わせ
https://kamiyayoshie.net
1|JR九州による「九州観光まちづくりAWARD2025」、結果発表!
2|福岡・糸島市「前田和子・大串幸男(白糸の森)」
3|福岡・柳川市「柳川藩主立花邸 御花」
4|大分・宇佐市「神谷禎恵」
5|熊本・南関町「ヤマチク」
6|長崎・諫早市「陣野真理」
7|特別賞–NEXT CREATE–を受賞した皆さま①
8|特別賞–NEXT CREATE–を受賞した皆さま②
9|「九州観光まちづくりAWARD2025」を振り返ろう
text: Nozomi Kage photo: Hiromasa Otsuka
2025年10月号「行きたいまち、住みたいまち。/九州」



































