FOOD

犬養裕美子の「いま行きたいローカルレストラン」

2021.5.7
犬養裕美子の「いま行きたいローカルレストラン」

2017年から日本各地のレストランを紹介する本誌連載を担当している犬養裕美子さんが、日本のローカルレストランの魅力を語り、いま行きたい3店を紹介します。

犬養裕美子(いぬかい・ゆみこ)
子どもの頃からレストランが好きで、料理だけでなく、人を癒す空間とサービスに興味をもつ。ヨーロッパのレストラン文化やアジアの食文化など、幅広いフィールドワークを重ねてきた。その経験から独自のレストラン取材、執筆を手掛ける

なぜ、私はローカルレストランに行くのか?

本誌2017年、11月号から地方のレストランを紹介する連載を書かせていただいている。それまでは海外や東京の新しい店、新しいシェフを紹介するのが楽しかったが、その頃から不可解に思うことが多くあった。都会の飲食店は疲弊している! 理由は明白。この数年間、商業施設が増え続け、その中に入る飲食店も入れ替えが激しくなっている。活気があるのではなく、高い家賃や人件費を払えなくなって撤退していくように感じる。オープンして3カ月くらいは目新しさも手伝って席も埋まるが、半年も経つとすでに「古い」店になっている。店もお客もとにかくスピードが速すぎる。経営者は店も従業員やアルバイトを教育する余裕さえない。2017年、ニューオープンの店は多く景気は上向きに見えたが、閉店も多かった。

そんな風に都会の飲食業界に陰りが見えてくるのに反して、地方におもしろいレストランがポツポツと増えてきた。いわゆるUターンやIターン型なのだろうか? 東京でレストランを営業していたが、そろそろ意識を変えて実家に戻って親子3世代の暮らしを大切にしながらのんびり店をやっていこうと思うとか、以前から農業に興味があって、「野菜づくりをしながらレストランをやります」など。「東京で無理して働かなくても、田舎で余裕をもって暮らせればいいね」そんな気持ちをもった料理人が田舎に移転していった。いわゆる生活意識の変化である。さらに生活拠点の移動にコロナ禍が拍車をかけた。

静岡県静岡市「KAWASAKI」のオーナーシェフ河崎芳範さんは、毎日のように猟場と畑に通って旬の素材を表現している

地方レストランの先駆けといえば、西は和歌山「ヴィラ・アイーダ」の小林寛司シェフ、長野「職人館」の北沢正和シェフ、山形「アル・ケッチァーノ」の奥田政行シェフ。彼らの共通点は地元の素材を個性的な料理でもてなすこと。それは郷土料理ではなく、まさしくそのシェフにしか表現できない料理だ。だからこそ料理人からの支持も厚い。若い料理人は仕事に行き詰まると彼らの店に行き、リフレッシュするという。

我が国ではまだまだ交通の便が悪いところではレストランは成り立たない、という人もいるが、店の魅力が不便さを凌駕する。都会にはなんでもあるように見えるけど、田舎のような自然と時間を楽しむ場所がない。心配ごとはどこにいても同じだ。「とにかくやってみよう」という人たちが動き出した。私も最近は地方にこんなに、魅力にあふれたレストランがあるのかと、毎回感激している。

井上和洋シェフが営む、新潟県三条市の里山に囲まれた「Restaurant UOZEN」。妻の真理子さんの実家である料理店「魚善」の建物をリノベーション

私が地方レストランを好きな理由はヨーロッパ的なゆとりを感じるからだ。休みの日には畑仕事をしたり、ワインの勉強をしたり。無理しない生活がひと頃はやったスローフードの理念と合致するのもおもしろい。

最近、よく聞く「ガストロノミー」は、「美食学」、「美食術」と訳される。少しわかりやすく説明すると「美食を文化や社会的意義などさまざまな角度から分析すること」。昔は限られた食通の間で語られていた用語だが、いまは一般化して美食を話題にするときによく使われる。伝統的なフランス料理を追求するのもガストロノミーだし、時代に従ってかたちを変えて進化する様子を調べるのも、ガストロノミックなアプローチ。地方のレストランを訪れてみると都会より何倍も自由でガストロノミックな料理に出合えることに驚く。

ローカルガストロノミーは今後どうなるのか? 生産地とキッチンは近ければ近いほど、素材は生き生きしている。鮮度のよさは素材本来の味を際立たせる。それはフレンチだろうと、イタリアンだろうと関係ない。シェフたちも料理のジャンルではなく、自分にしかつくれない料理を自信をもって出している。そして店に来なければ味わえないのは、その土地そのものの魅力。水、空気、香りなど、五感を刺激する。

岩手県遠野市「とおの屋 要」の店主・佐々木要太郎さんは、10年の年月をかけて遠野三山のひとつ六角牛山の水を引き込んだ驚鹿の田んぼで遠野1号という米をよみがえらせた

美味しいものをより美味しく楽しませてくれるローカルレストランは、まだまだ増えるだろう。美味しい料理は待っていても出合えない。自分から出掛けて行かなくちゃ。いま、一番輝いている料理は地方にあり。頑張れ、ローカルレストラン! 私の全国行脚もまだまだ終わらない!

いま行きたいローカルレストラン

静岡県静岡市「KAWASAKI

店は静岡駅の近く。一年を通してジビエを扱う。毎日猟に行けるよう、猟場近くに住まいを置く。シーズン中はシェフが自分で仕留めて調理する。特に鳥類が豊富。「命をいただくのだから、一番美味しい状態で出してあげたい」という言葉通り、河崎シェフのジビエ料理はそっと、丁寧に扱って料理していることが伝わってくる。

住所|静岡県静岡市葵区常磐町1-8-5 2F
Tel|054-272-0066
営業時間|12:00〜13:30(L.O.)、18:00〜21:00(L.O.)
定休日|不定休
料金|1万1000円〜

新潟県三条市「Restaurant UOZEN

以前は東京の池尻大橋に店を構えていたが、マダムの実家に戻り、日本料理店をリノベーション。料理の発想も盛りつけもクール。狩猟だけでなく、釣りや野菜を育てるなど、井上シェフの守備範囲は広い。新潟ジビエの美味しさを広めたいと、11月半ばから4月末まではジビエコースを、その後は季節の素材をテーマにコースを用意。

住所|新潟県三条市東大崎1-10-69-8
Tel|0256-38-4179
営業時間|11:30〜15:00(L.O.12:00)、18:00〜22:00(最終入店〜19:00)
定休日|月曜、不定休
料金|7700円、1万4300円(サ別)

岩手県遠野市「とおの屋 要

2011年創業。店主の佐々木さんは、発酵をテーマにした料理人であり、どぶろくの醸造家。いまや世界中で料理人が取り組んでいる「発酵料理」のオーソリティだ。マニアックな人にも初心者にも楽しめる発酵料理を、郷土料理と掛け合わせたコースで用意。どぶろくのペアリングも楽しい。オーベルジュなので宿泊も可能だ。

住所|岩手県遠野市材木町2-17
Tel|0198-62-7557
※完全予約制
料金|5500円、1万1000円、1万6000円
※宿泊の場合は1泊2食付3万1900円〜

text:Yumiko Inukai
Discover Japan 2021年5月号「美味しいニッポントラベル」


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≫とらやがフレンチに?『Restaurant KEI×とらや』

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