HOTEL

建築家 永山祐子さん編
宿づくりのプロに聞くリセットしに行く宿

2022.6.3
建築家 永山祐子さん編<br><small>宿づくりのプロに聞くリセットしに行く宿</small>

慌ただしい日常から距離を置いて頭の中を解放したい。はじめての土地で、新しい何かをインプットしたい。そんな気分にふさわしい宿を、宿のスペシャリストたちに教えてもらった。

<教えてくれた人>
建築家 永山祐子さん
1975年、東京都生まれ。昭和女子大学生活美学科卒業後、青木淳建築計画事務所を経て、2002年、永山祐子建築設計設立。代表作は「ルイ・ヴィトン京都大丸店」など。大学で非常勤講師を務める

リノベーションホテルに泊まる楽しみ

これまでリノベーションホテルに携わってきた建築家の永山祐子さん。そのうちのひとつ、群馬・四万温泉の「積善館」は、『千と千尋の神隠し』の舞台ともいわれる伝統ある湯宿だ。江戸時代初期からの歴史をつなぐ本館は日本最古の木造湯宿建築。山の傾斜に沿ってさらにふたつの旅館棟があり、永山さんがかかわった2部屋は、家族も好きでよく泊まりに行くのだそう。「あまり大げさに変えたくなくて、欄間をガラスにしたり、引き戸をサイドに寄せてコーナーの景色を楽しめるようにするなど、さりげなく手を加えています」

同じく永山さんが手掛けた愛媛・宇和島の「木屋旅館」は、明治時代の面影を残しつつ、ユニークな仕掛けのある一棟貸しの宿としてリスタートした。2階の床の一部をアクリルにして上下で視線が通るようにしたり、照明に色をつけて演出できるようにしたりと、体験型ホテルとしての役割も担っている。

ⒸNobutada Omote

四万温泉 積善館
住所|群馬県吾妻郡中之条町四万温泉
Tel|0279-64-2101
料金|1泊2食付 本館8800円~、山荘2万5300円~、佳松亭3万1900円~(税込、入湯税別)
https://www.sekizenkan.co.jp/

ⒸNobutada Omote

木屋旅館
住所|愛媛県宇和島市本町追手2-8-2
Tel|0895-22-0101
料金|一棟貸し(2名〜)1泊軽朝食付3万3000円〜
http://kiyaryokan.com/

2019年、京町家に新たな命が吹き込まれた。伝統の数寄の精神を感じる本館11室と、現代的な和風意匠の新館12室からなり、日本の美を体感できる

そんな永山さんがプライベートな旅でも気になるというのがリノベーションホテル。京都建築賞の審査員として訪れた「Luxury hotel SOWAKA」は、後に実際に泊まってみて、その建築美に圧倒されたという。SOWAKAはその年の最優秀賞を受賞した。

「京都にリノベーションホテルがたくさんある中で、非常に完成度が高くて驚きました。築100年を超える元料亭の町家を生かした本館と、RC造で新築された新館が見事に調和し、ひと部屋ごとにまったく違う設計になっていて、随所に空間的な工夫があります。もともと手をつけるのが大変なところで、壊して建て直す検討もされていたそうですが、消防や建築などのいろいろな規制を解決しながらつくられ、昔のものがうまく生かされています」

Luxury hotel SOWAKA
住所|京都府京都市東山区下河原通八坂鳥居前下ル清井町480
Tel|075-541-5323
料金|1泊2食付3万3275円~(税・サ込、宿泊税別)
https://sowaka.com/

1686年創業の旅館を再生し、コンセプトもデザインも異なる2つのホテル「松本本箱」、「小柳」が誕生。エリア活性の目的でハードサイダー醸造所も併設

SOWAKAが洗練された和の空間であるのに対し、同じくリノベーションホテルとして知られる長野・松本の「松本十帖」は遊び心満載なのが印象的だと永山さん。こちらは江戸時代からの歴史がある旅館を再生したもので、敷地内に、本にどっぷり浸かれるブックホテル「松本本箱」と、子どももウェルカムな「小柳」のふたつのホテル、地元の人も利用できるベーカリーやレストラン、ハードサイダー醸造所まである。

松本本箱にはかつての大浴場を利用したブックスペースがあり、タイル張りの浴槽に腰掛けて本を読むとなんとも不思議な気分に。「かつての浴室には絵本の棚が迷路のように置かれ、浴槽がボールプールになっているなんて、子どもは楽しいですよね。SOWAKAではもともともっている日本建築のスケールを味わえますが、松本十帖では、新築では発想すらない不思議な場所ができている。その違いもおもしろいです」

松本十帖
住所|長野県松本市浅間温泉
Tel|0570-001-810(12:00〜17:00)
料金|1泊2食付2万3888円〜(税・サ込)
https://matsumotojujo.com/

編集のし直しで伝わるものが変わる

「星野温泉旅館」をルーツに、2005年に誕生。「谷の集落に滞在する」をコンセプトとし、エネルギーの自給自足など日本の宿業界に新風を吹き込んだ

リノベーションは、そのものがもつ要素を「読みかえる」ことで、昔の思いを受け継ぎながらも、新しい価値観を提案できると永山さんは言う。「編集のし直し、といった感覚です。編集の仕方で伝わるものが変わるのは空間も同じ。その建物が本質的にもっている空気感が何でつくられているかを見極めて、そこを残し、あとは削ぎ落としていきます。古い旅館は長い年月の間に余計なものがくっついていることが多いので、最初は削る作業なんです」

そんな永山さんのリノベーションの原体験は「星のや軽井沢」だそう。親の別荘があった軽井沢には幼少の頃からよく訪れており、子ども時代に生まれ変わったホテルに胸が高鳴った。「自分の中で印象の薄かった星野温泉旅館が、時を経て水辺を小さなヴィラが囲む夢みたいな場所になっていて、小さいときから入ってみたいと思っていました。大人になってそれが実現したんです。」。水が流れる広大な谷に軽井沢の生態系が凝縮し、静寂の中、非日常を心ゆくまで味わえる。

星のや軽井沢
住所|長野県北佐久郡軽井沢町長倉2148
Tel|0570-073-066
料金|1泊食事なし11万2000円~(税・サ込)
※通常は2泊より予約可
https://hoshinoya.com/karuizawa/

text: Yukie Masumoto, Misa Hasebe
Discover Japan 2022年5月号「ニュー・スタイル・ホテルガイド2022」

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