akordu<アコルドゥ>奈良公園×スペインの融合?!【後編】
犬養裕美子のディスカバー ベスト・レストラン
いまはまだスタートをしたばかり、それほど有名ではないけれど、私イチオシの“期待の星”を探して、ニッポンをめぐります!今回は、奈良県奈良市にあるスペイン料理レストラン「アコルドゥ」を前後編記事でご紹介します。
奈良の素材で編み出す〝記憶〞を呼び起こす味
食事がはじまる前に〝奈良ほうじ茶とハーブ〞でまずは一服。香ばしさと清涼感が口いっぱいに広がる。子どもの頃、夏休みごとに行った、山の家が思い出された。番茶の香り、草むらの青い香りだ。
「アコルドゥ」とはスペイン・バスク語で〝記憶〞を意味する。川島シェフにとって、〝記憶〞は料理の核になる大切なキーワードだ。素材から引き出される香りや色が、記憶を呼び起こし、調理法や盛りつけにつながる。といってもシェフの〝記憶〞をゲストに押しつけるわけではない。料理を味わうその人自身の幸せな記憶を引き出したい。それがシェフの願いだ。
川島シェフは、フランス料理を基本にキャリアを積んできた。フランス料理とは技術、ルセット(料理の材料表)、哲学をすべて体系立てて築いた料理法である。たとえば基本のサラダ。フランス料理では、どこを食べても同じ味になるよう、野菜とドレッシングがきちんと混ざっていなければならない。「でも僕は、塩の利いたところ、そうでないところがあってもいいんじゃないかと思っていたんです。むしろ、そのほうが美味しいかなって」。誰がつくっても同じ味になるために技術やルセットは必要だが、それでは自分という個性はどこにあるか?
そんな想いに悩んでいたとき、スペイン料理界では〝革命〞が起こっていた。泡や液体窒素を用いる〝実験室から生まれた〞現代料理に賛否両論あったが、スペイン料理界の大きなメッセージは「料理はもっと自由であれ!」というもので、これには世界中の若いシェフたちが賛同した。川島シェフも同じ思いだった。中でも「ムガリツ」のアンドーニ・ルイス・アドゥリス氏の料理に惹かれ、34歳のとき、現地へ向かう。憧れの店で出合ったのは70種類もの野菜やハーブを盛りつけ、チーズのスープであえるひと皿。このサラダ、1日として同じ味にはならない。素材自身が成長し、味も変化するからだ。そこに自然の営みを伝える力があった。
「これこそが料理人によるメッセージだ!」と感動した川島シェフ。半年研修して帰国、2008年にモダンスパニッシュ「アコルドゥ」が誕生した。奈良の伝統野菜やこだわりの素材を取り入れた料理は大きな話題になった。
新店舗になって取り組んだのは、環境に配慮した店づくりと素材使い。ゴミを出さない、素材は使い切る。自然と共存するために日々の作業にも気を配っている。
コース10皿前後を食べ終えて感じるのは爽快さ。時に驚きを含ませ、時にユーモアで和ませ、時に気持ちを前向きにしてくれる。川島シェフの料理は不思議な力を宿しているような気がしてならない。
アコルドゥ 夜のコース全皿紹介
料理はどれも川島シェフのイメージを具体化している。「メッセージを理解していただけなくても楽しめる組み合わせになっているので、あまり難しく考えないでください」夜は1万3000円(税・サービス料10%別)。
オリーブと葛城の鴨のハツ
食事の最初にふさわしい、ジューシーなイタリア産オリーブ。そして奈良の食材に関心を寄せられるよう、葛城(古代に賀茂一族という豪族がいた場所。いまは鴨の生産地)の鴨を使用。
野迫川のアマゴ
砕き胡瓜とディル
県南にある野迫川はアマゴの養殖地。「その甘露煮が驚くほど美味しかった」ことを伝えようと、バルサミコで甘く仕上げている。清流の香り、ひんやり感をジェラートに込めて。
大和肉鶏のレバーコンフィと生イカ
古代ひしおとトリュフ風味
ひしおは、醤油のルーツ。万葉集にも記されている日本最古の調味料。鶏レバーとイカのねっとりしたスペイン的な食感にも、古代ひしおの圧倒的な旨みがバランスを取る。
まくわうり
アホブランコとトウモロコシ
アホブランコはスペインの南部ならどこでもある庶民のスープ。スペインでは時々、メロンやブドウなどフルーツを加える。それを日本で再現するなら、まくわうりの甘みでは?
三輪山本の海藻麺
磯の香りとアワビ
三輪山本といえばそうめんの老舗製麺所。海藻を粉末で練り込んだそうめんとアワビの香りが、磯の香りを強調する。海のない奈良だからこそ、海を連想させるひと皿は印象深い。
水辺のエビ 稲藁とハーブ
川島シェフはエビをよく使う。こちらは和歌山産のもの。夏から秋のエビはダシがよく出る。これにハーブ(つるむらさき、ハコベなど)、稲藁の香りを浮かべて。
焼いたハモとビーツのタルタル
山葵、グリーンハーブのモヒート
ハモと土の香りいっぱいのビーツ。ビーツは刻んで和えてあるので心地よい食感に。ハモとビーツを食べながら、鼻に抜ける辛味のワサビ、ハーブのカクテルでリセット。
イディアサバルと八朔
スペイン・バスク地方で生産される羊乳を原料としたチーズ。セミハードタイプでスモーキー。川島さんが使う葛城の八朔は1〜6月に木で熟してから収穫する。甘さ十分。
リコッタのタルト
料理の後、デザートがはじまる前、チーズを使った皿や、野菜を使ったデザートを挟むのが川島シェフのスタイル。リコッタチーズは癖のないチーズ、イチジクのソースを添えて。
果物と人参のコンフィ
ユーカリとバニラ、黒こしょう
野菜もフルーツも自分の周りのものすべてを走り回って集めた、これぞ“ごちそう”というデザート。最後までサービス精神を忘れない、川島シェフのもてなしだ。
開放的な店内と粋な演出
テーブルの上に置かれた小さな箱には、コースの料理名を書いたカードが入っている。「料理 名というよりメイン素材。調理法や素材の説明は口頭で。後は味わうことに集中していただきたいんです」。
アコルドゥ
住所|奈良県奈良市水門町70-1-3-1
Tel|0742-77-2525
営業時間|12:00〜13:00(L.O.)/15:30閉店
18:00〜19:00(L.O.)/22:30閉店
定休日|月曜、不定休あり
料金|昼:6500円、夜:1万3000円(すべて税・サ別)
席数|ダイニング:20席、個室:1室6席
www.akordu.com
text:Yumiko Inukai photo:Muneaki Maeda
Discover Japan 2017年11月号『この秋、船旅?列車旅?』