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シェフ自ら狩猟するジビエと野菜がテーマのレストラン
静岡市「KAWASAKI(カワサキ)」
犬養裕美子のディスカバー ベスト・レストラン

2021.3.6
シェフ自ら狩猟するジビエと野菜がテーマのレストラン<br>静岡市「KAWASAKI(カワサキ)」<br><small>犬養裕美子のディスカバー ベスト・レストラン</small>

思いがけないところに、思ってもみなかったいい店がある。日本のレストラン文化はこんなに奥深い!と感激する店を探してきました!今回は、自ら猟に出るシェフが営む「ジビエと野菜」をテーマにした静岡県静岡市のレストラン「KAWASAKI(カワサキ)」を紹介します。

犬養裕美子(いぬかい・ゆみこ)
東京を中心に世界のレストラン、食文化を取材。最近は日本の地方に注目。郷土料理を守るだけでなく、その土地の生産者とともに新しいレストラン様式に挑戦するシェフを取材。農林水産省表彰制度「料理マスターズ」審査員

ジビエと野菜がテーマ。
シェフは毎日のように 猟場と畑に通い、
旬の素材を皿の上に表現する

店内には山鳥の羽でつくったブーケをはじめ、ジビエを使ったオブジェがさりげなく飾られている。鹿の角の間に飾られているのは長野県諏訪にある諏訪大社(農耕狩猟の神)のお札

静岡駅近くに「ジビエと野菜のレストラン」があるという情報を得て「どうしてそんな街中にあるの?」と興味を惹かれた。調べてみると、オーナーシェフの河崎芳範さんは、都内のレストランで修業中、「ビオファームまつき」の有機野菜の美味しさに感動し、休みの日には畑に通うようになったという。あるとき、同じ敷地内に建てる「レストラン・ビオス」のシェフにならないか、という話が来て、29歳でシェフになった。それを知って思い出した!  2009年に私は取材で河崎シェフに会っていた!「キッチンから外に出ると畑。毎日育つ野菜の思いがけない部分の美味しさを発見するのが楽しい」と話していた若きシェフの笑顔を思い出した。その後、4年間シェフを務め、’14年に独立。ジビエと野菜をテーマに、しかも自分で撃ったジビエを中心に使うという素晴らしい成長ぶり。ジビエ好きとしては行かないわけにはいかない。訪ねて行ったのはジビエの最盛期。河崎シェフもフル回転の忙しさだった。

毎日通うからこそ、ジビエに対する知識も銃を扱うテクニックも精度を極める
ライセンスを取得して今年で10年目。よ うやく待望のライフルを使用できる。所持している銃の中には地元の猟友会から譲り受けた国産の貴重なものもある

河崎シェフの一日は日の出とともにはじまる。毎日猟ができるよう、住まいは富士宮の猟場の近くにある。シェフにとって自然の中に身を置き、獲物を追う時間は特別なものだという。「猟に行く理由はその鳥が何を好み、どんな環境で育ったかがわかること」。そんな情報が料理にストーリーをもたらす。猟を終えたら、野菜の生産者4カ所を回る。そのうち2カ所はかつて「ビオファームまつき」で一緒に働いた仲間の畑だ。「住まいと店の往復2時間はきついと思うこともあります。でも、将来は富士宮でオーベルジュをやりたいので」。だから決めたことはやり遂げる。その結果、価値ある素材が手に入るのだ。素材の調達、保存、そして料理。すべてを河崎シェフ一人でやる。富士宮の空気と水に清められたジビエ料理は、四季を表現する皿でもある。春になれば山菜とジビエの組み合わせも楽しみ。季節ごとに訪れたい店がまたひとつ増えた。

ある日のジビエコース
ワイルドなジビエ料理ではない。
デリケートな素材の組み合わせに喝采

ジビエコース1万2000円はアミューズからデザートまで11皿の中、7皿前後にジビエを使用。素材の9割は富士宮産だ。河崎シェフは基本的に海の魚は使わない。淡水魚のみ。こればかりは自分で釣るのは無理なので、養殖場で仕入れる。冬のジビエで興味深いのはヒヨドリ。清水産のミカンを食べているのでミカンの風味を感じるといわれる。素材を前にしたとき、河崎シェフの頭の中にもミカン畑とヒヨドリがふっと思い浮かんだのだろう。そこで、オレンジのリキュールをほんの少しプラスした。

ヒヨドリのビスク(スープ)を口にするとき、私たちはシェフの経験を一瞬共有する。目を閉じれば、その風景が見えてくる。

1. 山の恵み

手前は自家製の豚の生ハムで巻いたトンビ舞茸(繊維が強いのが特徴)とゴボウ。噛み締めると香りが広がる。奥は小麦粉と卵白の薄焼き生地の上に熊の手の肉からとった煮こごり。コースは洗練されたひと口から。

2. ジビエ

冬の狩猟時期限定のテリーヌ。月ノ輪熊、富士山麓本州鹿、下田産猪、マガモ、カルガモ、コガモ、キジなど毎回使用するジビエが変わる。添えてあるのはプルーンのピューレ、ピンクの花びらはホトケノザ。

3. ニジマス

河崎シェフの魚料理はすべて富士宮産の淡水魚、ニジマスやイワナを使用する。このニジマスは半身を焼いて鮭をイメージ、半身はレアという細心の注意を払って仕上げた。サフランとカブの葉のソースの彩りが美しい。

4. 熊 ポットベラ

熊だけは富士宮産ではなく、信頼する猟師が東北に行って仕留めたものだけを使う。そのバラ肉をベーコンにして、ポットベラというジャンボマッシュルームとソテー。コクのあるベーコンの脂がインパクトあり。

熊は信頼する猟師から仕入れる。今シーズンは月ノ輪熊がいい状態。ポットベラは富士市の長谷川農産のマッシュルーム。こぶし大の巨大なキノコは、ひとつ250g!熊のベーコンの脂と相性抜群。

5. ヒヨドリ

ビスクとは生クリームで仕上げた甲殻類のスープのこと。これは静岡県清水産のミカンを食べたヒヨドリで出汁を取ったビスク。「出汁にしたとき、ほんのりミカンの香りがすることから、仕上げにオレンジのリキュールをプラス」。

信頼できる生産者に感謝。
有機野菜だけで彩られた極上のひと皿

6. 野菜

河崎シェフが信頼を寄せる農家4軒から厳選した野菜のバター焼き。ビーツ、ゴボウ、タマネギ、里イモ、サツマイモ、カブなど。「野菜一つひとつが美味しくなければまとまらない。農家さんありきのひと皿です」。

7. キジバト

メインのジビエはキジバト。バターを使わず、シンプルにローストして皮をパリッとさせる。アクセントは、わらを燃やしてつける即席の燻製香のみ。脚などを手で持ってしゃぶりついたほうが美味しい。

8. 本州鹿

鹿のスネ肉をスパイスで煮込み、ご飯を加えておじや風に煮込む。塩麹で風味づけして最後にセリをのせて出来上がり。締めのご飯ものとして人気の一品。食欲に火がついた人は次のラーメンも注文可能。

9. 猪 鹿 鳥

最近は締めにジビエラーメンも用意している。猪と鹿で取ったスープがまるでコンソメのようにさっぱり。鹿と猪の挽肉を詰めて鳥で巻いて煮豚風に仕上げた具をのせたシンプルなジビエラーメン。

10. 焼きナス

ナスが大量に採れる時期に考えたデザート。まとめて仕入れ、アイスクリームに加工して保存。焼きナスの香りがちゃんと生きている。ショウガ汁を添えて味わうとナスの味が引き立つ。

11. 酒粕

酒粕風味のブランマンジュにハイビスカスとパッションフルーツのソース。牛乳、生クリームに酒粕を混ぜると甘酒のよう。甘酒にショウガと同様に、酒粕にフルーツの酸味が合う。

ジビエを引き立てるワイン

右から「王道」は凝縮感「シャトー・ラ・ネルスのシャトー・ヌフ・デュ・パプ」8800円。「ユニーク」甘口のアルザスワイン! 「ローリー・ガズマン ゲベルツトラミネール」9800円、「ひねり」は南アフリカの白・「ホワイトスワートネット」9800円。

シェフをサポートする野菜の生産者

NO BLUE
渡邉親(わたなべ・いたる)さんは、河崎シェフと同じ時期に一緒に仕事をし、2014年独立。当初は最大60種もの野菜を生産していたが、’19年から巨大ゴボウ「オデオゴボウ」の生産に切り替える。甘く、軟らかく、日本らしい味。料理人の創造力を刺激する素材をつくっている。

巨大ゴボウ「オデオゴボウ」はほかにはない、ここだけの素材

ゆのさや農園
片山康嗣(かたやま・こうじ)さんはさまざまな仕事を経て、30歳で有機農法に出合う。農薬を使わず、野菜のもつポテンシャルを生かして、その土地の個性を表現した野菜づくりを目指している。安心、安全、美味しいがテーマ。毎月、旬の野菜を詰めた「旬の野菜セット」が好評。

水も空気も美味しい富士宮だから安心して食べられる野菜

オーナーシェフ 河崎芳範(かわさき・よしのり)さん
1978年、兵庫県生まれ。23歳で日本料理店で修業。後にフランス料理に転向、東京「レストランキノシタ」、「ポワロー」、「ラミティエ」などで修業。「ビオファームまつき」の野菜に出合い、「レストラン・ビオス」で4年シェフを務め独立。2014年「KAWASAKI」オープン

KAWASAKI
住所|静岡県静岡市葵区常磐町1-8-5 BROOKLYN SQUARE2F
Tel|054-272-0066
営業時間|12:00〜13:30(L.O.)、18:00〜21:00(L.O.)
※営業時間等は要確認
定休日|不定休
料金|デギュスタシオン1万円、ジビエコース1万2000円(共に税別・サ込)

text:Yumiko Inukai photo: Muneaki Maeda
Discover Japan 2021年3月号「ワーケーションが生き方を変える?地域を変える?」


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