北海道東川町から発信するSDGs事例|
自然を守る最適解は、家具でした。前編
北海道第2の都市である旭川市に隣接する東川町。旭岳を望み、自然と文化が共生する人口8400人の小さな町が発信するSDGsの取り組みとは? 前編ではプロジェクト立ち上げの背景についてうかがいました。
“長く大切に使いたい”
その想いを育むプロジェクト
東川町は、旭川空港から車で約15分と空のアクセスは抜群だが、鉄道や国道はなく、広大な田園風景が広がる、一見どこにでもある地方の町だ。しかし8445人(2021年2月現在)の町の人口は、この25年間でゆるやかに伸び続けており、加えて人口の約半数が近隣の市町村を含むほか地域からの移住者。さらに、カフェや飲食店などが増えて町に活気を生んでいることなどから注目されている。
そんな東川町はSDGsの取り組みでも、ほかの地域の一歩先を行く。その大きな原動力となっているのが、道内最高峰の旭岳を有する「大雪山国立公園」の一部に町が属していることだ。
大雪山からの豊富な伏流水に恵まれた東川町では、全戸で地下水を使っているため上水道がない。また、食味ランキングで特Aの評価を得る特産品の「東川米」は、ミネラル豊富な水の恵みだ。「いつも町から見える旭岳が、生活に必要な水や米を生み出してくれる。その実感が山や森林、水などの自然を守る意識と暮らしにつながっているのでしょう」と、町役場東川スタイル課の畠田大詩さんは説明する。
また町内には30を超える家具・クラフトの事業所があり、良質な木材を使った美しいデザインで知られる「旭川家具」の約30%をつくるともいわれる「家具・クラフトの町」であることも、SDGsの取り組みが進む背景にある。
加えて東川町では、旭川大学が立ち上げた、地元で生まれた赤ちゃんに椅子を贈る「君の椅子」プロジェクトにも参加。また、小学校の椅子は成長に応じて5サイズから選べ、中学校の入学時には名前入りの「学びの椅子」が配られる。畠田さんは「こうした取り組みを通じて、子どもから大人まで『地域のものを長く大切に使う』感覚を磨いているのだと思います」と胸を張る。
text: Tomoko Honma photo: Tatsuo Iizuka
2021年9月号「SDGsのヒント、実はニッポン再発見でした。」