有松・鳴海絞りを支える
「括り」と「染色」
東海道開通から400年続く地域ブランド
日本遺産の町・有松(ありまつ)。東海道を歩む旅人によって名が広まった「有松・鳴海絞り」の品質を支えてきたのは、職人の手仕事でした。
東海道で生まれた有松絞は
江戸期のトップファッション
旧東海道に面して豪壮な商家や江戸情緒を感じる土蔵が建ち並ぶ有松。1610(慶長15)年に竹田庄九郎によってはじめられ、尾張藩の支援を受けて発展した「有松絞」の産地として、広くその名が知られている。
この絞り染めでつくられた反物や手拭いは、東海道を往来する旅人が土産物に買い求め、全国的に大流行。歌川広重の浮世絵にも描かれた。
絞の産地として、製造から販売までひとつの町の中で行うスタイルは、現在も変わっていない。
技術を紡ぐ職人たち
100種類以上の多彩な技
一人一芸で受け継ぐ「括り」
図案に沿って生地に綿糸を通して締め上げる「括り」。括られた部分だけ染料が染み込むことなく、緻密で多様な模様が生み出される。
「巻き上げ絞」、「三浦絞」など、模様ごとに名づけられた技法は100種類以上。それぞれ加工方法や必要な道具が異なるため、有松の括り職人は数ある技法の中からたったひとつだけを受け継ぎ、その技法のみを専門的に行う「一人一芸」を守り続けてきた。生地の中に複数の模様を施す場合は、模様の数だけ異なる職人の手を渡り、一枚の「括り」が完成する。
伝統工芸士にも認められた荒川叶江さんは、この道80年以上の大ベテラン。図案に沿って一定の間隔で縫うことで不規則なシワを作り出す「杢目絞」のスペシャリストだ。「布の表と裏で同じ針目を維持しないといびつな模様になります。でも、まっすぐ過ぎると不粋に見える。わざと少しだけずらすことで、木の断面に見えるよう模様をつくるんですよ」と、針を丁寧に動かしながらそのコツを教えてくれた。
「括り」の技を未来に伝えるスクールも開催
括り職人の後継者育成を目的に、愛知県絞工業組合では2009(平成21)年から「絞りLab」を開講。受講者は3年間にわたり伝統工芸士から直接指導を受け、「巻き上げ縫い絞」、「三浦絞」、「横引き鹿の子絞」の三技法を学ぶ。
愛知県絞工業組合「絞りLab」
住所|愛知県名古屋市緑区有松町3405
Tel|052-621-1797
http://arimatsu-narumishibori.com
素材・技法に合わせて
最適な色を導く「染色」
括り職人の手によって丁寧に絞られた生地は、専業の染工房へと運ばれ、染色工程へと移る。染料を溶かした湯に生地を浸けて染める「浸染め」が行われるのが一般的だ。また、たとえば三浦絞であればにじみのない模様を出すために糊を張り防染するなど、括りの技法に合わせた染め方があるという。「括りの職人さんによって生地を締める力の入り具合が異なるので、誰が括ったのかも考慮して染めます。同じ町の中でつくられており、お互いの顔と仕事を見ることができるからこそかなう微調整です」と語るのは、久野染工場の4代目・久野剛資さんだ。
江戸時代から現在まで、約400年もの間、新素材の誕生やトレンドの変化など、絞の周辺環境は激変。有松はその変化を受け入れつつ、産地であり続けてきた。「同じことをしているように見えて、常に新しいものを受け入れる伝統が根づいています。先人の技を受け継ぎつつ、未来へとつないでいくことが、我々有松・鳴海絞りに携わる職人の使命です」。
絞染色 久野染工場
住所|愛知県名古屋市緑区境松1-609
Tel|052-621-1041
https://shibori-zome.com
有松の魅力を動画で楽しむ!
令和元年5月、日本遺産に認定された有松。重伝建の町並み、絞染などの魅力を動画で公開中です!
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text: Yasunori Niiya(Arika Inc.) photo: Koji Honda
2021年3月号 特集「ワーケーションが生き方を変える?地域を変える?」