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今西酒造・今西将之さんとめぐる、
酒から奈良の風土に触れる旅【前編】

2020.11.21
今西酒造・今西将之さんとめぐる、<br>酒から奈良の風土に触れる旅【前編】
「大神神社」の拝殿。三輪山をご神体とするため本殿はなく、この拝殿を通して三輪山を拝む。神祀りの原初の姿のひとつ。拝殿は1664年に再建された国の重要文化財

1660年に創業した「みむろ杉」醸造元「今西酒造」の14代当主・今西将之さん。日本酒造りの聖地である三輪で生まれ育った彼が、土地の歴史と紡いできた風土を感じられる旅を、酒をキーワードに提案します。多くの人が訪れる場所でありながら、いまなお変わらない景色が残る三輪。前編では、その豊かさの源泉に触れていきます。

『日本書紀』にも記述がある、酒造り発祥の地・大神神社。そのお膝元に唯一残る今西酒造は、360年以上、「みむろ杉」、「三諸杉」という銘柄で酒造りを行っている

清酒の原点は奈良にあり

菩提山正暦寺
清酒発祥の地と知られ、現在も毎年1月に酵母の仕込みを行う。2匹の龍に囲まれたかのような雄大な山の敷地内には、多くの紅葉が鮮やかに広がり「錦の里」とも呼ばれるほど。散策をしやすいように展望箇所などを増築中。1916年に再建された本堂も見事

三輪山に祈りを捧げる。神祀りの原初の姿を残すことから、日本最古の神社とも呼ばれているのが大神神社だ。そのお膝元でいまなお酒造りを行う今西酒造の当主・今西将之さんにアテンドをお願いした今回の奈良旅。そのキーワードに設定したのは、「酒」。

「大神神社と酒は切り離しては語れません。ただ、この三輪という土地は酒だけじゃなく、日本最古の文化を生み、育み続けた豊かな土地。今回は、日本酒を通してこの三輪周辺、中和でいまも息づく文化と歴史を感じてもらいたい」と今西さん。

相撲や仏教、能に市……。さまざまな文化の発祥地であるのがこの中和。クニのはじまりでもあった豊かな土地が生み出した文化は、日本全国に広がりいまもその姿を残す。が、中和はその発祥の地であることを素知らぬ顔をするかのように語らない。「道を歩けば歴史に当たる」とは今西さんの言葉だが、ただ歩いているだけでは、その深淵をのぞくことは容易ではない。今西さん自身も「実際のところ、わかりにくいです(笑)。酒蔵でガイドツアーを開催しているのも、歴史や文化の背景を知ってもらえるようにとの思いから」と話す。

大神神社
大物主大神を三輪山に祀る、日本最古の神社。三輪山を中心とした境内は広く、杜氏を祀る活日神社など、複数の神社が存在する。拝殿前からの参拝のほか、片道2㎞の山頂までの登拝も可能。登拝口は狭井神社にあり、往復で2〜3時間ほど。時間があればぜひ
今西酒造
1660年創業。「みむろ杉」、「三諸杉」醸造元。旨いのひと言のために、洗米も10㎏ずつ小分けにして洗うなど、手間暇かけた酒造りを行う。利き酒体験や酒の聖地巡盃ツアーなども開催。9月に吉野杉の木桶を導入した菩提酛専用の酒蔵も完成させ、より文化的な酒造りを開始

大神神社
所在地|奈良県桜井市三輪1422
電話番号|0744-42-6633
営業時間| 9:00〜17:00
定休日|なし
http://oomiwa.or.jp

今西酒造
住所|奈良県桜井市大字三輪510
Tel|0744-42-6022
http://imanishisyuzou.com

風土を感じるペアリング

鰊と茄子の煮物/ みむろ杉 ろまんシリーズ 純米吟醸 山田錦(900円)
奈良野菜を用いたコースの煮物で登場する定番のひと皿。前に出過ぎない日本酒の風味を引き立たせるため、水と酒、少量の黒糖のみで味つけ。日本酒と合わせることで、素材の味わいがよりクリアに浮き出る

そもそも三輪山が酒の聖地と呼ばれるのは、『日本書紀』にも記述があるように、酒造りの名人だった高橋活日命に命じて酒を造らせ、奉納させたことがはじまり。三輪山を中心とする広い境内には、世界でも唯一、杜氏を祀る「活日神社」や、万病に効くといわれる薬水が飲める狭井神社も鎮まり、この三輪山の伏流水が日本酒造りの源泉にもなっている。ただこの当時造られていた酒は、どぶろく。清酒が造られたのは「菩提山 正暦寺」がはじまりとされ、大阪・伊丹から日本全国に船で運ばれたといわれている。

「酒造りの歴史を知ってもらいたいとも思いますが、ここに訪れて感じてほしいのは本質の部分なんです。歴史や背景から透けて見える、この地で脈々と受け継がれてきた理由ともいえる風土こそ感じてほしいです」というのが、今西さんが提案する旅。日々の生活で自然と三輪山への祈りを欠かさず、変わらない景色を残してきた暮らしに宿る原初を感じてほしいというのが旅の真意なのだ。

「そうめんも酒も、もちろん市場や諸所の文化は国があったから生まれたもの。そうした国がなぜここで誕生したのか。実はこの土地がもつ豊かさこそが、そのはじまりだと思うんです。少しずつ変化はありますが、いまもまだ、この景色は侵されることなく昔からの空気を残し続けています。その雰囲気や趣、そして時間は、奈良の観光地ではなく、この中和でしか味わえない固有のものだと思っています」

味の風 にしむら
県外からのファンも多い割烹は、当日オーダー可能な7700円と事前予約が必須の1万1000円の2コースのみ。地元産の米や奈良の野菜(小豆まで!)を中心に、先付けから椀、造りに焼き物、デザートまで8品ほどで構成。メニューは月替り

味の風 にしむら
住所|奈良県桜井市大字粟殿1023-3 スミヨシハイツ1F
Tel|0744-42-7773(要予約)
営業時間|11:30〜、18:00〜20:30(L.O.)
定休日|月曜

 

醸造の余韻に浸る滞在

NIPPONIA 田原本 マルト醤油
奈良最古の醤油蔵を改装した宿。醤油蔵を基に設計された客室は全7室。職人が寝泊まりしていた蔵や原材料庫であった場所を改装した部屋など、どの空間も趣にあふれている。皇室御用達でもあったマルト醤油も現在復興させ、醤油しぼり体験などを開催している

神にあいさつし、この神を中心として栄えた三輪周辺をめぐる旅。「白玉屋榮壽 本店」では、かつて参道を歩く人々を甘味で出迎えた息吹と味に。「味の風 にしむら」では、食中酒として人々の暮らしに馴染んできた酒の洗練された姿と、そして「THE SAILING BAR」では新しく生まれ変わる酒の姿と出合える。その余韻を消すことなく、より高めるかのようなモダンな佇まいに昇華した宿「NIPPONIA 田原本マルト醤油」と「三輪山本 食事処」。昔から紡いできた三輪の歴史と文化を残し、その本質を変えることのない場所をたどることができるとっておきの旅程といえる。

「ただ歩くだけでは難しく、学びながらではないと感じられないモノやコト、そして雰囲気も多いですが、この旅は価値観を変えるはず。原初体験ともいえる、清らかな中和でしか触れられない風土を感じてもらえれば。この場では感じられないかもしれませんが、奈良市内へ戻ったときにきっと気づくことができると思います」

NIPPONIA 田原本 マルト醤油
住所|奈良県磯城郡田原本町伊与戸170
Tel|0744-32-2064
料金|2名1室朝食付5万1000円〜(税・サ込)
https://maruto-shoyu.co.jp

三輪山本(食事処)
住所|奈良県桜井市箸中880
Tel|0744-44-2001
営業時間|売店10:00〜17:00、9〜3月は〜16:30、食事処11:00〜15:00(L.O.)
定休日|9〜3月の月曜に不定休あり
www.miwayama.co.jp

≫後編を読む

text: Takeshi Tsuchihashi photo: Akane Yamakita
2020年11月号 特集「あたらしい京都の定番か、奈良のはじまりをめぐる旅か」


≫日本酒の”新しい”原点と個性が融合!橘ケンチ×新政酒造コラボ酒「涅槃龜橘」

≫歴史と文化が息づく町で暮らすようにステイ「NIPPONIA HOTEL 竹原 製塩町」

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