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渋谷PARCOで出合う
アイヌコタンの作家の手業【前編】

2022.2.1 PR
渋谷PARCOで出合う<br>アイヌコタンの作家の手業【前編】
阿寒湖の木工作家・瀧口健吾さんの作品「ククサ」。詳細は本文中をチェック!

北海道の東部・阿寒湖温泉で暮らすアイヌ民族の人々は、豊かな自然とかかわりながらクラフトを生み出してきた。そこには身の回りのものには魂が宿り、カムイ(神)と敬ってきたアイヌ民族の人々の暮らしの知恵が詰まっている。そんな阿寒湖アイヌコタン(集落)の作家たちがつくるクラフトが、2022年2月1日(火)〜2月28日(月)の間、渋谷PARCOの小誌直営店「Discover Japan Lab.」で、「AKAN AINU ARTS & CRAFTS→NEXT× Discover Japan 特別展」として展示販売される。

この記事では、前・後編にわたり、店頭で販売されるアイテムをご紹介。

前編では、バイヤー・山田遊さんが商品開発のアドバイザーとしてかかわった「カロ」と「ククサ」のほか、阿寒湖アイヌコタンの作家たちと他ジャンルのつくり手たちがコラボレーションした「AKAN AINU ARTS & CRAFTS → NEXT」のアイテムにフィーチャーする。

阿寒湖アイヌコタンのメインストリート。アイヌ・クラフトを中心とした土産物店が立ち並ぶ

阿寒湖アイヌコタンを訪ねたのは、山田遊(やまだ・ゆう)さん(右)。山田さんは、IDÉEのバイヤーを経て、2007年にmethodを設立。国立新美術館ミュージアムショップなどのバイイング、イベントの企画・立案、商業施設のプランニングなど多岐にわたって活躍する。今回はアドバイザーという立場から、阿寒湖アイヌコタンでのものづくりにかかわり、二度の訪問とオンラインでの打ち合わせを重ね、作家たちと関係を深めた(左の女性は、刺繍作家の西田香代子さん)。

西田香代子プロデュースの「カロ

にしだ・かよこ。北海道・端野町(たんのちょう/現・北見市)に生まれ、網走で育つ。阿寒湖漁業協同組合での勤務時に、アイヌコタン創設当初から阿寒湖温泉に暮らす西田正男氏と出会い結婚。西田氏の両親が営む「チニタ民藝店」を手伝いながら刺繍をするようになる。その後、秋辺カツミ氏と小島サワ氏に師事し、本格的に刺繍を学び、刺繍作家として活動を開始。現在は、アイヌ舞踊の活動をする傍ら、アイヌ文様の刺繍づくりや後世の育成を行っている。2001年、北海道アイヌ協会より優秀工芸師の認定を受ける。

「カロ」とは、水辺の植物であるガマの茎で編んでつくった「火打ち石入れ」のアイヌ語の呼称。

もともとアイヌの人々が火打ち石入れとして使ってきたカロを、今回、たすき掛けできる現代のサコッシュのような巾着袋としてリデザイン。商品開発にあたり、アイヌ刺繍の作家である香代子さんが阿寒湖アイヌシアター「イコ」で踊る6人の女性たちに指導し、制作している。

素材には、裏地付きの和装にも用いられる上質な布地を藍染した、オリジナルのテキスタイルを使用。素材を無駄なく使えるよう裁断し、一点一点手づくりされる。

「火が貴重だった時代に、火を熾す火打ち石は、生活にはなくてはならない大切な道具でした。このカロは、荷物の重みでひもが口が閉じ、中のものが落ちない構造になっています。シンプルなデザインですが、カロには昔の人の知恵が詰まっているんですよ」

儀式の際にはまず火を熾すくらい、アイヌ民族の人々にとって火はとても大切なもの。前面に施された刺繍には、中のものが守られるようにという思いも込められている。

山田遊さんも「どんなファッションにも合うし、現代版サコッシュのように誰もが日常使いできる機能的なアイテム」と太鼓判を押す。

現代の暮らしにもマッチするファッション性や機能性はもちろん、“大切に伝承されてきた民具を現代の人たちに伝えたい”という香代子さんの思いがたくさん詰まったプロダクトである。

カロ
価格|1万3000円
サイズ|ひも部分W25×D625mm、本体W200×D230×H10(サイズは個体差あり)

23歳の頃から針を手にしてきた香代子さん。その刺繍には身近な自然への敬意と、親から子へと受け継がれてきた思いが込められている。「だからカロづくりにあたっては“つくらせてもらったもの”という謙虚な気持ちをもって取り組んで欲しいと、若手の刺繍作家たちには伝えています」
アイヌコタンに嫁いできたときから、近所の人たちに多くのことを教わったという香代子さん。現在は自身が伝える側にもなり、コタンに縁のある女性たちや県内外の学生たちにアイヌ刺繍を指導することも多い。阿寒湖アイヌコタンに訪れたらぜひ香代子さんの笑顔に会いにいってほしい
阿寒湖アイヌコタンのエカシ(長老)でもある夫・西田正男さんの両親から大切に受け継いだお店。チニタ民藝店の「チニタ」はアイヌ語で「夢」を意味する言葉。香代子さんが手づくりしたクラフトや土産物が並ぶ店内には、まさに夢がたくさん詰まっている

瀧口健吾の
「ククサ」と「ククサストラップ」

たきぐち・けんご。木彫作家。1982年、彫刻家・瀧口政満氏の長男として生まれる。中学時代までを阿寒湖アイヌコタンで過ごし、高校はオーストラリア・アデレードへ進学。オーストラリアでバードカービングに出合ったことをきっかけに、木彫りに興味をもつ。帰国後は父の工房兼土産店「イチンゲの店」で勤務。その後、北海道・浜中町(はまなかちょう)および別海町(べつかいちょう)で酪農業に携わる。2017年、父の死を機に阿寒湖温泉に腰を据えようと店を継ぎ、現在は店を営む傍ら木彫作家として活動する。

木彫作家であり阿寒湖アイヌコタンに「イチンゲの店」を構える健吾さんは、ラップランドのサーミ族に伝わる水飲みの道具「ククサ」を自らアレンジ。

カップ内側の黒く焼けた跡は、炭で焼いた名残。素材にはアイヌ民族の丸木舟にも用いられる、水に強いカツラの木を使用している。北欧のククサは白樺などのコブでつくるが、健吾さんはカツラの角材にコンパスで丸を書き、そこに炭を乗せて息を吹きかけ焼いて穴をあけ、専用のナイフでククサのかたちを彫刻してつくる。そこにアイヌ文様を施し、ククサとは少し異なるかたちの取っ手を付け、最後は蜜蝋で仕上げている。

健吾さんはククサづくりにあたり、アイヌ・クラフトにはないラップランドの人々の技術も取り入れたという。

「薪で熾した火で木材に穴をあける技術がアイヌにはあるのですが、ラップランドのように熾した炭を吹いて木材をくり抜く技法はありませんでした。今回はじめてチャレンジしてみて、すごくおもしろかったです。煙が出る関係で阿寒湖アイヌコタンの工房ではつくれず、今回は北海道・弟子屈町(てしかがちょう)にある父のアトリエで制作しました。アウトドアシーンで使ったり、長く愛用してもらえたら嬉しいです」

取っ手の部分には、アイヌ民族の工芸品・イタ(お盆)にも見られる技法・ウロコ彫りを施したものもある。山田さんも「取っ手のウロコ彫りの触り心地がとても良くて、いつまでも触っていられます。僕もぜひ手に入れて日常の中で使ってみたいと思っています」

健吾さんの奥さまがつくる、希少な素材・オヒョウニレで手編みをしたストラップも販売される。

ククサ
価格|1万6500円
サイズ|W155×D85×H60mm

ククサストラップ
価格|3300円
サイズ|W20×D250×H10mm
(サイズは個体差あり)

お店の切り盛りやアイヌ文化を伝えるツアーガイドも務め、父が残した道具に囲まれた店内工房で作品づくりも行う健吾さん。伝統だけでなく新しい素材やモチーフにも積極的に取り組み、父が手掛けた作品の補修を行うこともある。今回のククサも「イチンゲの店」にて、蜜蝋の塗り直しや、名彫りも受け付けてくれるという
木彫作家の瀧口健吾さん。アイヌコタンで両親から受け継いだ「イチンゲの店」を営み、その傍らで阿寒湖の森でアイヌ文化を伝える自然ガイドツアーの案内役も務める。その寡黙で温かな人柄と、無心で手を動かして生まれるおおらかさをもった作品にはファンも多い
健吾さんが実際に作品をつくり、直接手に入れられる唯一のお店。軒先に掲げられた代々ともに暮らす犬たちのレリーフが出迎えてくれる。運が良ければ健吾さんの愛犬「円空」に出会えることも。店内天井に吊るされた使い込まれた美しい道東の日用品も必見だ

郷右近富貴子の
「アイヌ文様を施した麻生地の藍染のストール」

ごううこん・ふきこ。アイヌ工芸作家、アイヌ歌謡の歌い手。アイヌ料理の店「民芸喫茶 ポロンノ」を家族で切り盛りしながら、祖母などから継承するアイヌの手仕事を探求する。姉・下倉絵美氏(記事後半で作品を紹介)と結成した姉妹ユニット「Kapiw & Apappo」としても活動し、全国各地でアイヌ音楽のライブも実施。アイヌ文化に関する講演や文化交流なども幅広く行う。

アイヌ伝統の文様は、自然と人とが共存共生するアイヌ民族の暮らしにおいて、魔除けなどの意味とともに日々の生活を美しく彩ってきた。

「アイヌの手仕事は素材を山に取りに行くところからはじまる」という富貴子さんは、これまでもオヒョウの木の内皮やイラクサなどの草の繊維を材に、糸からつくったブレスレットなどを手掛けてきた。

今回は「AKAN AINU ARTS & CRAFTS → NEXT」の一環として、自らデザインし下絵を描いたアイヌ文様を施した、麻生地の藍染のストールを制作(受注生産)。グラデーションになるように藍染めし、二つの型を使って順番に抜染(色を抜く)して絶妙な文様を表現した、手の込んだ仕立てだ。

「アイヌの古い着物の絵柄をベースにしながらも、オリジナルの文様を薄いストールの上に描きたいと思いました。こだわったのは藍染とグラデーションの中に浮かび上がるアイヌ文様です。阿寒湖には霧がよく出るのですが、真っ白い霧の中を歩いていると霧の向こうにある木々や草が水墨画の影のようにみえてくることがあります。そういうストールをつくりたい! というのがスタートでした」

藍染は、「天然発酵建藍染」という自然素材由来の原料で藍染を施す北海道・札幌の藍染工房「藍染坐忘」の丁寧な手仕事によるものだ。

アイヌ文様の藍染めストール
価格|3万5200円(受注生産)
サイズ|W55×D170mm(サイズは個体差あり)

アイヌ工芸作家による
アップサイクルプロダクト
「チカイタ」

床州生(とこ・しゅうせい)
アイヌ民族の木彫作家であり、阿寒湖アイヌコタンの劇団で演出家でもあった故・床ヌブリ氏を父にもつ。札幌のデザイン学校卒業後、東京で就職。実家の店を継ぐために24歳で帰郷した後、アイヌ古式舞踊などの伝統文化を学ぶ。その後、阿寒湖アイヌシアター「イコㇿ」の舞台監督を務め、2019年にはアイヌ舞踊とコンピューターグラフィックスを融合させた新しい演目「阿寒ユーカラ『ロストカムイ』」を上演。自身も踊り手の一人として出演する。

渡辺澄夫(わたなべ・すみお)
木彫作家。北海道をバイク旅行している際に阿寒湖に出合い、“来るべくして来た”と思うほど心惹かれる。その後、木彫に興味をもち1986年に阿寒湖アイヌコタンへ移住。アルバイトとして木彫を開始。1994年より、阿寒湖温泉で彫刻作品などを扱う「森の人」を営む。2016年、阿寒湖アイヌコタンに「ニタユンクル」をオープン。阿寒湖アイヌシアター「イコㇿ」のエントランスにそびえ立つ、6本の彫刻を手掛けた一人でもある。

平良秀晴(たいら・ひではる)
京都府生まれ。阿寒湖アイヌコタンで出合った木彫りの模様の美しさに興味をもち、阿寒湖アイヌコタンの店でアルバイトをするために阿寒湖温泉に移住。働きながら木彫りの技術を身につけ、木彫作家として活動するようになる。当時向かいの店で働いていた阿寒湖アイヌコタン出身の女性と出会い結婚。日々アイヌ文化を自身の中に取り入れ技術を蓄積しながらも、楽しく彫ることをモットーに制作に勤しむ。

参加作家:床州生、渡辺澄夫、平良秀晴、瀧口健吾

アイヌ語でチカイタとは「わたしたちがつくるお皿」の意で、今回完成したのは、現代のアイヌ・クラフト作家によるアップサイクル・プロダクトだ。

アイヌ民族の暮らしにおいて、木材に彫刻を施した皿や盆は「ニマ」や「イタ」と呼ばれ、北海道では生活をつかさどる重要なウッド・クラフトとして昔からつくられてきた。このチカイタはレストランで使われなくなった、北海道産の白樺でつくられた皿に、阿寒湖アイヌ・クラフト作家が彫刻し、新しい価値を生み出したもの。集成材の木皿を手仕事でアイヌ・クラフトの伝統的な「イタ」にアップグレードするという例のない取り組みだ。

表面は、アイヌ文化ともかかわりの深い「漆」を施して仕上げてある。漆器は本州との交易によってもたらされ、アイヌの人々の伝統的な儀式にも使われており、その所縁にちなんで用いられた。

チカイタ
価格|3万3000円
サイズ|Φ265×H35mm(サイズは個体差あり)

「アイヌ文様有田焼 皿」

鰹屋エリカ(かつや・えりか)
阿寒湖アイヌコタンで「ハポの店」を営む刺繍作家。店先に座り刺繍など手仕事をする母の姿に惹かれ、17歳の頃より自身も見よう見真似で刺繍をはじめ、自分なりの刺繍を習得する。祖母もまた刺繍作家であり、祖母や母が描いた刺繍や自然をモチーフに、下絵を描いた布地の上に直接刺繍を施す「チンジリ」を得意とする。儀式や古式舞踊の踊り手としても活動。

斉藤政輝(さいとう・まさき)
1958年、秋田県生まれ。高校を卒業し専門学校へ進学後、アルバイトのため北海道へ。そのとき阿寒湖アイヌコタンを訪れたことがきっかけで、民芸品の店で働き、木彫家の道に進む。現在、木彫とアイヌ民芸の専門店「木になる店 サンラマント」を運営。「Anytime,Ainutime!」木彫プログラム「創る時間 木彫体験」のチャームデザインも担当。

阿寒湖アイヌアーティストと佐賀県有田町の有田焼窯元との協働による商品開発プロジェクトから生まれたプロダクト。400年前に九州・有田に生まれ、その匠の技と異文化との交流により世界に知れ渡った歴史をもつ有田焼。その精神性とともにアイヌの人々に受け継がれてきたアイヌ伝統文様。両者の初のコラボレーションが実現した。

この皿は政輝さんらの木彫作家がアイヌ文様を彫った原型を基に型を制作。焼き上がったものに釉薬で色付けをし、再度焼成してつくっている。伝統的な「イタ」に倣い彫り、有田焼の皿に見事に再現された美しいウロコ彫りにも注目だ。
※2月14日~店頭で展示(販売はクラウドファンディングサイトで実施)

磁器の素地の上に呉須と呼ばれる顔料で、アイヌ文様を青一色で絵付けした染付による皿。

見事なアイヌ文様のデザインは、アイヌ工芸作家でアイヌ歌謡の歌い手である郷右近富貴子さんと刺繍作家の鰹屋エリカさんが手掛けた。

エリカさんは「有田焼の窯元とやり取りを重ねる中で、どんどん作品がよくなっていきました。料理やおやつを盛るお皿として、お気に入りの一枚になってくれたら嬉しいです」と語る。日々の食卓でより身近にアイヌ文様を楽しむことができるアイテムである。

アイヌ文様の有田焼の皿はいずれも、クラウドファンディングに参加することで、受け取ることができる。
※2月14日~店頭で展示(販売はクラウドファンディングサイトで実施)

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山田遊さんが商品開発に携わったカロプやククサをはじめ、阿寒湖アイヌコタンの作家たちが手掛けるさまざまなアイヌ・クラフトが期間限定で店頭に集結。通常は現地でしか手に入らない商品も多く並ぶため、ぜひこの機会に店頭でチェックしてみてください!

Discover Japan Lab.
住所|東京都渋谷区宇田川町15-1渋谷PARCO 1F
Tel|03-6455-2380
営業時間|11:00~20:00 ※時短営業中
定休日|不定休

text: Takashi Kato photo: Kazuya Hayashi

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