温故知新、改善し続けることでいつしか伝統へ
第4回｜暮らしをつなぐ、愛知県の伝統的工芸品。
受け継がれてきた技術を用い、主に手づくりで原材料にもこだわった品目に与えられる「経済産業大臣指定伝統的工芸品」。愛知県では15品目が登録されています。伝統を守り続けるとともに、新しい挑戦に取り組む産地をめぐる本連載。最終回では、昔ながらの工芸品をつくる一方で、新たな分野にも挑戦するつくり手の温故知新の精神についてひも解きます。
いつの時代も暮らしに寄り添う伝統工芸品
愛知県下15品目の伝統的工芸品の製作現場をめぐると、時代を経ても輝きを失わない昔ながらの工芸品をつくり続ける一方で、多くの企業や職人が、新しい分野へのチャレンジを積極的に行っていた。
岡崎石工品の職人で構成する伝統工芸士会では、「ヨーロッパのように石製品が身近にある環境を提案したい」との思いから、花崗岩製のコースターやプランター、ドアといった生活用品を製作。尾張七宝「安藤七宝店」では、人やペットの写真をプリントした額や、企業へ向けたオリジナル記念プレートといったオーダーメイドの作品を受注するなど、これまでの工芸品にアイデアを加えた新しい商品が生まれていた。
また、従来の素材やかたちに縛られることなく、新しい商品製作へ果敢に挑戦する職人とも多く出会えた。有松・鳴海絞「竹田嘉兵衛商店」では、木綿や絹だけでなく、形状記憶加工を施した布を開発し、絞りの技術を応用して新製品の開発に取り組んでいた。名古屋桐箪笥の「出雲屋」では伝統的な夫婦箪笥だけではなく、マンション等のリビングにもマッチする新たなデザインの総桐チェストを、名古屋節句飾で雪洞をつくる「安藤商店」は、リゾートホテルなどのラグジュアリーな空間を演出する照明器具の開発に着手している。
工芸品で培った職人の高度な技術から生まれる新しいアイテムは、展示会や見本市でも高い評価を得ている。三河仏壇「愛知屋仏壇本舗」では、現代のライフスタイルにも合った新しいデザインの仏壇を提案。全国の仏壇仏具が出品する展示会の新デザイン部門で全国3位となる「伝統的工芸品産業振興協会賞」を受賞し、注目を集めた。三州鬼瓦工芸品「丸市」では、デザイナーと組み、瓦素材でつくった盃を製作。いぶし銀の瓦生地に釉薬を組み合わせた、画期的でモダンなデザインは、世界最大規模の家具見本市・ミラノサローネでも好評を博した。
現在、愛知県では伝統的工芸品の生産者に対して、マーケティングの専門家を派遣し、新たな販路開拓の取り組みを支援する「伝統工芸産業ブラッシュアップ事業」を展開。豊橋筆ではペットの毛を使用したチャームを、尾張仏具では錺金具の技術でネクタイピンを製作するなど、新商品の開発をはじめとしたサポートにより、産地の活性化で実績を挙げている。
愛知県の15の伝統的工芸品において、生活様式の変化によって製品のかたちが変わったとしても、歴史と風土の中で育まれた伝統の技は、暮らしの中にあり続ける。
愛知県の伝統工芸についてもっと詳しく知りたい方はこちら
http://jibasangyo.pref.aichi.jp/
伝統的工芸品が一堂に会する全国大会が開催予定！
全国の伝統的工芸品の製作体験や、展示販売会などを予定。ぜひ足を運んでみてください。
第38回伝統的工芸品月間国民会議全国大会
開催期間｜11月26日（金）〜29日（月）
会場｜愛知県国際展示場「Aichi Sky Expo」ほか
問｜愛知県経済産業局産業部産業振興課
Tel｜052-954-6341
暮らしをつなぐ、伝統的工芸品。
１｜“ものづくり”県の原点とは
２｜“ものづくり”県の礎を築いた15の伝統的工芸品 – 前編
３｜“ものづくり”県の礎を築いた15の伝統的工芸品 – 後編
４｜暮らしの中に息づく温故知新の“ものづくり”
photo: Atsushi Yamahira, Akane Yamakita, Kiyono Hattori text: Arika Inc.（Yasunori Niiya, Yuki Sawai, Makiko Shiraki, Kaori Nagano） illustration: On Yamamoto
2021年3月号「ワーケーションが生き方を変える？地域を変える？」
≫シンプルなフォルムが映し出す色の小宇宙「岩崎龍二のうつわ」というアート
