TRADITION

「輪島キリモト」輪島塗の伝統技法を今に伝える

2020.7.25
「輪島キリモト」輪島塗の伝統技法を今に伝える
右から、3代目・久太郎が1911(明治44)年に製作した夜食膳。伝統の輪島塗の技法で仕上げた「すぎ椀(中)」(1万7600円)。金属製のカトラリーも使えるよう、輪島地の粉(珪藻土)を混ぜた漆で仕上げた「おわん(大)」。(1万7600円)筋をつけることでモダンな装いにした「千すじやま椀(ねず)」(1万6500円)

2019年に渋谷PARCOにオープンした「Discover Japan Lab.」。伊達冠石の台座に輪島の漆塗天板がのせられたテーブルはこの場所の象徴として存在感を放っています。伝統の輪島塗の技術を継承しながらも現代の生活に馴染むうつわや家具をつくる「輪島キリモト」の哲学を探るべく、輪島にある工房を訪れました。

輪島キリモト
代表 桐本泰一さん
大学でプロダクトデザインを専攻。卒業後はオフィスプランニングに携わった後、輪島に帰郷。家業の朴木地業の弟子修業を経て、漆器造形デザインや家具、建築内装などの創作をはじめる

今回、天板に採用した素材。モダンな色合いは、超微粒子のチタニウムの粉を混ぜてつくった白漆をベースに、黒漆を混ぜ合わせグレーのグラデーションを生み出している

地模様のある麻布の微妙な凹凸が光を反射し、見る角度によって違った表情を生み出す。柔らかくも凛とした強さが感じられるテーブルトップ——。これが、輪島キリモトがDiscover Japan Lab.のために仕上げてくれた天板だ。

石川県輪島市で200年以上、木と漆の仕事にかかわってきた桐本家は、代表の桐本泰一さんで7代目を数える。「4代目までは漆器製造販売をしており、私の祖父にあたる5代目の久幸が1929(昭和4)年に朴木地屋・桐本木工所に転業しました」と家系図を示しながら、泰一さんが教えてくれる。朴木地とは、輪島塗では4つに分かれている木地師の職種のひとつで、猫足や片口、銚子など複雑なかたちを得意とする専門職だ。

輪島塗の伝統を引き継ぎながら、泰一さんが大切にしているのは、”木と漆が現代の暮らしに溶け込むものづくり”。大学でプロダクトデザインを専攻した泰一さんは「デザインは人をホッとさせる、気持ちよくさせることだと学び、電流が走ったんです」と話す。「漆を使ったデザインで人を和ませることはできないか。この想いが原点になりました」と振り返る。

卒業後に勤めたオフィスプランニングの会社では、オフィス家具は無機質なものが多く、商業空間に漆の姿がないことを実感。20代半ばで輪島に帰郷して朴木地師の修業を積んだ後は、父・俊兵衛が建てた大型家具もつくることができる工房で、家具や建築内装などの創作も手掛けるようになった。

輪島キリモトで使っている「布着せ」の布は、寒冷紗や麻布。布地や和紙の表情を生かした漆仕上げをするため、麻布は滋賀県の工房でオリジナルのものを編んでもらっている

輪島キリモトでは「伝統的工芸品産業の振興に関する法律」に輪島塗として定義されている技法では下地塗り(中身)にしか混ぜない輪島地の粉を、商品によって中塗りや上塗り(外身)にも使う。泰一さんは「表面に近い部分で再度地の粉を使うことで、金属のナイフやスプーンを使っても傷がつきにくくなります」と説明する。Discover Japan Lab.の天板にも、オリジナルの麻布を張り、漆、地の粉などを塗り込むことで、天板としての強さを生み出す独自の「漆布みせ仕上げ」の技法が施されている。

泰一さんは言う。「輪島塗のいわゆる『定義』からは外れるのかもしれませんが、昔ながらのままにつくる『伝承』に対して、時代に合わせて変化も可能なのが『伝統』なのだと考えています。私は、伝統工芸としての輪島塗を継いでいきたいと思います」。

大型の家具もつくれるようにと天井を高くした工房の1階には、木材を加工する大型機械が並ぶ。2階は木地仕上げと漆作業を行う部屋がある。製作の様子や木地サンプルの見学も可(要予約)

輪島キリモト 輪島工房
住所|石川県輪島市杉平町成坪32
Tel |0768-22-0842
www.kirimoto.net

1972(昭和47)年まで工房として使っていた場所を、ギャラリーと店舗に改装。一般の人が触れる機会の少ない漆を塗る前の「木地」も販売する。桐本木工所の原点「木と漆」が感じられる場所だ

輪島キリモト 本町店
住所|石川県輪島市河井町1-172
Tel |0768-22-7494
営業時間|8:30〜12:00、
土・日曜、祝日〜15:00
定休日|水曜

職人技の色と質感。「輪島キリモト」がDiscover Japan Lab.のために仕上げてくれた天板の魅力に店頭で触れていただきたい。

text=Tomoko Honma photo=Norihito Suzuki
2019年12月号 特集「人生を変えるモノ選び。」


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