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「L’évo レヴォ」富山県利賀村
一軒のレストランが地域を変える【前編】

2021.3.18
「L’évo  レヴォ」富山県利賀村<br>一軒のレストランが地域を変える【前編】
雪深い富山の山奥にある利賀村の中でも、L’évoが建つ田島地区は40年以上前に無人の集落となったエリア。この秘境で「食」から地域を変える挑戦がはじまった

ミシュラン星つきレストラン「L’évo」が、2020年12月末、富山のホテル「リバーリトリート雅樂倶」を後に移転オープンしました。移転先は、人口わずか500人の富山県市村。山奥にある利賀村は、富山の中でも指折りの豪雪地帯。アクセスも、人の出入りも決していいとは言えません。周囲からは「なぜ利賀村で?」、「絶対に無理だ」の声。そう言われ続けてまで、なぜL’évoは利賀村に向かったのか?裏側には、料理人としての理想をかたちにすべく挑戦し続けるシェフの姿と、シェフの料理と想いに突き動かされた、人々の人生がありました。今回は、彼らのL’évoに懸ける想いを前後編記事にてご紹介します。

谷口 英司(たにぐち・えいじ)
1976年、大阪府生まれ。Dotok代表取締役・L’évoオーナーシェフ。高校卒業後に就職したホテルでフランス料理と出合い、国内外で修業。2010年に富山に移り、’14年に「L’évo」を開店。『ゴ・エ・ミヨ東京・北陸2017』の「今年のシェフ賞」、『ミシュランガイド富山・石川2016特別版』で一つ星を獲得。’20年、利賀村に「L’évo」を移転

地域に根ざし、唯一無二の店を実現

富山の食材と、シェフのアイデアや技術が詰まったL’évoの「前衛的地方料理」は、盛りつけ方、うつわ、カトラリーまでが混然一体となって完成する

利賀村は、富山県の南西部に位置する市の山岳地域の村だ。富山空港から車で1時間以上、富山駅からは約1時間半、山道を上っていく。合掌造りの集落で有名な世界遺産の五箇山の近くの山村、と説明すればイメージしやすいかもしれない。

なぜ、そんな山奥にミシュラン星つきのレストランを移転したのか。

「はじめは山菜を採りに来たんです。いまのL’évoが建つ田島地区には、県道から細い坂道を下って、川を小さな石橋で渡らないと来られません。この秘境感が気に入った。ここでなら、薪を燃やしても炭を焼いても誰にも迷惑をかけない。好きなように料理ができると思いました」。こう話すのは、オーナーシェフの谷口英司さんだ。

宿泊施設はコテージタイプで1日3組限定。村内の空き家の箪笥を再利用した家具等、温故知新も感じられる。設計は齋田武亨さん

大阪出身の谷口シェフは富山に来た当初から県内をめぐり、食材の生産者はもちろん、うつわや工芸品、家具の職人、作家との交流を深め、店の大部分を「メイド・イン・富山」で統一したイノベーティブ・レストランの地位を築いた。谷口シェフは「富山にあるのにフランスや他地域の素材を使うのでは、東京や大阪のレストランと変わりません。地域に根ざして富山の生産者さんや作家さんたちとタッグを組んできたから、お客さまがL’évoを目的に富山に来てくれるレストランがつくれたのです」と真摯なまなざしで話す。

「地域創生は、狙ってやるものではない」

レストランのテーブルやチェアはもちろん、ライトやカウンターまで、作家や職人たちとコラボレーションしフルオーダーした唯一無二の作品だ

そんな谷口シェフの信念で移転したL’évoは、利賀村だからこそのパワーアップを果たした。たとえば、敷地内に開拓した農園で育てる野菜や天然の山菜、専用の小屋で焼くパン、シェフ自らが処理・熟成を手掛けるジビエ、村に伝わる伝統食材や郷土料理の知恵──。新生L’évoはこれまでのつながりに加えて、真の地産地消も実現する。

一方、利賀村にはL’évoのスタッフとその家族を合わせて14名が移り住んだ。村は有名レストランの移転先として注目を集め、1日2回完全予約制のL’évoはレストラン利用も可能なので、村内の民宿などに泊まるお客もいる。過疎の村にとっては地域創生の救世主だと思えるが、谷口シェフは言う。

「僕は利賀村の活性化のために移転したわけではありません。そもそも地域創生は狙ってやるものではないと思います。その地域に住んで働き、経済を循環させることで、自然に活性化するのではないでしょうか」。

富山にL’évoがあることで、富山の食材や工芸品の魅力を県内外に発信できたことは間違いない。でもその結果を求めて行動したわけでないのだ。

谷口シェフは「僕も若い頃は料理人に必要なのは“自分の腕”だと思っていました。しかし、富山で多くのクリエイターとともに学び発信することで、料理は“進化”するのだと実感したんです。利賀村でも村の方々に助けてもらっています。僕はここで思いっきり料理をし、さらに進化します」と笑顔を見せた。

マスカルポーネのムースでくるんだあんぽ柿に、液体窒素で固めたリコッタチーズをかけたデザート
富山名産の「大門素麺」を山羊のチーズ、蕗の薹、オリーブ油のソースで
イカ墨を塗って黒づくりにした真鯛をカリフラワーのピュレと共に

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L´évo
住所|富山県南砺市利賀村大勘場田島100
Tel|0763-68-2115
客室数|貸し切りコテージ3棟
レストラン開始時間|ランチ12:00/12:30、ディナー18:00/19:00 ※要予約。提供はコース料理のみ。2万円(税・サ別)
定休日|水曜 ※8月上旬に夏季休業あり
コテージ宿泊料|タイプ別に4万円、5万円、7万円(税・サ別、朝食別途3500円)
IN|15:00 OUT|11:00
Wi-Fi|レストラン棟のみあり ※客室は春頃に開通の計画
施設|レストラン、ラウンジ、サウナ(宿泊者限定)
アクセス|新幹線/富山駅から車・タクシーで約1時間30分、新高岡駅からJR高山本線で越中八尾駅まで30分の後、車・タクシーで約1時間
飛行機/富山空港から車・タクシーで約1時間10分
車/富山ICから約1時間15分、砺波ICから約1時間、福光ICから約45分、五箇山ICから約30分 ※宿泊者に限りJR越中八尾駅まで送迎可(往復6000円)

text: Tomoko Honma photo: Atsushi Yamahira


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